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VTuberファンであるあなたに矢車りね・『孵道』実況を紹介する

VTuberファンであるあなたは、VTuberやあなた自身のスタイルにもよるが、常日頃、新しい生放送や動画を視聴しているに違いない。彼ら彼女らも、楽しいことばかりの人生ではないだろうに、私たちが変わらずVTuber文化を楽しめる未来に向かって、努力しているのだろうかと想像すると、「推し」が活動を長く続けられるように自分も精一杯できるだけ応援しようときっと思うことだろう。

しかしながら、時にはあなたも「推し活」の熱狂から冷め、新しいコンテンツを追い続けるのがつまらなく感じられることがあるのではないかと思う。この瞬間が訪れる理由を考える上で、おそらく大いに『暇と退屈の倫理学』が参考になる。この点に関して、私たちはVTuberが生み出す観念や意味を、いつかストップし満足する「浪費」ではなく、どこまでいっても満足をもたらさない「消費」のかたちで受け取っているということだ。そして自分が生きている循環、没入している世界が、客観的に見えてしまって退屈する。

私は今回、単にタイトル通り、過去に行われた、にじさんじ所属・矢車りねの『孵道』実況配信を紹介しようとしているだけだ。当の配信アーカイブを視聴していただけるなら、一つの確実な目的が果たされているので、私の文章がここまでしか読まれなくても私は嬉しい。

ただ、続きを読んだあなたが触発されて、決して大きく話題になったというわけではない、自分の好きな配信や動画、さらにはVTuber以外の楽しみについて紹介してくれたらそれも嬉しいと考え、書き出しを工夫してみた。細かく感想を書く対象となる出来事はどうしても、例えばにじさんじなら、にじフェスはもちろんのこと、3Dお披露目やにじGTA、珍しいところでは消えるミュージカル歌枠など、つまりは「催し物」が多い。そのトレンドから少し逸れ、一人一人のファンが各々離れた位置に足を止めて日常を振り返れば、そこにあなた自身の極めてオリジナルな体験が生じるとは考えられないだろうか。私が知る限り、「推し」の魅力を伝える(「布教」する)ために、過去のコンテンツを厳選することなどは当然のごとく行われている。私の行為・目的は相対化すれば必ず陳腐になるが、はじめにこう書くことで、主体的な個人の意図を強調する。(「催し物」について書かれた文章ももちろんのこと、VTuberとの出会いのエピソードや楽曲の受け取り方について書かれた文章なども私は好きだ。画面の向こう側に重みを感じる。明言するまでもなく、私は他者を尊敬していて、私の提唱に裏の意味はない。)

感想を発信することに苦手意識を持つ大勢のためにだろう、『「好き」を言語化する技術』という本が刊行されているが、特に難しい本ではなく、あなたの文章が読みたいという本だったように思う。最も重要なポイントは、言語化とは細分化のことであり、伝えるとは相手との情報格差を埋めること、文章のゴールとは想定した読者に伝えたいことが伝わることだという3つだったと私はまとめたい。

それではようやく本文に入るが、紹介といいつつ自分用切り抜きのようになり、当の配信内容のネタバレも含むので、気になる方は深く立ち入る前にアーカイブを視聴していただければ幸いである。



矢車りねとは

にじさんじ所属のバーチャルライバー。11歳の少女(公式プロフィール)。SEEDs2期生第3弾のメンバーとして2018年9月25日より活動を開始し今年でデビュー6周年を迎えるが、にじGTAで彼女が発端となり起きた騒動で初めて認知した方も多いと思われる。わりと時々話題になることがあり、最近では3.0お披露目について、MoguLiveの「この動画がすごい! 今週のおすすめVTuber動画(~9月6日)」でも取り上げられた。さらなる詳細は、2022年11月19日のコラム「異様な“自称プロフィール”は積み重ねた活動の歴史 にじさんじ・矢車りねはマイペースに魅力を発揮し続ける|Real Sound|リアルサウンド テック」などで確認できる。

『孵道』とは

インディーゲームサークル「法螺会」から2024年8月14日より配信が開始された短編ホラーゲームである。立体音響を活用した「振り返らずに帰るだけのアンリアルホラーアドベンチャー」であり、ゲーム開発者の笹森簀児氏いわく、「一度も振り返らずに進み続ければ、よほどのことは起こらないようになって」いる。プレイ時間は1周/約20分で、全END回収/1~2時間とのことだ。現在、レビュー全体は「非常に好評」で、作り込まれているのに価格は350円と、お買い得になっている。(Steam:孵道 (steampowered.com) )


配信本編(矢車りね×『孵道』)

「”こんばんは”に切り替えるタイミングっていつなんだろうといつもこの時間帯に配信していて思います」(わかる) [2:49]

プレイ実況は2024年8月29日木曜日17時30分頃開始された。VTuberにしては特異な時間帯にライブ配信をしていると感じる者がもしかしたらいるかもしれない。夕方に生放送している理由を端的に説明するなら、諸事情により夜は大きな声で配信できないからだ。今後彼女の事情が変わって、もっと遅い時間帯に配信することが増えるかもしれないが、夕方は小学生の大部分にとって下校する時間なので、このままでも趣があっていいと思う。2024年6月3日月曜日に『ムベンベラジオ』をプレイしたときは自分から「今学校終わったところで、おうち帰ろうかなと思って」と言っている。本人がしたいように活動できればいい。

「矢車が最も得意としてるやつだ 後ろを見ろって言われても見ないタイプだから」(”何があっても後戻りせず進み続けること”とゲーム内の先生に言いつけられて)(かっけぇ) [10:19]

これを何気なく発言するところに、矢車りねの口の軽さと反抗の精神が象徴されている(?)。矢車りねはかつて、にじさんじに入った理由を「内側から潰してやろうと思って」だったと語っている。(【雑談コラボ】ほぼ初対面!ゆるゆる喋る昼活【にじさんじ/矢車りね/石神のぞみ】 (youtube.com) )

「このガキいいなぁ 矢車の癖に刺さるぞ このガキ」 [12:01]
「矢車だったらこう 10秒ぐらいでLINEに”家着いたけど?”って送るけどね」 [12:50]
「会話でタイムロスしたわー」「タンマ(合計10回)」 [13:23]

矢車りねはいい声で本当に「ガキ」のように振る舞うことがある。これは彼女の面白さのひとつだと思う。彼女について「ガチ恋要素も萌え要素も無い」と評する者も「面白さは充分にある」と評するらしい。
また、この実況では、主人公のセリフの読み上げに彼女の高い演技力が発揮されている。矢車りねは「にじさんじ演技力向上委員会」に、全10回中9回と、積極的に参加している。

最初のゲームオーバー[14:17]

ゲームオーバーが早いことが、矢車らしいとリスナーに笑われる。驚き戸惑う様子も矢車らしいと思う。

リスナーのコメントを拾い、寸劇 [16:36]

(人体のパーツが道に散乱しているのを見て)
(リスナー:「交番に届けよう」)
(矢車りね:「キショすぎるだろ」)

拾得者:「すいませ~ん、腕と生首落ちてたんですけどォ~……、
持ち主が現れたらいいですかねェ~……?」
警察:「この頭が持ち主じゃないですかねー」
拾得者&警察:「あっ、あっ……」の応酬

(リスナー:「​​頭抱える」「​​持ち主が現れなかったら矢車が1割貰えるぞ」「​​1割ください」「​​一割もらえるぜ」「1割どうぞ つ小指」「ゆっくり実況者の残骸…?」「​​拾って持ち主現れなかったらそれ矢車のもんになるよな」「装着しよう」)

VTuberの面白さにはリスナーの面白さが少なからず関わっているとされているように思う。このような「コミュニケーション」がろくでもない展開になることもあるかもしれないが、フィクションのVTuberを描く漫画などの作品でもその楽しさが表現されている気がする。私はリスナーの方に興味を持つことがあり、配信画面よりもチャット欄に注視している場合もあるぐらいだろう。

「胴体とかどうなってんのかな あ、”どう”たいだけにつってw アハハハ ハイ、行きまーす」(え?) [21:07]

ダジャレ。ダジャレしか言わないASMR 販売中。

ぎまん [21:23]
(矢車りねと『孵道』の偶然・シナジー)

髪の長い女の人(異形)が主人公に後ろを振り向かせようと語りかけてきて、立体音響なので、めちゃくちゃぞわぞわする。ホラー。あなたもこれを体験するだけで対価を払いたくなるかもしれない。結局、矢車りねは最後の最後で罠に引っ掛かり、後ろを振り向いてしまう。

VTuberを応援している者で、「奇跡」を目の当たりにしたことがある者は意外とたくさんいると思う。冷静になれば騒いでも詮無いことだが、この縁・つながりはやはり「ミラクル」だと他者に感動や恐怖を共有したくなるような奇妙な現象・事件を、いくつか知っている(「待って震えてる」)。例えば、ぽんぽこちゃんねるのぽんぽこと金長狸の件などだ(ある場所に行ってから、異変が続いています…。 (youtube.com) )。

実は矢車りねのXのアカウントのプロフィールに「パパとママにあいたいです」とある。どういう意味かはさておき、このことを知っていたため、私は『孵道』という優れたホラーゲームの要素以外にも驚愕してしまった。
異形:「私があなたのお母さんよ」
矢車りね:「え、ママ……?」
という流れで矢車が騙されてしまったことを認識して、私の現実と非現実の区別のようなものは一時曖昧になった。VTuberファンにこの配信を紹介しようと思ったのは、狙いを非常にコンパクトにしてしまうと、このためだ。あなたもこういう瞬間が好きかと思うので、この配信がとてもいいと伝える技量が足りなくても、共感してもらいたかった。

黒くなった画面で彼女が悔しがりむかついているのは、これがあくまでゲームだからで、もしゲームでなかったら、台パンしてもいられず、どうなっていただろう。

本人も再開してすぐ、「矢車、あのー、お母さんに会いたいということをずっと言ってるんですけど、ここで会うことになるとはって感じだよね。ホントにママなのかな。え、矢車って哺乳類じゃなかったってこと? 卵ってことは。矢車って哺乳類じゃなかった……? こいつがママなのだとしたら、違うっぽいよ、どうやら」と語った。そして異形のことを母親ではないと否定していたが、次の囁きのバリエーションで「あなたがいいマジ?」と自己肯定感に飢えているため覚悟が揺らいだ、と思いきや、また次のバリエーションで否定に戻った。「ママー……、じゃなーい! でしょ、振り返らないもんね」とゲームにおける障害を乗り越えた。

ちなみにリスナーの反応は「死に設定出してきたな」「弱みにつけ込んだ許せないやつだ」「​​6年ぶりに出てきたママにあいたい設定」などがあった。

「お? ババア! ババアとか言うなよ……! おばあさんだろうが……! 言葉には気をつけろよ……! 年配は敬え……!」
「こんにちはー ただいまですー あの、おかえりって言われたときにただいまって返すべきなのか それとも あ、こんにちはー へへ、へへー って返すべきなのか ちょっと困るよねー」
「矢車ちゃんおかえりなさいー ってとき ○%×$☆♭※!#▲コンニシャース これで返しちゃってるからさー 普段」 [26:34]

一人でたくさん喋っていてすごいし面白いしすごい。

ポンッ [28:30]

賽銭。

かごめかごめエアプ [36:30]

【孵道】かごめかごめエアプで詰む人【にじさんじ/矢車りね】 #shorts (youtube.com)

閃き・興奮 [47:24]

ダジャレに親しむ言語センス、賢さが疾走感のある盛り上がりを生んだ。『孵道』のストーリーについて、笹森簀児氏は、「どの過去作よりも多くを語らず、物語という物語がありません」という。プレイヤーには本作を解釈してよく味わう機会が与えられているということだ。ひとまずゲームをクリアした矢車りねは、「山道」と「産道」の音の一致に気が付いた。あまりの衝撃に本人も息をのんでいる。リアルタイムで視聴していたリスナーも、彼女が組み立てていく考察には素直に賛同するしかなかったらしい。矢車りねは『孵道』の魅力を理解し、この面白いゲームをみんなにプレイしてほしいと締めくくった。

おわりに

矢車りねの配信の良さは伝わっただろうか?
矢車りねのファン・リスナーがこれを読んだらぜひ教えてほしいし、そうでないあなたも、冒頭に述べた通り、あなたのやり方で、もしよければあなたが好きな配信や動画などについて書いて発信してほしい。また、私はきっと他にも何かを書くのでスキやフォローをしていただけると励みになる。


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