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David Lynchとの思い出


起きたら友達からラインがきていた。
「リンチ亡くなっちゃったんだね」
あまりのショックに言葉を失った。

学生の頃にTSUTAYAでバイトをしていた。
映画をそれまで真面目にみたことがなかったが、社割で一回に三本まで映画を無料で借りれるというチートシステムがあったので映画を熱心に観るようになった。

その時に出会ったのがリンチ。
最初にみた作品はなんだったか思い出せない。
多分イレイザーヘッドか、エレファントマンかな?
インパクトのあるジャケットに惹かれて観た記憶がある。

イカれてる。
この一言に尽きた。

でも芸術ってイカれてなんぼだと自分は思っているので、いとも容易く彼の世界に引き摺り込まれていった。

みんなはマルホランドドライブとブルーベルベットを名作として挙げるけど、自分はロストハイウェイとインランドエンパイアを特に気に入った。あとはツインピークスのFire walk with me。

インランドエンパイアを最後まで観るのは本当に大変だった。
多分みんなもそうだと思う。
ひたすらに悪夢を三時間くらい観させられているような映画なのだ。

あまりにも内容が狂いすぎてて、何度も途中で挫折した。
しかしある時、それまでスピーカーで流しながら観ていたのをヘッドホンに変えてみた。
そうするとある事に気がついた。

ずっとサイン波のようなノイズが乗っていたのだ。

勿論それは不快感を増幅させるギミックだと思うのだが、これによって映画への没入感がとてつもなく上がって最後まで集中して観れた。
勿論苦痛を伴ったが、ある種の恍惚を覚えた。
リンチのおかげで、映画において音響がどれだけ重要なのかということを知ることができた。

リンチは学生時代に、当時の嫁を起用してalphabetというショートムービーを残している。
リンチの世界観を気に入った人は、まずこれを観てほしい。とにかくイカれていて、尖っていて、芸術的で、クールな作品。

この作品を見れば分かる通りとにかく悪趣味な奇人であり変態である。こういうアートを若くして制作する人は家庭環境や人生に難がある人が殆どだとだと思うが、彼は親が金持ちで親に学費を払って貰ったり映画を作ったりしていたみたいだし、謎が深まるばかり。本物の天才は、天才としてこの世に生を受けるのだろう......。

映画のみならずリンチは絵画や版画などの制作、ミュージシャンとして芸術家としての活動は多岐にわたる。

というか、映画が総合芸術といわれている事からわかるように、リンチはありとあらゆる芸術をマスターしていた本物の天才であり、奇人だった。

彼の個展に足を運んだときにやはり彼の奇抜なアートに心を奪われた。
借金をして版画を購入しようと思ったくらいに本気で彼のアートが好きだった。

因みに私が敬愛する伊集院光氏にこういうエピソードがある。
嫁さんとリンチの個展に行った際に、とある作品がどうしても欲しくなるが値段を見ると200万円。
ずっと悩んでいると、嫁さんが
「いつも頑張ってるんだからたまにはこういう買い物もいいんじゃない?」と言ってくれて、それで買う決心をして会計に向かったそう。
スタッフから値段を提示され、ビビりながら会計しようとしていたら、0の桁を一つ多く勘違いしていただけで実際には20万円だった。嬉しさ半分の気持ちと、そんなに安くていいのかという変な気持ちになったと、深夜の馬鹿力で昔語っていて腹を抱えて笑った。


リンチは才能のみならず、自身の思考や、芸術への哲学に完璧な精神を持ち合わせていたと思う。確かとある大学で瞑想について特別講義をしていたはず。リンチは自分の持つ芯が、誰よりも太く、硬く、自信満々にそれを芸術に昇華させることができているようで、それが人々を惹きつける才能だったと感じる。

『David Lynch The Art Life』というリンチのドキュメンタリー映画がある。
この映画の中でリンチは殆どの時間、コーヒーを飲みながらタバコを吸い、アートを制作している。
タバコの灰をアトリエの床に落としながら絵を描いているリンチがとても印象に残っていて、誰よりもクールな男!といった感じだ。
幼い娘を膝に乗せ、一緒に絵を描いたりもしていて、意外な一面もみれた。リンチの娘は将来絶対に大物になるに違いない。

細かな彼のエピソードを書こうと思えばキリがないのでこのくらいにしておこう。

何度も言うが、彼は本物の天才として俺の中でずっと輝いていた。

彼が映画界、芸術界、俺に与えた影響はとてつもないだろう。


「In Heaven everything is fine」


さようならリンチ!!ありがとう!!

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