【CSO今村インタビュー】複合的なAI技術を用いた課題解決を目指して
THIRDはプロダクトに用いるAI技術を自社で独自に開発しています。社内でプログラミングコンテスト・勉強会を定期的に開催しており、豊富なAI人材が揃っています。
DX化が身近になるに伴い、AIの社会実装も進みつつあります。それはTHIRDが相対する不動産・建築領域でも同様です。そうした現状において、THIRDのAI開発の現場ではどのような見解を持っているのか、CSO (Chief Scientific Officer=最高科学責任者)の今村へのインタビューを通してご紹介いたします。
これまでのAIとの関わりと、THIRDに出会うまで
-THIRDに至るまでの経歴を簡単に教えてください。
元々、大学院時代では知能情報工学分野を専攻していました。大学院卒業後は東京で約2年企業に勤めた後、地元の福岡に戻りweb系の開発案件を請け負う個人事業主として活動していました。競技プログラミングにはその当時から取り組み始めています。Topcoderマラソンマッチに初参加した時に2位を獲得することが出来て以降、競技プログラミングに興味が湧き、TopCoderOpenファイナリストに3回選出、KaggleMasterを授与される等、実績を積んでいきました。
THIRDとは、個人事業主で請け負う案件がWeb系からAI系にシフトしていった際に出会いました。AIにシフトしたのは、より難易度の高い課題を紐解くことにやりがいを見出していたこと、また世の中の需要も増えていたことが理由です。THIRDで案件に取り組むうちに、向き合っている不動産・建築領域における課題の根深さ、それらを解決した際の社会的インパクトに興味を持ち、2018年12月にCSOに就任しました。
AI業界における、これまでの潮流とは
-これまでのAIの潮流を教えて頂けますでしょうか。
私がAIプログラミングと出会ったのは、15歳ぐらいの頃です。 当時から今に至るまでAI業界が目指したのは、人間のように複雑な情報処理が出来るプログラムの開発です。そのために様々な技術が発明されては廃れていきました。
基本的な流れはいつも同じです。過去と比較して処理できることの幅が広い有力な技術・新手法が発見されると、可能性を求めてその分野の研究者が増加します。すると、そのうち1人の天才が現れて、実現可能なことの限界が理論化されます。その結果、研究者はその分野から解散し、過去学んだことを生かしつつ、別分野で新しい手法を発見しにいくのです。この業界では同じことを何度も繰り返してきましたが、2006年頃から発明されたDeep Learning はそれまでの技術と一線を画し、今もなお有効な手法として業界全体に影響を与え続けています。
Deep Learning は、元々ニューラルネットワークと呼ばれる脳の神経細胞(ニューロン)を模した数学モデルの延長線上にあるものです。それまでのニューラルネットワークでは、AIの層の深度に伴い、学習に必要とする時間が爆発的に増えることが課題でした。そこにいくつかの発明により時間の問題が解決され、それまで課題とされていたことに無数の解決策が示され始めたのが現在の流れであり、これらを統合してDeep Learningと呼んでいます。
個人的には、これらの情報処理において最も効率的に処理可能なモデルが、生物の脳を模した様式であることは偶然ではないと考えています。なんというか、ロマンを感じますよね。
-Deep Learningという名前はよく聞きますが、浸透が進んだ理由は何でしょうか?
AI業界の発展には、インターネットの普及も大きく影響しています。多くの人間の活動がインターネットを通じて電子で残されるようになり、ビッグデータで解析可能な社会になっていったことで、人間の活動の軌跡を生のデータとして取得できるようになりました。今、例に挙がっているDeep Learning が発明されたのも、そうした技術発展の素地が整ってきたことが背景にあると言えます。
先程の話でもありますが、研究開発とは、対象となる技術が「実際にどこまでを可能にする技術なのか」、逆から言えば「その技術の限界とはどこにあるのか」を探るための営みとも言えます。それ自体が有効な技術であるのか見極めるための検証を行っているようなものです。
その観点で言うと、Deep Learning は今まで不可能だったことを実現したテーマが多く、また長期的に見て実現できないと証明されてはいない=実現する可能性があるテーマも多いため、人もお金も集まっていると思います。とはいえ研究が進めば、限界を定義づける解が生まれ、新しい技術がまた発明されていくのではないでしょうか。
こうした技術が用いられ、現在、THIRDのように分野に応じたAI開発が進んでいます。分野を限定せず、全ての課題やタスクが片付くような汎用的なAIの開発は、人類総出で頑張っているところです。
レガシー産業である不動産・建築領域における社会実装とは
-不動産・建築領域でAIがもたらす変化や可能性について、どのように考えていますか?
不動産・建築業界では紙主体の業務フローが定着しているのはご存知の通りです。(不動産業界の課題については、是非こちらの記事もご参照ください。)それでは、何故紙媒体から離れられないのかというと、紙の上だと自由度が高いことに利便性を感じているからだと考えています。これまでの機械は決して汎用性が高くありませんでした。建物管理の現場も決まったことだけが起こるのではなく、イレギュラーが発生することも多々あります。その時は、フォーマットの自由度が高い紙でなければ逆に不便だったのではないでしょうか。それが、AIの登場によって柔軟性が求められるタスクを機械に置き換えられるようになりました。そうすることで紙からの脱却を目指していく、それは業界にとっても大きなインパクトになるかと思います。
もう1点、紙媒体が残る理由に、DXを推進するためのコストが高いことも挙げられます。現場が効率化されていなくても、導入に必要なIT費用を踏まえると機械化にメリットを感じにくかったのではないでしょうか。
だからこそ、不動産・建築領域におけるDXには、“人間であっても出来なかったことでの付加価値”を作り出すことが必要になります。それは従来のIT開発ではどうしても難しいので、やはりこの業界においてAIの導入は必須になるのではないでしょうか。
-エンジニアの立場から見ても、それは興味深いものになりそうですね。
機械学習において銀の弾丸はないとされていますが、アドホックな対応と組み合わせることで出来ることが広がっており、私自身は技術そのものというより、技術の使いこなし方に興味を持っています。Deep Learning にしても他の機械学習にしても、単独で役に立つことは少なく、他の無数の知見と組み合わせてこそ、その力を発揮するものだと思います。
技術を先に選定し、その技術をベースに課題を探すやり方では、イノベーションに繋がるとは考えていません。業界特有の課題に合わせて、適切な技術を柔軟に選択していく方が、大きな変化を起こせると考えています。当然、その時には複数の技術を組み合わせるような複合的なソリューションを見つけることも必要です。そういった背景から、THIRDでは特定の狭い技術領域の専門家集団ではなく、素地としての能力が高い人材を確保することを最優先に考えています。
THIRDにおけるAI開発のテーマと体制
- THIRDのAI開発で取り組んでいるテーマついて、教えてください。
現在、THIRDでは、お客様にプロダクトを活用いただく度に精度を高めていくような、プロダクト活用フローと改善のサイクルを内包化させることをテーマとして掲げています。技術としては画像解析とDeep Learningを用いることが多いです。
管理ロイドでは、導入棟数が増える毎に、建物の現場で使われている新しい型のメーターと遭遇している状態にあります。その結果、新しいメーターのデータ取り込みに失敗することがあるのですが、失敗の事例が出ることで改善のプロセスに自動的に接続するようなサイクルを、プロダクトの中に設計しています。これを管理ロイドのメーター認識だけでなく、社内で開発しているAIプロダクト全体に広げていくことが最大のテーマです。メーター以外ですと、工事ロイドでOCRを提供していますが、そちらの精度向上にも取り組んでいます。
機械学習をしていく上では、様々なデータを集めていることが重要になるのですが、世の中にはデータ化されていない情報がたくさんあります。それらをデータ化するフローを自前で構築出来ていることは、THIRDのAI開発における強みであると思います。
- 他社ではAI開発経験者を採用するケースが多いそうですが、THIRDでは未経験者にも対象を広げているのはどういった理由でしょうか ?
べースの力があれば、競技プログラミングコンテストで成果を上げることは難しくありません。例えば、私を例に挙げるとKaggleの機械学習コンペでは初参加でSolo Goldを獲得し、THIRDのメンバーでも、入社前は初心者練習場でしかプレイしていなかったにも関わらず、入社後にSolo Goldを取得したメンバーもいます。このように、機械学習にまつわるバックグラウンドを持っているか否かより、地力が物を言う世界なのです。
また、先程の話にもありましたが、THIRDのAI開発では特定技術ではなく複合的な活用に重きを置いています。そういった方針を鑑みても、特定領域で経験があるより競争の場で実力を示していることの方が重要だと考えています。
- 最後に、チームを作る上で大切にしていることを教えてください。
属人性が高過ぎる場合、それは企業として技術を保有していることにはなりません。また、特定の狭い範囲を全員が取得しているよりも、広い範囲をお互いにカバーしあっている状態の方が、研究開発においては効率的です。そのためにAI開発部では毎週当番制で勉強会を実施しており、重要な技術ほど自然と取得している人が増える状態を心がけています。
また、基本的に私よりも高い能力を持つ方々を採用しているので、細かく指示を出すよりも任せたほうが良い結果を生むことが多いです。任せたからには、細部で自分の考えと違う部分があっても、可能な限り受け入れるように心掛けています。ただし、大方針については責任を持つ人間が必要となるため、そこは私が担うことが多いです。
有難いことに、稀有な人材が集まっているので、メンバーのポテンシャルを最大限生かしていくことで、THIRDとして提供できる価値を最大化できるよう努めていきたいと考えています。
THIRDでは積極的に採用活動をしています。(採用サイトはこちら)
是非お気軽に話を聞きに来てください。