■番外編■① SIGMA 15mmF1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE
SIGMAからフルサイズ判ミラーレスカメラ用の2本のレンズが同時に発売された。
「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS」と「SIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE」である。ただしこの2本のレンズは、日常的に使用するような一般的なレンズではない。やや特殊な部類に入るレンズである。
15mmF1.4は大口径の対角線魚眼(対角線画角は180度)レンズで、500mmF5.6は小型軽量超望遠レンズ。どちらも対応マウントはLマウントとSONYのEマウントのみ。SIGMAのオンラインショップでの税込み価格は、15mm魚眼レンズが330,000円、500mm超望遠レンズは495,000円。
皆さんどうですか、使ってみませんか、と気楽には言えるようなスペックと価格のレンズでもない。私自身も、気軽に「普段使い」できるようなレンズでもない。でも、おおいに興味津々のレンズだったわけだ。
私がこの2本のSIGMAレンズを使ってみたかった理由は、最近のSIGMAレンズは大変に描写性能が良いこと。新製品レンズのたびに、ぐんぐんと右肩上がりにレンズ性能が良くなっているように感じる。どのレンズも気持ちいいほどシャープで良く写る。レンズのスペックも、大胆で、個性的、若々しい、アグレッシブ、いけいけドンドン。他のメーカーとはひと味もふた味も、ナニかが違う。
というわけで、SIGMAに頼んで2本の新製品レンズを使わせてもらうことができた。せっかくなのでカンタンなレンズ情報の報告と、フリーな立場で独善的なインプレッションをしたい。
まず15mm魚眼レンズから。500mmF5.6のインプレッションは次回に。
「SIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE」、DIAGONALは対角線、つまり対角線魚眼レンズ、対角線画角180度。デカい、重い。目立つ。ドッカン、とした存在感溢れるレンズだ、これがが第一印象。注目すべきはフィッシュアイレンズなのにF1.4開放絞り値のレンズであること。こんなレンズ他に類を見ない。
昨年2023年6月に、同じくSIGMAから「14mm F1.4 DG DN」という大口径超広角レンズが発売された。こちらのレンズも発表時には超広角F1.4大口径レンズということでスペックに驚かされた。さっそく写してみたがその描写の良さに驚いたレンズだった。
新製品の15mmF1.4魚眼レンズは、その14mmF1.4超広角レンズと外観もサイズも重さもほとんど同じ。たぶん同時期に開発が始まったのだろう。
14mmF1.4超広角レンズも新15mmF1.4魚眼レンズも、星空撮影(星景写真)に特化した性能をめざして設計されたレンズだ。
両レンズともメインターゲットは星空を撮影する人たちにマトを絞り込んでいる。だから私のような星空を写さない無粋なモノにとっては、お呼びじゃないレンズ、と言われても仕方ない。
しかし15mmF1.4魚眼レンズという特別なスペック。私のような星空撮影の門外漢でも「使ってみたいなあ、撮影してみたいなあ」と意欲が湧き上がる。そんなレンズだった。
で、さっそく15mm魚眼レンズを手にしてF1.4の開放絞りで写してみたのだけど、まず、その際だってシャープな描写に目を見張った。
少し絞り込んで撮ってみたが、絞っても絞らなくても画面中央部も周辺部も解像描写力にほとんど変化がない。F1.4開放絞りなのにその描写力に驚愕する。ナンじゃこのレンズは、と思った。
画面周辺の引っ張られたように歪んで写ってる部分まで、解像感はほとんど損なわれず文句なしの鮮鋭な描写なのだ。F1.4開放のまま、これなら画面の端っこにある点光源の星を〝点が点として〟写せるだろう、そう思わせるほど。
星空を写すには絶好の描写力ではないか。点(星)が点としてくっきりと写りすぎるから、わざと星の光点をソフトにぼかして点像を広げるために専用フィルターを使わなければならない場合もでてくるかもしれない(そのためのフィルターソケットがレンズ後端部にある)。余計な心配だけど。
14mmF1.4超広角レンズも同時に借りていたので撮り比べてみた。
15mmF1.4魚眼レンズのほうが文句なしに描写性能が良かった。とくに画面周辺部の写りが際立って優れている。
ただ15mmF1.4レンズは、魚眼レンズだから歪んで写る。そのため「使い道」が相当に限定されてしまう。どちらのレンズも特殊ではあるが歪みのない14mmF1.4超広角レンズのほうが「ツブし」が効くようにも思う。
でもしかし(星空撮影門外漢の私が言うのもヘンだけど)夜空の小さな星々までシャープに写したいならダンゼン15mmF1.4魚眼レンズがおすすめ。たぶん星空撮影のベテランの人たちは、すでにそのへんのことも、このレンズのことも百も承知千も合点だと思うけれど。
実は、対角線魚眼レンズで画面の隅っこまでこんなにシャープに写るとは想像もしてなかった。予想大ハズレで笑ってしまったほどだ。周辺部までパリッパリのシャープさで、解像力がめちゃ優れてる。
もともと、最近のSIGMAレンズ(とくにArtシリーズ)はコントラストやや高め、解像力抜群、クリアでヌケが良いという傾向があるけど、この15mm魚眼レンズはそれに「ワをかけて」る感じ。
レンズ構成断面イラスト図を見て光学ガラスレンズの多さにも驚かされた。21枚だ。まるで半導体露光装置のレンズのようではないか。
構成レンズ群のうち、蛍石なみ(性能と価格)のFLDが4枚、超低分散レンズが3枚、非球面レンズが2枚である。解像描写力の優れたレンズを設計するには「優れた光学レンズを最適な配置でたくさん使う、丁寧に正確に組み上げる」という鉄則があるのだが、15mm魚眼はその鉄則を証明してるようだ。
会津にあるSIGMA工場の製造技術力の高さにも感心させられた。めちゃくちゃ贅沢なレンズである。
最短撮影距離が約38センチということは、レンズ全長が約16cmだからワーキングディスタンスは20cmそこそこになる。ぐぐんっと近寄ってぼけ味を活かして画角180度の魚眼写真が撮れるではないか。
と、考えて至近距離でF1.4開放絞り値撮影してみる。うーん、期待したほどのシャープな描写力はなく収差の影響か、ほんわりと柔らかな描写だった。遠くを写したときの描写とは大違い。
ということは、やはり、遠景撮影に特化したレンズ設計をしているようで近景撮影は意図的に犠牲にしてるようだ。
F1.4開放絞り値で(星空以外の)あれこれを写して重箱の隅をつつくように見てみたが、くどいようだが星景撮影ドシロートの私が言うのもナンだけど、星空撮影にはイチ押しレンズと言って間違いはない。
SIGMA 15mmF1.4魚眼レンズを使ってみてあらためて実感したのは、優れた解像描写力を持つレンズはそれなりの画素数、例えば4000~5000万画素クラスのカメラと組み合わせることで「本来の描写実力」がよくわかる、ということ。
言うまでもないが2000万画素クラスのカメラで撮影しても「実力の一端」はわかるだろうが、ちょっとモッタイナイ感じもしないでもない。
もう1本の超望遠「SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS」の独善的インプレッションは次回、2回目に。
【追記】
いちおう参考までに、魚眼レンズ「15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE」と、超広角レンズ「14mm F1.4 DG DN」のレンズ構成イラストとMTF図を添付しておく。MTF図などを見比べるとオモシロイ、と思う。