ゆうきまさみ先生の歴史マンガ『新九郎、奔る!』の9巻! 若き北条早雲、伊勢新九郎は歴史の奔流へと巻き込まれる!? 今度の戦いは『交渉』だ!
『究極超人あ~る』や『機動警察パトレイバー』を代表とするゆうきまさみ先生の歴史マンガ『新九郎、奔る!』の9巻を読んだのでレビュー紹介をします!
まずこの主人公の伊勢新九郎盛時っていうのは後に北条早雲と呼ばれ、戦国時代の北条家(鎌倉時代の北条家と区別する為『後北条』などと呼ばれる)の礎を築いた人物。
近年までその存在が謎とされて一介の素浪人から成り上がった、戦国大名の魁、ザ・下剋上の人とされていた北条早雲が、実は名家伊勢家の出身であることがほぼ間違いないとされている説を元に、若き日の北条早雲を描く歴史ロマン!
十代の青春真っ盛りの時期に応仁の乱に遭遇し、目の前で兄の死を目の当たりにした新九郎は、元服し家督を継いで、なんとか伊勢家とその領地を守らないと悪戦苦闘四苦八苦していたのだが、9巻に至ってとうとう歴史の表舞台(※)に出ることになる。
ていうかね! 9巻! もう滅茶苦茶面白いんです!
あ、すみません、歴史好きにはたまらないポイントなんですよ!
なんてったってね!
ここが歴史のターニングポイントなんですもの!
面白くないわけがありませんよ!
まず、この巻のポイントを洗い出していこう!
1.なぜ、伊勢家の新九郎が今川家の家督相続に首を突っ込むことになったのか?
これまでのコミックスを読んでいたのなら、当然わかることなんだけども、この当時の駿河の大名は「今川義忠」。ところが彼は遠江の領地を欲して、味方の軍を攻撃してしまい、その後の戦いで討ち死にする。
(この頃、各国は西軍東軍が入り乱れていたとはいえ、うっかりが過ぎたわけだ。当時は正確な地図もGoogleMAPもないしね!w)
これが後々に禍根を残し、幕府に対して反乱の意思が駿河にあると思われてはならないと義忠の嫡男、龍王丸(たつおうまる)の相続を問題視する一派が現れたわけだ。
その一派は、義忠の従弟である今川(小鹿)範満をを擁立。
駿河国内は二派に別れて相争うこととなった。
その調停に動いたのが関東で絶大な勢力を有する扇谷上杉家。その調停役に太田道灌という知謀に長けた武将を寄越してきた。
一方、駿河の問題を重く見た幕府からも、使者が使わされることになった。
その使者役に白羽の矢が当たったのが、我らが伊勢新九郎である。
この時、新九郎は若干21歳。調停役には若すぎるが、今川義忠の奥、北川殿は彼の姉であることからこの大任を請けることとなる。
つまりは新九郎は自分の甥に今川家の家督を継がせる為に粉骨砕身の努力をしなければならないということだ。
さて、領地荏原にていささかの折衝事を経ており、交渉にはそれなりの自負を以て臨むが相手は、この動乱の世を渡ってきた海千山千!
ここで新九郎は太田道灌に対して、初めて『脅威』を感じる。
彼はこれまで山名宗全や細川勝元という、応仁の乱に於ける総大将の身分とも会ってきたが、それ以上の気迫と威圧を道灌から感じたのだ。
これには家臣にこぼした時
と言われているのだが、おそらくは戦場や交渉に対する『現場』で叩き上げられた男の背負うものに圧されたのではないかと推測する。
無論、巻末では「道灌(あのひと)に勝ちたいっ!」と機動戦士ガンダムのアムロのセリフをパロって新九郎が闘志を燃やす。
そしてその直前に道灌から「今回の調停を自分の実力だと思うなよ!」とランバ・ラルみたいなことを言われていることからのパロディだと思うんですが。
このあたりがゆうき先生テイストですね。
2.なぜここが歴史のターニングポイントなの?
さて、この地方の守護大名の家督相続がなぜ歴史の一大イベントなのか?
それについて説明が必要であろう。
ここをわかっていなければ、この巻の面白みは半減する。
さて、駿河の今川家といえば、戦国大名で有名な『今川義元』がまず出てくると思われる。
え? 出て来ない? 中学の日本史で絶対出てくるから!
あの織田信長に桶狭間の戦いで討たれた人って言えば、ちょっとは思い出してくれるかな?
この今川義元の父親こそが、この巻で今川家の家督を継ぐことになるかどうかで争点となっている『龍王丸』で……。
はい、ついつい漢字が同じなので使いましたが、こちらは『魔神英雄伝ワタル2』の「龍王丸(りゅうおうまる)」ですね。
作中に登場するのは『龍王丸(たつおうまる)』になります。
この龍王丸こそが後の今川氏親……つまり今川義元の父親がこのまま今川家を告げるかどうかが問題になっているんだよ!
えっ? それのなにが問題かわからない?
あのね。
今川氏親が家督を継げないということは後の今川義元もそもそも生まれたかどうかもわからないわけなんだよ?
あの東海一の弓取りと怖れられた戦国きっての戦上手の今川義元が出現しない!
そんな戦国時代ってあり得る!?
今川家がこの後、力をつけなかったとしたら?
義元が生まれなかったら?
そもそも三河の松平家も人質交換とかしてないから徳川家康が出て来ない。
(三河を今川領地にしたのは義元。)
それになにより、義元を討つ機会がなければその後の織田信長や豊臣秀吉の躍進もなくなっちゃうんだよ?
つまり、戦国時代からの日本の歴史が大きく変わっちゃうってことなんだよおっ!
そう!
つまりその後の日本の命運を左右することを、この若き伊勢新九郎はやろうとしているのだ!
それをあの関東随一の戦上手と謳われた太田道灌を相手に!
そう思ってもう一度この巻を読むと、「新九郎! なんとしても龍王丸を守れっ!」と手に汗握ってしまうのだ!
まさにここが歴史のターニングポイントだといえよう!
3.新九郎と知略を競った太田道灌って何者?
さて、太田道灌って聞いたところでそれなりに歴史を知っている人でも「家康の前に江戸を開いた人だったっけ?」くらいしか思わないだろう。
実際、私もそうだった。
しかし冷静に考えて、それなりの実力を有していないことには後々辻褄が合わなくなってくる。
その辻褄とは……。
後年、天下統一を(ほぼ)成し遂げた秀吉によって、家康は江戸に封じられる形となる。
その江戸こそ、かつて太田道灌が開いた土地。
ここで名も知らない、ど三下の武将が築城した場所だったなら、さすがの家康も易々と承諾しないだろう。
だが応仁の乱直後、動乱の関東を生き抜いた、当代きっての戦上手、太田道灌の土地という『箔』が付けばどうだろうか?
ここに秀吉の腹黒い策略が見え隠れする。
つまり、後年まで太田道灌という威光が残るということは、それほどの人物でなくてはならないのだ。
そう考えると、若い新九郎が相対するにはまだ荷が重いと思わざるを得ない。
さてさて、一旦交渉が無事に終わってほっと胸を撫で下ろす新九郎一行……。
しかし、その決定に納得しない連中が両陣営にまだくすぶっていた!
時は戦国!
納得いかないなら武力行使は世の常な時代!
さて次巻!
時代の奔流、その渦中へと巻き込まれていく新九郎の、明日はどっちだっ!?
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