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Name five things in your house

この本が出てからまだ1ヶ月ぐらいしか経っていませんが,実は新しいライティングの本を執筆中です.いつ世にでるのかはまだわかりません.

書きながらときどき憂鬱になることがあります.自分がしていることは結局徒労に終わるのではないかと思うからです.

あまり自分の思想やこだわりを人に押し付けるのは好きではないし,押し付けられるのはもっと好きではないのですが,多かれ少なかれ,自分が書く本というのは,ぼくの言語観だったり,こだわりや好みに影響されています.

実は,ぼくは英語であれ国語であれ文法は本当は大嫌いです.いや,文法が嫌いというより,文法にこだわる人,あるいは文法にこだわることにこだわる人が嫌いなのかもしれません.

別に,特定の誰かを誹謗中傷する意図はまったくないのですが,「日本人は文法にこだわりすぎるから英語が書けないんだ/話せないんだ」という本当だか嘘だかよくわからないお馴染みの言説(このことをdiscourseと英語でいうらしいです.いや,フランス語のdiscourから来たのか.「談話」とか「言説」とか「ディスコース」とか「ディスクール」とかはよくわかっていないし,わかる気もありません.くだらない余談)があります.まあ,正直,「日本は外圧がないと変われない」ぐらいのそうかもしれないし,違うかもしれない,という程度のことだと思うのに,カチンとくる人がいるようです.

まあ,この人たちは文法を一生懸命教えていて,自分の仕事に誇りを持っているから,「文法にこだわりすぎるからダメ」とか云われると,「文法に(おそらくものすごく)こだわっている」自分の存在理由(raison d'être「レゾン・デートル」フランス語で英語にするとreason to be)を否定されたことになるのかもしれません.でも,実際のところ,話す際に「文法にこだわりすぎないこと」ということは,かならずしも「文法は意味がない」にもならないはずだし,正直,怒ってまた「そんなことはない.文法は大事だ」ということを熱く語っても,もともと文法好きな人は「よく云ってくれた!」と溜飲(りゅういん)をさげる(ちなみにこのコロケーションはぼくのactive vocabularyにはありません)のかもしれませんが,この発言を聞いても,英語も文法も得意でない人は気に留めないか,ヘタをすると「また日本の英語の先生が何か云っているよ(苦笑)」ぐらいにとるかもしれません.

また,いくら文科省だろうと,英語のできる意識高い系の人たちが何を云おうと,結局,中学時代は,進学校も塾もよほど先進的なところを除いて,『新中学問題集』とか『シリウス』だとか『錬成テキスト』とかよくわからない文法ドリルをやらされるのが普通です.高校に入ると,ほとんどのところで,授業でどのぐらい使われるかは学校によって違うでしょうが,学校指定の「総合英語」と名のついた文法書を買わされます.これらの教材が完全にダメとは思いませんが,面白みを感じない,というのは多数派ではないでしょうか.

そういう中,ぼくは「文法はいらない」とは思いませんが,「文法にこだわらない」と呼ぶかはともかくとして,「文法の習得が目的ではない」タスクを扱う教材に興味があります.だって,市販の教材だって,基本的に「英会話」とか「英作文」とか「ライティング」とか謳っているのに,文法の習得が目的の教材ばかりですから.

で,いま書いているライティングの本も,基本的に英語が相当苦手な人でも書けるようにすることを目的としていますが,文法の習得を構成の中心には据(そ)えません.そう云うと,「でも,初級者はセンテンスが満足に書けないでしょう.文法なしにどうして」のように考える人が出てくる(幸い,オンライン含めて,日頃,ごくわずかの知人を除いて,人とコミュニケーションをすることがないので,ぼくに直接変なメッセージを送ってくる人はいません)と思います.

ぼくの考えでは,単語やセンテンスを書くことは立派な「ライティング」になり得ますが,「基本文型」や「重要構文」の習得のために,与えられた日本語を英語にするのは「ライティング」ではありません.「ライティング」に必要な英語力をつけるためにそういうタスクを課すことは否定しませんが.

Name five things in your house

この記事のタイトル

「家にあるものを3つ挙げなさい」として,bathtub, dining table, refrigerator, bookshelf, bedのように答えてもらうのは立派なwriting taskです.で,答えのスペリングに間違いがあれば(これは「文法」とは呼ばないでしょうが)教室なら正しい「形」を教えるのが普通でしょう. 

タスクそのものが文法や表現の習得に置かれていない,というのはこういうことです.実際,英語圏の子供は幼稚園とか小学校低学年の「言語技術(language arts)」や「社会科(social studies)」でこういう宿題を出されるんで,こういうのをもっと取り入れてもいいのに,と思っています.


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