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(32)手ぶれを防ぐ方法 ━━ 描写力を向上させる技術

 手ぶれ補正については、ここ『いいレンズってなんだ?』シリーズの仕様表の読み方編の中、「レンズ内手ぶれ補正の話 (16) 」として解説しているので、併せて読んでいただけるとハナシが早い(多少、内容が重複するところもあるけれど)。

 今回は ≪ 前編 ≫ として「ぶれ」の現象とその種類についての基本的な話を、そして ≪ 後編 ≫ では「ぶれ補正の方式」などについての話に続けたい。

 なお、手ぶれ補正の方式には、カメラ内(センサーシフト式)手ぶれ補正やレンズ内(光学シフト式)手ぶれ補正、電子式手ぶれ補正などがあるが、ここでは、レンズ内手ぶれ補正方式だけにマトを絞って話を進めていきたい(次回に、それぞれの手ぶれ補正方式について少し解説をする予定)。

超基本・「ぶれ」には3種類ある

 まず、皆さんよくご存じだとは思うけれど、撮影時に発生する「ぶれ」について。

 ①手ぶれ(カメラぶれ)
 ②被写体ぶれ
 ③シャッターぶれ

 おおまかに言えばこの3種類がある。ぶれの基本3パターン。

 ①「手ぶれ」はカメラを手に持ってシャッターを切ったとき(撮影露光時)にカメラ全体がぶれてしまう現象である。カメラぶれとも言うことがあるが、ごく一般的なぶれ、手ぶれと同じ意味として受け取ってもらっていい。

 ②「被写体ぶれ」は文字通り被写体それ自身が動いて、動体部分だけがぶれて写ってしまう現象である。手ぶれ補正の機能は被写体ぶれを防ぐことはできない。シャッタースピードを高速にして撮影するしかぶれ防止策はない。

 ③「シャッターぶれ」はフォーカルプレーンシャッターのカメラで発生する現象。シャッター先幕が走り終えた瞬間にその走行停止ショックで、ぶれ検知センサーがそれを誤認識して誤補正してしまう現象である。メカ(機械)ぶれともいう。すべてのカメラで起こる現象ではなく、きちんと対策が施されたカメラでは発生することはない。
 ストロボ同調シャッタースピード、つまり1/60秒とか1/125秒などシャッター幕が全開状態になったときに発生することが多い。一時、いくつかのメーカーでその現象が発生し対策に苦労したことがあったが、最近では効果的な対策が施されるようになり(シャッターショックを小さくしたりぶれ検知センサーの設置場所を変更したりして)現象は大変に少なくなった。
 なお、反射ミラーが上下することでショックが発生するが、露光の前か後なのでほとんど影響はないようだ。ただし連写時に影響を受けることがあるらしい(とくに一眼レフカメラでは原理的にぶれの影響を受ける可能性はある)。

 「手ぶれ」や「被写体ぶれ」を防ぐには(現在のところ)、より高速のシャッタースピードを選んで撮影するのが最良の対策方法だろう。
 ところが、高速シャッタースピードで撮れば誰もがぶれは防げる、とは言い切れないのが困ったところ。マンガのような話だが1/1000秒の高速シャッタースピードでもぶらして写す人もいるのだ(大袈裟ではなくホント)。

 ぶれを少なくして撮影するには、シャッタースピードにかかわらずしっかりとカメラを保持して丁寧にシャッターを押すようことが基本の基本。加えて、被写体の動きをよく観察してタイミングよくシャッターを押すことも大事なことだ。
 手ぶれを防ぐために三脚を使って撮影する場合も、被写体そのものが動いていればぶれて写ってしまうこともある。高速シャッタースピードとシャッタータイミングはぶれ防止には効果的だといえる。

 ただし、いつも高速のシャッタースピードで撮影できるとは限らないし、動きの止まった瞬間を狙ってタイミングよく撮影ができるものでもない。低速シャッタースピードで撮影せざるを得ない場合もあるし、三脚などが使用できない場合もある。

 そうした時にもっとも効果的なのが手ぶれ補正の機能である。

 最近は手ぶれ補正の機能の進化が著しく向上して、かなりの低速シャッタースピードで撮影しても手ぶれによるぶれを目立たなくして撮影ができるようになり、レンズ描写性能を十二分に発揮して撮影ができるようになった。

(図・1)

 (図・1)は交換レンズ内に世界で初めて手ぶれ補正の機構を内蔵したキヤノン・EF75-300mm F4-5.6 IS USMズームレンズ。手に持っているのが内蔵されている手ぶれ補正ユニット。補正レンズは2群3枚構成でアクチュエータ、制御コントローラが一体になっている。補正段数はシャッタースピード換算で約2段ぶん。私は発売と同時に購入してたっぷり使い込んだ。

 手ぶれ補正の大きな利点は、中間シャッタースピードでのぶれ防止ではないだろうか。たとえば1/125秒や1/200秒ぐらいのシャッタースピードでは、「ぶれないシャッタースピードだ」と安心して、ぞんざいな撮影をしてしまいがち。しかし手ぶれ補正の機能を活用していれば、気づかないような微妙なぶれ(微ぶれ)を補正してくれる。手ぶれ補正は低速シャッタースピードのときだけ役立つ ━━ そのように勘違いしている人もいるようだが ━━ のではなく、シャッタースピードにかかわらず(上の例の如く1/1000秒でも)ぶれを補正してくれるのだ。

①の「手ぶれ」には4種類のぶれがある

 ところで「手ぶれ」であるが、この「ぶれ」にはおおむね4つの種類がある。

 「角度ぶれ(上下左右2方向)」
 「シフトぶれ/平行ぶれ(上下左右2方向)」
 「回転ぶれ(1方向)」
 「前後ぶれ(1方向)」

 である。
 
言うまでもないが、それぞれが単独のみでぶれが発生するわけではなく、多くの場合は複数のぶれが混じり合った ━━ たとえば角度ぶれと回転ぶれ ━━ 複合ぶれとなる。

 ここで、手ぶれについて詳しい読者の方のなかには「あれっ?」と思われたに違いない。そう、前後ぶれ、だ。
 前後ぶれは、とくに近接マクロ撮影などで発生することがある。露光中にカメラを保持したカラダ全体が、ごくわずかに前後移動して「前後ぶれ=ピンぼけ」になる現象である。

 角度ぶれ、シフトぶれ、回転ぶれ、それぞれのぶれに対しては現在の手ぶれ補正機能を利用すれば、ほぼ完全に補正ができるようになった。しかし前後ぶれだけは、補正できるレンズもカメラもひとつも存在しない。将来、画像処理あるいはAF機能の改良などで前後ぶれ補正が可能になるかもしれないが、それは現在のところ夢物語。
 なので、角度ぶれ、シフトぶれ、回転ぶれの3つのぶれについてだけ話を進めていきたい。

 そもそも手ぶれは、一方向に一定の速度でぶれる、ことはほとんどあり得ない。上下左右のあらゆる方向に、速度もランダムに変化してぶれることが多い(とくに低速シャッタースピードになればなるほど)。

 「角度ぶれ」はもっとも一般的に発生する手ぶれの現象である。極端な言い方になるが、レンズ先端部がX軸Y軸上下左右斜め方向にカメラが動いて画像がぶれて写る現象だ。チルト(ティルト)ぶれともいう。

 X軸Y軸方向の動きに対応した〝対〟になった角速度(ジャイロ)センサーでぶれの量、方向、速度を検知する。レンズ内のぶれ補正レンズはX軸Y軸に平行移動するだけで回転もせず、斜め方向にも動かない。
 では斜め方向のぶれに対してはどうするかといえば、X軸Y軸方向に少しずつずれて斜め方向に移動する。
 手ぶれ補正はこうした微妙に正確に高速に動作し停止を繰り返しているというわけだ。手ぶれのほとんどは角度ぶれなのでレンズ内手ぶれ補正で充分な補正効果が得られる。

(図・2)

 (図・2)はレンズ内手ぶれ補正の動作概念イラスト図。露光中に手ぶれをしてカメラ/レンズがぶれたとき、補正光学系がシフト移動することで光軸が一定に保たれる様子を示したもの。キヤノンの技術解説ページから。


 「シフトぶれ」は平行ぶれとも言うが、カメラが上下左右斜め方向に平行にシフト移動することでぶれる現象。マクロ撮影などクローズアップ撮影時に目立ってくるもので、通常の撮影では平行ぶれの影響を受けることは少ない。そのため手ぶれ補正レンズは角度ぶれだけに対応していてシフトぶれ補正の機能を搭載していないものが多い。
 シフトぶれの検知には角速度センサーではなく、X軸Y軸方向に対応した〝対〟の加速度センサーが別途必要になる。

 レンズ内手ぶれ補正の機構を使って平行ぶれ補正をするのは、角度ぶれの補正アルゴリズムよりもずっと難しいといわれている(重力も含めた補正アルゴリズムも必要になる)。
 角度ぶれの機能に加えてシフトぶれにもいち早く対応したレンズとしては、キヤノンの「EF100mmF2.8 マクロ USM」や「EF24~70mmF4L IS USM」などごく限られていている。
 ミラーレスカメラの時代になってボディ内蔵の手ぶれ補正機能を搭載したカメラが出てきて、平行ぶれ補正はカメラボディ側の手ぶれ補正で対応するなど〝分業化〟が進んできた。それにともなってレンズ内で平行ぶれを補正するものが少なくなってきている。

(図-3)

 (図-3)はキヤノンのシフトぶれ(平行ぶれ)補正の仕組みと効果を解説したページから。図にあるように角度ぶれとシフトぶれを同時に働かせることで、とくに近接撮影で補正効果が大幅に向上することがわかる。

 「回転ぶれ」とはシャッターを押し込んだときに、わずかだがカメラが回転してしまって起こる現象。シャッターボタンを強く押し込んだときなどにカメラが右回転してぶれることがある。画面中央部付近はぶれていないのに画面周辺部が回転しているようにぶれて写る。最近はとくに、通常の角度ぶれの補正性能が飛躍的に向上して、1/2秒から1/4秒といった超低速シャッタースピードでも手持ち撮影が可能になったことで目立つようになった。

 回転ぶれの補正はレンズ内手ぶれ補正で対応させることは機構的にまったく不可能である。カメラボディ内のイメージセンサーをフローティングした状態で回転させて補正するしか方策はない。回転ぶれ補正についてはレンズ内手ぶれ補正では対応していないので(ボディ内手ぶれ補正の効果領域なので)これ以上の説明はここではしない。

(図・4)

 (図・4)角度ぶれ(2方向)、シフトぶれ(2方向)、回転ぶれ(1方向) ━━ これが「5軸ぶれ」 ━━ の3種類5方向のぶれの動きをイラスト図にしたもの。ただし回転ぶれだけはボディ内手ぶれ補正でしか対応できない。図はOMDS(旧オリンパス)の技術解説ページから。

 ということで、次回は、次の「手ぶれ補正の方式」4種類について、そして、その他あれこれについて話を続けていきたい。

 「レンズ内手ぶれ補正」 ━━ レンズに内蔵
 「ボディ内手ぶれ補正」 ━━ カメラボディに内蔵
 「シンクロ手ぶれ補正」 ━━ レンズ内とボディ内とをシンクロ動作
 「電子手ぶれ補正」 ━━ 画像処理によるぶれ補正


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