破産、悲運、そして「不調」 Pleiten, Pech und Pannen (プライテン、ぺヒ ウント パネン)
破産は、die Pleiteで、Pleitenは、その複数形である。悲運あるいは不運は、das Pech (ch音は色々あるが、ここは「ヒ」)である。「und」は、接続詞で、語尾や音節を〆るd音はドイツ語では清音として発音する。最後に、die Panne、その複数形Pannenをここでは意図的に「不調」と訳した。本来は、事故、故障の意味である。例えば、エンジンの不調で、車が故障したという、少々苦しい「故事付け」である。では、筆者は、なぜ「不調」と訳したか。
上のドイツ語の三つの単語はいずれもP音で始まっている。このような修辞法を頭韻という。それで、その訳の日本語も、破、悲、不といずれもネガティブの意味合いの漢字で、しかも、いずれも、は行音、「は、ひ、ふ」としたかったので、意図的に三つ目を「不調」と意訳したのである。
ドイツ語のPleiteは、もともとは19世紀ベルリンの裏の世界の人間が使っていたという言葉で、破産する前に夜逃げをするという意味の、もともとはヘブライ語である。ドイツ語には、ヘブライ語、またその東欧ユダヤ人が話している「Jiddisch:イディシュ」からの、とりわけ隠語がいくつか入っている。Pleiteもその一つなのである。
ドイツ語のPechは、中高ドイツ語から出来た言葉で、「ピッチ、れき青」の意味もある。昔は鳥を捕るためにこれを使っており、そこから、der Pechvogel (ぺヒ・フォーゲル:v音はドイツ語ではf音で発音)という言葉も生まれている。ピッチで捕獲された鳥、そこから意味が派生して、「運が悪いやつ」をこのように呼んでいる。
Panneという言葉は、もともとはフランス語で、とりわけ舞台上で台詞を度忘れして、劇の流れが滞ることを言う。そこから、事故、故障の意味でドイツ語で使われるようになったそうである。
という訳で、この三つの単語の連続で、失敗が連続して止まない状況を指して言うのである。さて、ここから、その日本語訳を、「失敗、失策、そして失念」と、漢字「失」で頭韻を踏む意訳を試してみるのは、やり過ぎであろうか。