北野詠一『片喰と黄金』待望の4巻!凄惨な世界で逞しく、そして貪欲に”生”にしがみ付こうとする少女とその従僕は、”大富豪”を夢見てゴールドラッシュに沸く19世紀アメリカ西海岸を目指す!
『片喰』:片喰(かたばみ)とは、道端に生えている小さくかわいらしい植物。
生命力・繁殖力が強く、その土地に根付くと群生する雑草でもあるので「子孫繁栄」の意味合いもあり、世襲を大事にしていた武将にも好まれ、片喰紋として使用された。
戦国大名、四国の長曾我部元親は「七つ片喰」、また宇喜多秀家は「剣片喰」なども使っていた程に、メジャーな家紋。
とあり、いわゆる「生命力の強く見た目にも愛らしい雑草」としての『片喰』がゴールドラッシュに沸くカリフォルニアを目指すという、物語の根幹を見事に表したいいタイトルだと思われる。
以前、ネットで読み始めて、1巻まるっとが無料で読める時に、すっかり魅了されてしまった。
以来、ずっと新巻をチェックしているのだが、ハッキリ言って面白い。
絵の好みが分かれるだろうが、事件の起こし方が巧妙で毎巻引き込まれて続巻が楽しみでならなくなる。
是非、彼女たちが成功を収めるまで続けていただきたい。
のでお布施の為に購入しているが、多分足らないので、ここで布教する。
1巻は今も期間限定だけど無料公開されているので、この機会に是非!
お話の内容は以下の通り。
19世紀半ば、アイルランドの大地を未曾有の飢饉が襲った。
アイルランドの片田舎の農場主の娘、アメリアとその従僕であるコナーは食糧の無い中、日々細々と命を繋いでいた。
いよいよ、糧食もそこをつき、空腹も限界を通り過ぎた頃……遠くアメリカ西海岸から流れてきた『噂』をアメリアは耳にする。
その噂こそ……。
ゴールドラッシュ!!!
黄金を手にすれば一夜にして一攫千金億万長者も夢ではない!
明日も知れない身ならば、いっそその夢に身を投じようと、飢えて痩せこけたアメリアはたった一人の従僕を伴ってアメリカ西海岸を目指す。
しかしアメリアを待っていたのは夢の新大陸ではなく、欲望渦巻く抗争の地だった……。
その中でも、様々な出会いを果たし、逞しく生き延びていくアメリア……。
彼女が黄金を手にすることは出来るのか?!
というお話!
どう?
どうよ?
読みたくなってきただろ?
そして4巻では、旅の途中で遭ったイザヤとの再会の約束を果たす為、ケンタッキー州の富豪の家を訪れる。
しかし、当時のケンタッキー州は黒人奴隷を容認している州だった。
そこでアメリアは、『黒人奴隷』の迫害を受けているのを目撃しまう。
これから訪れる富豪も、そういった謂われのある所かと思いきや、その富豪モラレスは黒人を「奴隷」ではなく家族同然の「使用人」として扱っていたのだ。
しかし、まだモラレス家に来たばかりの若い黒人青年は、その環境を信じられずに逃亡を企てる。
偶然にそこに居合わせたアメリアを引き連れて……。
というところで以下続刊。
細かい所は是非読んで欲しい!
いや、マジで!
とにかくこの作品の凄いところは、キチンと時代考証もした上で、お話の演出として必要なところはしっかりとそのエッセンスは表現しているところ。
時代考証ガッチガチじゃなくって、マンガとしておもしろいなら、取り入れてしまおうという柔軟な姿勢がまた素晴らしい。
(単に資料不足だったという話もあるのだろうけど……)
それでいて、当時のアメリカ東海岸に於ける「アイルランド人迫害」や、今巻にしても「人種差別」なども怖れずに描いているところ。
これ、すっごい大事。
ともすれば昨今の流れでは「差別を描くなんて!」という声が聞こえてきそうだが、私はそうは考えない。
歴史の事実から目を逸らしてはいけないのだ。
そこにもしっかり向き合って描こうとしているこの作品を私は評価したい。
それで居て所々のちょっとした息抜きなコメディ的な表現が、この凄惨とした世界を和ませる。
とはいえその中でも、貧困と飢えに慣れ親しんだアメリアが、美味しいものを口にすると思わず鼻血を出すのは、コメディと言ってしまっていいものかどうか迷うところだけれど……。
とにかく『生きる』ということに対して、貪欲に在り続けるアメリアの姿に心を打たれる。
北野詠一という作家は、この作品で初めて触れるのだけれど、「人間の本質」というものを問いかけるのが巧みな作家さんなのかな、と思っている。機会があれば他の作品も読もうと思う。
さて『片喰と黄金』彼女たちがどのような人々と出逢い、どのような顛末を迎えるのか、是非、皆さんの目でも追ってやって欲しい。