芸人を目指す”陽”と”月”の2人の漫才サクセスコメディ『かけあうつきひ』(福井セイ作)に見る漫才師の関係
漫才師という関係というものは、一般人にはかなり理解が及ばないのではないか?
つい先日も永年続いた人気芸人が、なんやかんやあって解散の宣言をした。
多くの人からすると「なんで!?」とも思ったことかもしれないし、2人が解散に踏み切った理由を、我々他人が推し量ったところで、それは真実ではないし、2人の感情を言い表すことなんて出来ないだろう。
その答えは2人の意識の中にしかない。
彼らの間ですらその真意をぶつけあったかどうかすらわからないのだ。
もしかしたら、お互いに朧気で曖昧な答えしか見出せていないのかもしれない。
全ては外野からの想像でしかない。
あるいは名人芸の漫才を披露し続けるいまや大御所となった漫才師は、その人気絶頂期に、何度も何度も解散の危機に直面したことがあるという。
それでも舞台の上では肩を並べ続けた。
その真意はなんだろうか?
もう絶縁したいと何度も思った相方と、ずっと居続ける。
その感情に一体我々はどんな名前を付ければいいのか?
そしてその関係をなんと言い表せばいいのだろうか?
親友、家族、仲間……。
否。
否である。
彼らの関係を言い表すのならば、
漫才師。
それ以上でも、それ以下でもない。
肉親よりも長く同じ空間に居て、お互いの呼吸も間も知り尽くした、永年の経験から来る信頼、笑い情熱、自分たちはおもしろいというプライド、そしておそらくは嫉妬も……。
そんな感情を永年抱き続ける相手が、ごく日常に暮らしていているだろうか?
しかも夢に向かってひた走る相棒でもあり、同時にビジネスパートナーであり、それでいてなにもかもを打ち明けられる(それでも隠し事の一つや二つはあるだろうが)間柄。
そうそう人生でそんな相手を見つけることはないだろう。
だが、そんな相手を見つけてしまった。出逢ってしまった。遭遇してしまった。
そこにお笑いの才能の塊を見つけてしまった。
その才能を伸ばす術を、自分の中に見つけてしまった。
だから、コンビを組んだ。
それが漫才師なのではないか?
私はお笑いが大好きだ。関西出身という土壌も手伝って、お笑いには一家言持っていると思う。
そんな私だからなのか、『漫才師』という人間関係に憧憬の眼差しを送らざるを得ない。
もしかしたら、あらゆる感情を乗り越えて存在する『漫才師』というものは人間関係の中でも、かなり上位の存在なのではないか?
いや、もしかしたら、恋愛や結婚などよりも上なのではないか?
そんなことすら考えてしまうほどに漫才師の関係性に興味を持つ。
そんな『漫才師』の定義はさておき、ここに貧乏ながら輝く未来を夢見てお笑い養成所に通う2人の女子の話がある。
福井セイさんの作品『かけあうつきひ』だ。
上狛陽と有戸月の2人はお笑い芸人を目指す親友同士で、高校卒業を機にバイトしながらお笑い養成所に通う日々。
2人のコンビ名は『400倍』! 太陽と月の大きさの比較が由来です。
太陽が月を輝かせるという、関係を暗喩しているのもついつい考えながら読んでしまう。
六畳一間のアパートに同居する2人の生活に溢れる、笑いと苦悩、夢と未来……そして信頼と親愛。
陽のキレのある関税弁のツッコミと、月の制御不能な独自感覚のボケの掛け合いに、思わずクスリとさせられる。
お笑いが題材なだけに、こういったギャグがきちんと機能していないとひたすら駄作街道をひた走るのだが、そこがきちんと楽しめるのに好感が持てる。
さて、ここで2人の関係なのだが……。
いや、そこは『漫才師』じゃないのかよ! というツッコミは敢えて受ける。
同じ『漫才師』だってその関係は様々だ。
そしてこの陽と月の2人の関係を、いち早く見抜いたのが
養成所の講師【黒清】。
彼はもしかしたら、と月の特性について、こう予想するのだ。
「……たまにいるんだよ…
状況判断とか…
野心とか…
一切関係なく…
ただ隣の相方に笑ってほしくて…
相方の反応が楽しくてお笑いを
やってるヤツが…」
かけあうつきひ第3話「日頃の感謝をここで述べただけだけど…」から。
そして、その相方の陽にも、ある才能があるのかもと推察する。
そしてもしあのボケの子がそうなら…
あの金髪の…ツッコミの方にも立派な才能がある…
言わば…
相方に愛される才能───
と、密かにそんな秘めた才能の片鱗を感じさせる一方で彼女たちの貧乏暮らしは続いていく。
陽と月、400倍が輝く瞬間は来るのか?
という2人のサクセスストーリーを期待しつつも、私は完全に別目線で読んでいる。
ぶっちゃけこれ、上級百合コミックだろ!
なのでお笑い好きも百合好きも、読んで!
サンデーうぇぶりでネットで3話まで読めるし、アプリでも読めるよ!
もちろん、コミックスでお布施払うのもアリですよ!
https://www.sunday-webry.com/detail.php?title_id=5686
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?