【邪神のレビュー没台本】ある日から使えるようになった転移魔法が万能で生きるのが楽しくなりました 編

【注意事項】

・本記事に作品、作者、およびこの作品に関わった多くの方々を貶める・誹謗中傷する意図はありません。
・あくまで個人(個邪神)の感想です。適正な指摘があれば取り下げたり、訂正を行います。
・問題が発生した場合、予告なく本記事を削除させていただきます。ご了承ください。

【関連リンクなど】

まるせい(著)、イセ川ヤスタカ(絵) 『ある日から使えるようになった転移魔法が万能で生きるのが楽しくなりました』
ファンタジア文庫
令和元年十二月二日

公式サイト→【https://fantasiabunko.jp/special/201912tenimahou/】
邪神のツイッタアカウント→【https://twitter.com/Thoa_Ghatano】

【指摘する点】

・まず個人的に気になったこと
 あらすじが気持ち悪い。これでは難癖に近いので補強すると、大人気の女子高生アイドルを交通事故から救って見初められてマネージャーになって欲しいと言われると書いてある点。ここに気持ち悪さを感じる。作者の理想が出過ぎている、と感じてしまった。エロを売っているように感じる。
 あと轢かれそうになってて「トラックに撥ね飛ばされた後に助けられたのかな?」と思うのはどうなんだ。私の勘違いじゃなければ普通の人間はトラックに轢かれそうになったら「轢かれて死ぬ」と考えると思うんだが。しかもここが後の展開に繋がってくるので余計モヤモヤする。
 あと能力名。転移魔法って名前を使いたかったのかもしれないけど自身が瞬間移動するのはテレポーテーションの方がしっくりくる。ガメラの亀みたいにテレポーテーションという概念が存在しない可能性があるのでこれは難癖に近い。ネーミングへの否定は出来ればしたくない。
 描写の薄さも問題点かと。後述のキャラ、シリウスくんとの決闘シーンだが、どんな場所にいるのか一切書かれていない。巻頭カラーでなんとか分かるが、本文での描写はない。

・挿絵
 巻頭の見開き三枚のうち男性しかいないカットが一つ(これは別にいい)。本文で中学生くらいの女の子の女陰に顔を埋めたり、一巻でキスしたりとやたらと性を強調しているように見える。の、割に女性が出ない挿絵が十枚中四枚。そうじゃないだろ。あと最後の挿絵、主人公の顔崩れてない?

・文章
 改行が多い(これはweb小説だから仕方ないとも言える)。そういうのが気になるタイプなのでつい書き留めちゃった。これ以降は重箱の隅をつつくような指摘は辞めておきたい。
 内容が同じ文章が二つあったりする。二重表現とかじゃないけど、情報量が無になっている。
 ただ、読めない文章ではない。

・展開
 強引……というか展開が早いように見える。そして、何もかも主人公に都合がいいように「感じられる」。突如王城内に現れた不審者相手にわざわざ話を聞くとか、普通する? って思っちゃう。しかもなんで侵入者と模擬戦しようとするのよ。一巻で両方のヒロインとのキスシーンを入れているのももにょる。
 あと、偶然を多用しすぎに見える。偶然・運命は基本的に超常手段なので多様は物語の、ひいてはキャラクターの薄さに繋がると思われる。
 あと一つ。冒頭に「友人がいない」みたいなこと書いてたのに「同じ学部の友人が~」とはどういうことだ。描写されてないけど友達出来たんか、よかったな。

・設定
 現実世界と異世界を行き来するとのことなので、両方を個別に評価しようと思う。
 まず現実世界側。こちらについて語ることは特にない。東京の大学なのに体育で山走るん? ってのと転移魔法で相手に伝わるのか……って思ったぐらい。これは私の見識が浅いだけだろう。
 次に異世界側。ナーロッパ。こっちは主人公に都合がいい(あるいは良すぎる)世界と感じた。詳細は明かされない冒険者ギルドという組織、なぜかアルファベット表示されている能力、強さの欠片も見えない王国直属の部隊。なんなんだ。王国とやらの情報もほとんどない。世界が見えてこない。あと、シリウスくんが「何、全属性だと……!?」って驚くけど複数属性扱えることが凄い、という描写がない。当然の常識のように魔法が複数属性使えると凄いみたいなの出されて驚いちゃったよ。というか魔法が主人公の転移魔法とリリアナの「ライトニングなのです」しか出てきていない。もう魔法要素いる? あと設定か描写で一つ。敏捷Eって書かれてる主人公が敵の斬撃避けちゃダメだろ。Dが一般人並みって書いてあるのに、それより弱いであろうEで避けられる斬撃って何だよ、蝿でも止まってそうだな!
・キャラクター
主人公:唐山悟
 やばい奴。短気。能力を手に入れてからは他人を見下すような思想が目立つ。というか大学入学して一ヶ月で友達がいないってどういう状況だよ。新歓に参加すれば一人くらいは出来るだろ。あと「友人がいない」って言った後に雑誌を貸してくるレベルの友人がいるのはどういうことなんだ。友達出来たのか。よかったな。彼については突っ込みたいところも多々ある。相手の文化の否定だとかはまぁ、馬鹿がやるからまぁいい。でも気絶した人間をスカイツリーの頂上に転移させるってのはなんだよ。死ぬだろ。直接殺してないだけじゃねーか。というか君のヒロインズへの目が性欲にしか見えないぞ。君の一人称なのに君がヒロインズを意識する時に甘酸っぱい思いがよぎったことがあったか?

ヒロインA:湯皆翼
 大人気の女子高生アイドルらしいけど随分スケジュールに余裕がある。そしてスキャンダルを恐れていない。命の恩人ってのはいいけどさ、それで好感度MAXなのはどうよ。あとトラックに撥ね飛ばされた後に助けられたとか考える辺りアレ。本当にアイドルなんですか? というかアイドルである必要ありましたか? 親の力を自分の力と~と罵倒するシーンがあるけど主人公のは親の力どころか突然降って湧いた力なんだけど。

ヒロインB:リリアナ=フォックスター
 異世界側のヒロイン。15歳。乳がデカい。ケモミミ。魔力が多いらしいけどそれが活躍したことはない。国でトップクラスってのは主人公を持ち上げるための設定だろう。あと、馬鹿力についての説明がなかったけど、攻撃力に筋力という意味はないと思いますよ。「優しくされたのは初めて」みたいなこと言ってたけどシリウスくんにめちゃくちゃ愛されてただろ。そのセリフはスラム街で生まれ育ったやつのものだぞ。

王子:シリウス=フォン=プリストン
今の時点では実質モブ。自分の武器の能力をべらべら説明するなど昭和の少年マンガみたいな敵キャラ。というか第一王子なのに兵士を個々に構っているのはどうなのだろうか。ここは、第一王子でなくとも成立するシーンだと思うのだが。 個人的に気になったのは「目付きが悪い」ってとこ。というか王子設定がどうにも雑に後付けされたものにしか見えない。「目付きの悪い赤髪」ってとこも持ってる武器の名前もついでに言うなら口調も。

悪役:金盛くん
 実質モブ。金と親の七光りで好きに生きている、雛型から取り出してそのままみたいなキャラ。名前の由来はお金を持っている→金盛かな? 容姿についての描写がない。主人公にひどい目に遭わされた。

華麗なるモブ達
 まず自称王国直属の部隊の隊長、ヴェルガー。彼はこの世界の倫理観を説明してくれるよいキャラです。特に、戦闘に関することや兵士であることへのプライドが言葉の端々から垣間見えます。その倫理観を全て否定して薙ぎ倒したのが主人公です。もうアイツブラックバスでいいだろ。やってることが外来種だよ。そして兵士だの隊長だの言ってるにも関わらずやったことは力任せな大上段。この世界の兵士は戦ったことがないんですかね? あと「平民の分際で~」とか言ってるけど貴方が平民でない描写ってありませんよ?
 次、冒険者ギルドにいた多数。受付嬢が美人なのは、まぁいいや。ともかくここのキャラクターは主人公を持ち上げるためにしか存在していない。今のところここでの展開は後の展開にも影響しないし。主人公が凄い! 周りは賞賛する! 終わり!!

・総評
 全体として浅い。ラブコメで取ってもファンタジーで取ってもバトルモノで取っても薄味、というか無味。描写の少なさも問題点。先に挙げたように「金盛の容姿が分からない」「シリウスくんと主人公がどこで戦っているか分からない」ここは致命的だろう。脳内では完璧に描けているつもりかもしれないが、読者側は文章にしないと分からない。
ファンタジー部分への評価だが、世界観が浅い。異世界側の設定をナーロッパにするのはまだ許容してもいいが、それを文章にしないと話が始まらないだろ? 実際、「何、全属性だと……!?」のシーンとか急に魔法の属性みたいな話されて混乱したし。属性が沢山使えると凄いって話なのか全属性という属性を扱えることが凄いのかよく分からない。というか魔法が二つしか出てきてない。あとこの世界の情報網どうなってんだ。伝説の賢者の再来と言われているらしいけど内容が伝わってないじゃねーか。しかも第一王子が知らないってかなりダメだろ。容姿と魔法が使えないことぐらいは伝わってしかるべきだろ。それでも国のトップか? というか国についての説明も無いに等しい。どういう国なのか分からねーよ!
 次、ラブコメ部分。心情描写が無過ぎる。好感度が上がった理由付けとしては薄いし、どちらもチョロインに見える。実際一巻で同衾とキスまで行くのはもはやラブコメとは言えないだろう。それもそのはずこの話はほのぼの日常無双ファンタジーらしいからな! ラブコメ部分なんて存在しないか、あったとしてもチョロイン出して終わりなんだろうな!
 で次、戦闘シーン。二回だけ。アクションを書くのに慣れてないのかな、とさえ思う。動きは大雑把なものや不可思議なものばかり。何よりの問題点は設定の乖離。主人公の能力値のうち俊敏力はE……直前でDが一般人レベルと書かれているんだから主人公は鈍いはずだ。なのに「相当速い」というシリウスくんの攻撃を避けることが出来ている。どうなってるんだよ。ただでさえ描写が少ないのにその描写も信じられなくなったら俺は何を信じればいいんだ。もっと言うなら自分の能力をべらべら説明するキャラクターが現代に存在するとは思わなかった。内容もうっすいしどうなってんの。
 で最後、物語全体を通して。「偶然」が多すぎる。主人公が急に魔法の才覚に目覚めたのも、魔力が多いのも、ヒロインAにトラックが突っ込んできたのも、ヒロインAと主人公の写真が撮られたのも、混浴だったのも宿が満員で一室しか取れないのはともかく布団が一セットしか無いのも!!! こういうのは目立たないように、それでいて「偶然」が必要な時に、一~二回使うものでしょ。多用していい言い訳じゃ無い、整合性がとれなくなる。そもそもテーマが「転移魔法で無双してモテちゃいました!w」みたいなもんなのに戦闘で活躍してるの転移魔法じゃなくて転移魔法の輪じゃねーか!
 良い点だけど、まず文章。描写が足りないとは言ったし主人公の思想がやばいとも言ったけど、読めない文章ではない。次、ヒロインズ。キャラが被ってない、というのは非常に良い点。お互いが役割を奪い合うことが無いから。あと書いてるキャラ数が少ないからセリフの混同が無くなるのもグッド。

 まとめると、「ラブコメやファンタジー、バトルモノに手を出したけど全体的な描写不足で理解がしにくくなっている作品」と言ったところ。基本的な問題は「描写が薄い・もしくはない」という点に集約されるので、ここと設定の整合性が直れば私は評価します。世界観に関してはもう何も言えない。私は基本的にナロタジーのナーロッパが嫌いだから!!!
【台本】
現世と異世界を行き来する……それは王道のストーリーです。漫画や小説だけでなく、童話でも様々な作品が「この世あらざる場所」に旅する少年少女を描いているでしょう。
それでは今回紹介するラノベはこちら。「ある日から使えるようになった転移魔法が万能で生きるのが楽しくなりました」、です。このタイトルを聞いて、皆様は何を想像するでしょうか。そうですね、幸運の壺ですね。今はもうないのでしょうか、あの広告。
さて、内容の話をするに当たってですが……。項目を分けてレビューしていきたいと思います。
まず、あらすじです。
~~
より胡散臭い広告っぽさが増しましたね。正直購入したモノを間違えたかと思いました。

ストーリーを大雑把にまとめるなら突然「転移魔法」というテレポーテーションや空間と空間を繋げる能力を使って今までとは違う日常を、そして異世界を楽しむ、という感じです。

さて、内容を見ていきましょうか。まずは文章についてです。私はプロではありませんが、一応ここに触れることにします。
まず改行が多いですね。これはweb出身だから仕方ないことだと思いますが。重箱の隅をつつくような指摘なので、今後は書きたくありません。あ、でも下半分がメモ帳ってほどではありませんでしたよ。

次ですが、作者のクセが出てる感じがします。場面転換する直前の文はだいたい~のだった。で終わりますし、三点リーダーが過剰な部分も見られる。特に前者は文章が単調になるため気になりましたね。後半は少ないですけど、~。何故なら~。という文も多かったのが個人的に気になりました。まぁクセはどうやっても出るんですよね。私も出ますし。
ただ、読めない文章ではありません。邪神が「地球人語を学び直せ!」と言いたくなるようなものもある中で、読めるというのはアドバンテージかと。

ここで褒めておいてアレですけど、文章の問題点のうち、致命的と言えるモノをまだ言ってません。描写の薄さ・少なさです。観測しているところを全て挙げるのは辛いので二点だけ挙げますが、「悪役:金盛くんの容姿の描写がないこと」と「決闘するシーンで場所の描写がないこと」がよくないですね。後者は巻頭カラーでなんとなく分かるんですが、前者は全く描写がありません。体型や顔面の美醜も不明です。これが滅茶苦茶混乱する。小説において描写のないものって基本的に無いものな訳ですよ。それなのに、金盛くんは悪役として後半に関わるので場面が想像しにくいんですよね。風景描写だけで無く心情描写や世界観の描写も足りていないので、この物語の世界が見えてきません。ここはどうにかしてほしいなーと思うところでしたね。描写云々に関しては後ほどまた触れると思います。

次、展開についてですね。私には強引に進めているように見えます。さらに、全体のレベルを下げることで主人公を強く見せようとしているように見えます。王城内に侵入したように見える主人公とわざわざお喋りし、挙句模擬戦までするというのは無茶苦茶かな、と。キャラクターに活力が無い、と言うのでしょうか。あっさり挑発に乗るキャラや、自分の武器の能力をべらべらと説明する敵キャラなど、少々説得力を持てていないかなと。
説得力を持てない理由はもう一つあります。「偶然」が非常に多いんです。物語が理論的でない、と言うべきかもしれません。具体例を挙げます。主人公が急に魔法の才覚に目覚めたこと、主人公の魔力量が歴史上トップクラスで多いこと、ヒロインAの湯皆翼にトラックが突っ込んできたこと、湯皆翼と主人公の写真が撮られたこと、それを悪役の金盛くんが買ったこと、混浴だったこと、宿で一室しか取れないのはともかく布団が一セットしか無いこと。これ以外にも多分あります。一部は納得出来るものもありますが、それは伏線があったためです。別に「偶然」を使うなとは言いません。主人公の能力が急に覚醒した、一体なぜ? と繋げて物語に深みを増すことが出来ますから。でもそれには許容量があります。理論的であるためには必然性が要求されます。私が見る限り、この物語にはそれが足りない。

次、設定です。まず世界観について、現実世界側と異世界側で分けてレビューしていきます。
まず現実世界側。こちらについては特に言うことはないのですが、瞬間移動のことを即座に「転移魔法」と表現したり、その表現で他者に伝わるというところに違和感があります。私としてはテレポーテーションと言う方が通じるのですが。まぁガメラの世界に亀がいないように、この世界にはテレポーテーションという概念が無いのかもしれません。

次、異世界側。多分いつものナロタジーナーロッパだと思うんですけど、描写不足で伝わらない。世界観が伝わってこない、あるいは共通認識が作者と同じであることを前提にしてくる。主人公に都合が良すぎるとも感じました。言葉が普通に伝わってるんですよね。何の説明も無しに。
まず主人公の転移した先にあったプリストン王国。これが全ッ然分からない。どういう国なのか、どういう地形なのか、人々の貧富の差や生活水準はどの程度なのか、全く説明されない。魔法が存在してるらしいけど、作中に出てきた魔法は主人公の「転移魔法」とヒロイン、リリアナが「ライトニングなのです」と言ったら出た光ぐらいです。
この世界の強さの水準も分からない。侵入者相手にお喋りして模擬戦を始めやがった王国直属の部隊の隊長ヴェルガー。彼は兵士であるにも関わらずやったことは大振りな大上段、しかも主人公に攻撃を受け止められると力押しで解決しようとするなど、とても兵士とは思えない無様な戦闘を見せてくれます。街のごろつきの方がまだ賢いでしょう。というかこんな戦い方するなら街のごろつきの方が説得力ありますよ。
そしてこの国の第一王子シリウスくん。相当な手練れであることが示唆されていながらも俊敏さは一般人未満であるはずの主人公に攻撃を避けられ続けます。あと決め手にしようとしてた動きの描写なんですけど、「男は両手を広げると剣を構える。どうやら左右から同時に剣を振って俺を斬るつもりのようだ」って私の想像が正しければハグの直前の体勢で剣を構えてるって感じなんですけどどうなんですかね。前に突っ込めば割と簡単に避けられそうな感じしますし、万が一外したら剣と剣が打ち合って刃こぼれを起こしたり、もしくは自分を斬ることになると思うんですが。戦闘描写は基本的に下手な感じですね。大振りかつ大雑把。多分これなら転移魔法でワンパン! 黄色い悲鳴! また俺何か以下略でも良かったと思います。
すいません、戦闘描写で熱くなりすぎましたね。設定の話でした。
それで、まぁ冒険者ギルドっていうよく分からない組織が出てくるのもまぁもう、いいです。全体的に共通認識に頼りすぎです。テンプレを使うのは悪いことではありませんが、描写を少なくする言い訳にはなりません。とってつけたような設定が薄さを醸し出します。国と言うからには街並みや人々の営みがあるでしょう。冒険者ギルドを出すなら室内に何があるのかぐらいは書きなさい。広さも建材も人がどれくらいいるのかも、書かなければ伝わりません。
でぇ、設定で触れなきゃいけないだろう部分、「転移魔法」。これはテレポーテーションと空間と空間を繋げる「光の輪」を出す能力をまとめて呼称しているものらしいんですね。テレポーテーションは【ワープ】、光の輪は【ゲート】と呼んでいるそうです。それでこの「光の輪」、わっか部分が物理的に存在しているらしくて、鉄パイプで殴ったら曲がるくらいには硬いらしいんですね。で、彼はこれをバリアに使ったり、この部分に乗ったりして戦うんですね。違うだろ。それは転移魔法ではないだろ。それで、転移魔法に関する設定ですが重大な設定があります。
現実世界と異世界の間を渡るような転移魔法には多くの魔力を消費するということです。まあ納得出来る話です。終盤、主人公は異世界にいながら現実世界に【ゲート】をつなぎ、さも様々な魔法が使えるように見せかけるんですね。いいのかそれ。まぁ確かに? 魔力の使い方が悪い時にされた説明ですから、解消された以上無視するのも分からないでも無い。その後主人公が疲労したような描写がないのも、まぁ……。個人的には描写したことは守って欲しかったですね。

次はキャラクター、行きましょうか。今回紹介するに当たって大まかですが六種類に分けました。まず主人公から行きます。これがやばい。とにかくやばい。まずね、現代日本で生まれ育った彼は当然、命を奪うことに抵抗があります。まぁそうですよね。ところが終盤彼がやったこと何だと思います? 悪役の金盛くんを【ゲート】でスカイタワーというスカイツリーみたいな滅茶苦茶高い建物の頂上に転移させるんですよ。直接殺すのがダメなだけで間接的に殺すのは問題ないんですね、現代日本の倫理観って。それだけじゃないんですよ。飄々としたクールなキャラってしたかったと思われるんですけど、序盤そんな雰囲気なかったのにヒロインの前では鈍感・難聴系になるんですね。多重人格かと思いました。彼は基本的に自分の倫理観が一番正しいと思い込んでます。異世界側での文化を否定し、自分の倫理観を強要するようなシーンがあるのですが……それは後にします。というか地の文がやばい。能力を持ってから他人を下に見ていると取れる心情描写が多いぃ。持たざる者が持つ者になるとどうなるのか、現代日本の闇を見せられた感じですね。
というか一番突っ込みたいのは。大学に入学して一ヶ月で友人がいないってのは分かります。新歓全部蹴ったんだなって。でも一ヶ月と一週間と数日経ったところで気軽に雑誌を貸してくれるくらいの友人が出来ているんですね。友人いない設定の意味がないだろそれ。友人出来たの? よかったな。

次、ヒロインA……湯皆翼。彼女は大人気の女子高生アイドルであり、主人公がアイドルに疎いだけで世間には滅茶苦茶顔が売れてるらしいんですね。彼女は深夜コンビニに向かっているところ偶然突っ込んできたトラックから助けられたことで主人公を知ります。このときの彼女の心情描写がありえない。「トラックに撥ね飛ばされた私をこの人が受け止めてくれた? それにしては衝撃がほとんどなかったし~」と続くんですが普通の地球人ってトラックに撥ね飛ばされたら死ぬと思うんですよ。この発想になるってことはトラックに轢かれて死なない強靱な体がないといけないわけなんですけどね。人体の不思議展ですね。ここが主人公を慕う原因にもなるし主人公が特殊能力を持っていることを確信することにも繋がるのでもうちょっと強引さを消してほしかったですね。……私が知らないだけかも知れないですけど、無名でノンキャリアの大学一年生を「本人の推薦」でサブマネージャーに出来るんですかね。

で、ヒロインB……リリアナ=フォックスター。金髪に金の目、狐耳を持つ十五歳の少女で、年齢に見合わないバストをしています。作中で主人公の顔を股ぐらに挟んだり、ベビードールで誘惑したりしてます。15歳? ゴールデンフォックス族の巫女らしいのですが、なぜ巫女と呼ばれているかは分かりません。魔法が使えるのは魔道士らしいので他の要因があるのでしょう。おそらく、ゴールデンフォックス族だけが持つ他人の魔力の流れを見てそれを整えたり妨害したりする能力が関係しているんでしょうけど明記はされてないので分かりません。あと馬鹿力であることが描写されてるんですが、それを裏付けたり補強したりする内容はありません。で、さっき言ったようにこの世界には冒険者ギルドがあって、冒険者の能力をアルファベットで表記して金属製のカードにしているんですね。これも突っ込みどころがあるんですけど、まずは全部出します。

名前:リリアナ=フォックスター
性別:女 種族:獣族 年齢:15 職業:魔道士 ギルドランク:ゴールド
生命力:B 魔力:A 攻撃力:B 防御力:D 俊敏力:B 知力:B

これらはDで一般人並み、後に冒険者の平均と書かれてますけどどっちが正しいんでしょうかね。生命力か魔力がCあれば立派な戦士や魔道士になれるらしいです。そしてこのステータスは百年に一人の逸材というレベルだと。
まず聞きますね。攻撃力と防御力って何ですか? 攻撃の強さなんて持ってる武器に大きく左右されるし、もっと言うなら魔法が存在する世界なら魔法で攻撃することと殴って攻撃することを同列に扱っちゃダメですよね。次、防御力。こちらも防具に大きく左右されますよね。何も着てない状態で防御力Aの人は剣を素肌で受け止められるんですか? 付け加えるなら良い武器と良い防具を装備した状態ならこの能力値は変わるんですか? それは能力詐欺ではないのですか?
次、俊敏力とやら。私は敏捷度という名称の方がしっくり来る方ですが、名称はもういいです、あえて言うなら俊敏性じゃない? ってぐらいです。これは後に関わってくるのでまずは放置します。
次、知力。Dで一般人並み、Cで立派な戦士や魔道士というならBはかなり高い部類ではないでしょうか。なんでそんな彼女が力仕事や兵士の仕事をしているのですか? まさか知力が魔法の威力の強さなんて言いませんよね。主人公の知力はDだったのに対し彼女はB。ですがこのキャラからはB相当の知性が伝わってきません。タイプミスですかね。本当はDとか?
で、彼女の職業。兵士じゃなくて魔道士なんですね。訓練場で試合をしてたり遠征に使う荷物を運んだりしているので兵士か、それか王城の下働きかと思ってました。そもそも本人は巫女を自称してましたよね。嘘だったんですか?

……はい、突っ込み始めるとキリがないのでいったん辞めます。主人公は異世界だと思っているようですが私はこの世界、ゲームの世界に見えますね。
あと彼女「こんなに優しくされたのは初めて」と言ってるので重い過去でも背負ってるのかと思ったんですけど、そんなことは分かりませんでした。ただ、次に紹介する第一王子からは滅茶苦茶大切にされてるんですよね。これも嘘だったのか、優しさに気付けなかったのか。怖いですねぇ。

次、プリストン王国の第一王子シリウス=フォン=プリストンくん。さっき出したハグの直前みたいな人です。赤い髪と目付きが悪いことが示されています。まず、第一王子って兵士一人のために働くものなんですか? リリアナの役職が書かれてないのでただの兵士の一人にしか見えないんですが、第一王子……次に王位を継承するであろう人物ってそんな暇なんですかね。そして彼はリリアナの処遇を決めるために主人公と決闘するのですが彼は二振りの魔剣を操ります。赤い剣はブラッディソード。斬った相手の生命力を吸収するそうです。白い剣はルナティックソード。国宝で、魔法を斬り裂いたり斬った相手から魔力を吸い取れるらしいです。これを本人が戦いの中で説明します。使ってる本人に説明させるのは明らかに悪手だし、キャラクターが作者の都合で動かされてると見られるので辞めた方がいいと思うんですけどね。で、これは完全に想像なんですけど……彼、元々は王子じゃなくて隊長とかの予定だったんじゃないですか? 口調が悪いことや、王子である必要性が見えないことから書籍化に当たって後付けした設定か、プロットから変更して付け加えたんじゃないかなと邪推してるのですが、どうなんでしょうね。知ってる人がいたら教えて欲しいです。

次、悪役の金盛くん。さっき言ったとおり、彼の容姿の描写はありません。年齢もない、美醜も分からない、体型すら分からない。もうこれはね、ブラックボックスと言っていい。そんな彼は実家が映画のスポンサーが出来るほどの資産家で、彼はその威光を振りかざしているため多くの人に嫌われてるみたいですね。さらに、終盤では主人公と湯皆翼が一緒に旅館に宿泊しているところを撮った写真をダシに湯皆翼を脅迫し、最終的に強姦未遂までしてしまいます。……信じられないかもしれませんが私から見て彼はかなりピュアです。湯皆翼を恐喝して要求したものは自分との交際ですし、湯皆翼が屋上から落ちたら自分は悪くないと呆然とします。強姦未遂はいただけませんが……彼はその後失禁して気絶し、スカイタワーの頂上に転移させられるんですがそれは置いておいて。まず彼は主人公と展開の一番の被害者といっても過言ではありません。主人公にはベルトを切られてパンツ丸出しになったり、転ばされたりします。何度も言いますがタワーの頂上に放置されるという殺人未遂までやられてます。で、展開について。これは主人公を除く名前のある男キャラに共通していることなのですが、やけに短気にさせられてるんですね。周りを落として主役を立てる、にしか見えませんでした。展開にあれこれ言うなら個人的に言いたいことがあるんですけど、宿泊しているところの写真に関して。これ偶然にする必要ありませんよね。金盛の差し金で盗撮していたやつがいて、そいつから受け取ったとかで充分納得出来るのに、わざわざ「たまたまだよ」なんて言わせなくてもいいじゃないですか。あと、湯皆翼が彼を罵倒するシーンで「親の力を自分の力と~」っていう下りがあるんですけど、主人公の能力は何の努力もせず突然降って湧いた力なんですけど、棚から落ちてきたぼた餅と親に買ってもらったぼた餅、本当に素晴らしいのはどっちでしょうかね。

はい次! 今までの男キャラも実質モブでしたけど、今度は本格的にモブなキャラたちです。
まず自称王国直属の部隊の隊長、ヴェルガー。彼はこの世界の倫理観を説明してくれるよいキャラです。特に、戦闘に関することや兵士であることへのプライドが言葉の端々から垣間見えます。その倫理観を全て否定して薙ぎ倒したのが主人公です。もうアイツブラックバスでいいだろ。やってることが外来種だよ。そして兵士だの隊長だの言ってるにも関わらずやったことは力任せな大上段。この世界の兵士は戦ったことがないんですかね? あと「平民の分際で~」とか言ってるけど貴方が平民でない描写ってありませんよ?
 次、冒険者ギルドにいた多数。ここで明示されている存在は受付嬢一人しかいませんが、どうやら多くの人間がたむろしていたようです。受付嬢が美人なのは、まぁいいや。ともかくここのキャラクターは主人公を持ち上げるためにしか存在していません。今のところここでの展開は後の展開にも影響しないし。主人公が凄い! 周りは賞賛する! 終わり!!

ではまとめます。
まず良い点から挙げましょうかね。一つ目は文章。主人公の思想はやばいし描写が足りないしクセが大きく出てますけど、読めない文章ではないです。次にキャラクター、というかヒロインです。安易なハーレム形成で個々をつぶし合うようなことがなく、むしろキャラクター同士のギャップがお互いを引き立てています。Wヒロインの手本と言っても良いんじゃないでしょうか。書いてるキャラクターが主人公とヒロインと実質モブとモブしかいないので、誰が喋っているか分からないってことがないのも高評価です。あと、小説を書き続ける根性も評価します。これが出来ない人は多いので。
問題点はやはり描写の少なさでしょう。金盛くんの容姿が分からないのも困りますが、決闘のシーンで主人公達がどこにいるのか分からないのも大きなマイナスです。巻頭カラーでなんとなく察しは付きますが、絵師は作家をおんぶしてくれる存在ではなく、お互いに高め合う存在だと考えているため非常に残念です。世界観も伝わりませんね。決闘のシーンでシリウスくんが「なっ! 全……属性だと?」って言い始めた時は混乱しました。どういう魔法使いが凄いのか、という説明が全くないのに当然のように出てきたこの台詞には首を傾げざるを得ません。
次の問題点はストーリーが薄味なことですかね。現実世界と異世界、さらにラブコメとバトルを描くのは荷が重かったのでしょうか。どれをとっても薄味です。ラブコメでは心情描写・恋愛描写が足りず、バトル……というかアクションシーンが下手です。動きが大雑把すぎる。ファンタジーとして取ると異世界の説明がほぼないのでそもそもファンタジー扱いできません。どれを期待しても期待外れになるのではないでしょうか。
次、描写の矛盾についてです。矛盾に関しては、気にならないものならいいんですけど……俊敏がE、つまり一般人より鈍いはずの主人公が素早い剣技を次々と避けていることに違和感しかありません。ここは……せっかくステータスを出したんだから守ってほしかったんですけどねぇ……ステータスの意味なくなるし。
最後、偶然の多用について。具体例は冒頭で挙げてるのでもう言いませんが、偶然が多いと当然ですけど物語は必然性に欠けます。必然性に欠けた物語は論理的な物語ではなく、物語の面白みを削ぎます。これは早急にどうにかして欲しいですね。
致命的な点をいくつか挙げましたが、ここがどうにかなれば少なくとも私は読めます。それに、偶然の多用も物語の謎のためと言い訳することも出来ます。でもですねぇ、これ、「カクヨムWeb小説コンテスト《SF・ファンタジー部門》《大賞》受賞作」なんですよ。書籍化を前提としたコンテストと書いてあったと思うので新人賞の目線で考えますけど、新人賞とかって一つの物語として完結したものを要求してるんですよ。これは一つの物語として完成させられてない。書籍化に当たって修正したには歯抜けが多すぎる。私が審査を務めていたら一次選考で落とすと思います。
……ここまで好き勝手言いましたけど、もしかして本職の審査だとこれは面白い扱いなんですかね。疑問を抱かずにはいられません。主に自分のセンスが乖離しているんじゃないかということに対して。
えーそれでは、今回レビューしたラノベは「ある日から使えるようになった転移魔法が万能で生きるのが楽しくなりました」、でした。5/20に続きが出るらしいのでね、そっちで評価が覆る可能性は大いにあります。
あえて点数を付けるなら……文章50点、展開30点、設定10点、ヒロイン75点、面白さ20点、クソさ65点。こんな感じですね。満点は百点です。設定の薄さが面白さの点数を下げ、描写の少なさがクソさを上げている感じです。ただ、ヒロインの設定が被っていなかったりというところはとても素晴らしいので高く評価しました。
個人的な感想ですが……意外と楽しめたな、と。もっと苦痛に満ちた道のりになると思ってました。

以上です。