Spiral Capital千葉様×THIRD、投資家インタビュー❶後編
THIRDの資金調達リリースに伴い、投資家の皆様がどういった点でTHIRDを評価したのか、代表の井上との対談形式でお届けするインタビューです。
本記事はSpiral Capitalの千葉さんとの対談シリーズの後編となります。
THIRDに限らず不動産Tech業界がどのような変遷を辿っているのか、その中でTHIRDがどんな立ち位置で貢献していくべきなのか、過去に不動産Tech企業で経営を経験した千葉さんならではのお考えを交えて伺いました。
インタビュー前編はこちらからご覧いただけます。
どのようにスケールしていくのか?不動産Techの検討で考慮すべき落とし穴
THIRD井上(以下、井上):
千葉さんがこれまで投資してきた中で、他に不動産領域の銘柄はありましたか?
Spiral Capital千葉さん(以下、千葉さん):
不動産の周辺領域はそれなりにありますね。スマートシティ、電動モビリティ、VR内見、ハウスクリーニング/リフォーム等のサービスEC、屋根の施工管理を支えるドローンなどもありました。ただ、いま思えば不動産業務のど真ん中の領域はあまり投資してきたことはなかったです。
井上:
少し意外です。何か理由はありますか?
千葉さん:
私が不動産Techをやっていて数多くの失敗をしてまして(笑)他の領域以上に落とし穴のイメージがつきやすく目線が厳しくなりがちでした。不動産Techの起業家の方自体はお会いすることが多いのですが、実際にスケールすることを確信出来る会社にはなかなか出会えなかったですね。
井上:
自然と企業選定の段階で厳しくなりがちだったのですね。
千葉さん:
あと、不動産だけで40兆円もの市場があると言われているものの、顧客セグメントが多いため細分化されやすく、特定の業務の効率化を担うサービスだけでスケールするのは難しいと感じていました。
井上:
おっしゃる通りです。にも関わらず細分化された先が深く、横展開がしにくい領域ですよね。売買や賃貸でも同じ仲介というビジネスをしていますが、必要とするスキルセットが全く違うので、横の領域に広げていく設計が難しいと感じます。
千葉さん:
不動産に限らずバーティカル関連の産業変革を目指すSsaS企業全体に言えますが、アプローチ出来る社数や課金額が限られることも多く、シングルプロダクトだとスケールが難しいケースは多いです。イタンジでも業務ごとに様々なSaaSを開発したのでわかりますが、周辺に広げて大きなパイを狙いに行くことが重要である一方で、広げること自体は容易ではありませんでした。特定領域でしっかりニーズを掴むプロダクト作り、シェアを取ってから横展開していくのが定石とも思いますが、口では簡単に言えても実際に形にするのは難しいですよね。
企業のニーズの変化とAI技術の成熟、外部環境の変化のタイミングが鍵
井上:
かつてスタートアップ業界では一点突破型のソリューションを作って中小企業に拡散し、シリーズBやCのタイミングでエンタープライズに行く動きが主流だった頃がありますが、そのスタイルは不動産業界では相性が悪いということでしょうか?
千葉さん:
そうですね。他の業界と異なるポイントでもありますが、不動産業界だと大手企業の方がリテラシーが高いんですよね。中小企業ですとExcel管理で実際に事足りる規模の物件管理数であることも多く、客観的に見てもデジタル化の優先順位が低くなることは多いです。また、地場密着型で全国に数多く分散しているため、ターゲットの顧客に広く効率的にリーチするチャネルもないですし、デジタル化による営業コストが見合わないということも起こりがちです。結果的に、有効なアプローチがFAXを用いたダイレクトアプローチやセミナーがメインになります。と考えるとやはり大手から攻略するのが効率的ですよね。
日本のSaaS業界では、初期はfreeeやマネーフォワードなどのSMB向けがメインというのが特徴でした。エンタープライズ向けの基幹システムはSIerの牙城が強く崩せなかったのですが、最近は大企業のDXの意識が強くなる中でエンタープライズの中でもSaaSが一般化しており、昔よりもエンタープライズ向けのSaaSが成立しやすい環境になってきていると感じます。THIRDも10年前にトライしていたらタイミングが悪かったかもしれないですよね。
井上:
そうですね。お客様の社内にはDXの専門部署とかなかったですし。
千葉さん:
また、AI技術の成熟が重なったのも大きいです。スタートアップで事業を起こすにはWhy Now?が大事であると良く言われますが、今回のTHIRDへの出資はそういったメガトレンドを含んだ外部環境が整ったことも影響していると思います。
井上:
私も新卒は日本オラクルでエンジニアをしていましたが、その当時はベンチャーのシステムを基幹システムに採用する大企業の姿なんて想像できなかったです。そしてDXという時代の後押しを持ってしても、AI技術を抜きにして、開発しているシステムの現場との親和性や優位性をつくるのは難しいと感じます。
千葉さん:
レガシーな産業でDXを推進するということは、業務をすべて塗り替えないといけないじゃないですか。無視出来ない規模の乗り換えコストが発生しますが、それを解決するのはAIしかないと思うんですよね。最近のSaaSでも、ネットやスマホなどの画面で完結するものよりかは、リアルワールドを巻き込んだDXが進んできている中で、AIの技術を持つことが不可欠であるように感じます。リアルを変革する、オンライン化されていないリアルなものをデータ化することを実現できる意味でもTHIRDには期待が高まりました。本当に、私の立場で言うのもなんですが、タイミングがよかったですよね(笑)
井上:
本当にそう思います(笑)
データ化されていない一次情報のデータ化、そこから広がる無限の選択肢がある
井上:
いろんなテクノロジーを見て投資してきた中で、私たちのテクノロジーの面白い部分とはどのような点だと捉えているか、お聞きしてもいいですか?
千葉さん:
賃貸物件などの流通領域と比較して、管理はデータの取得ポイントが物理的な接点によるものなので、データ化されていないものをどうデータ化するのかがポイントになりますよね。それはAIなどの最先端の技術を組み合わせるからこそ実現出来るのではないでしょうか。要は現場の深い理解とAI技術の総合格闘技であるということです。建物に付随するあらゆるデータをどうデータベース化していき、業務の効率化に活かしていくのか。そのあたりが興味深い点だと思います。活用の仕方も色々ありそうですよね。
井上:
建物管理の世界ではいま大変革が起こっていて、業界の10年後がどうなるのか社内でも頻繁に議論しています。例えば、大型の建物では中央監視装置によってスナップショットで異常の有無を監視しているのですが、そこのデータと管理ロイドを連携できないか?などの話は出ています。ただ、スナップショットのデータを蓄積して意味のあるデータを形作るのはとても難しいんですよね。通常の不動産管理で必要としているデータの粒度が違うと、現場で欲しいデータに加工する必要があります。なので、日々の業務の延長線上で自然と活用できるデータの全体設計が最初にないと、データをただ貯めるだけの箱になってしまう問題があります。
千葉さん:
管理ロイドだと、物件の修繕などを通じてアセットバリューを最大化させるために、建物全体のデータからメンテナンスデータをつなぎこむというのが面白いポイントですね。不動産業界は元々土地と建物自体に大きな価値がありますが、メンテナンスの履歴をデータ化することでアセットバリューを高めることにつながるのであれば、不動産投資などの金融的な目線が加わりアクセス出来るマーケットサイズが変わってきます。
THIRDが管理ロイドでアプローチしようとしているデータは不動産のバリューチェーンの中でもアセットに近いところですよね。メンテナンスの履歴データは、売買時にデューデリジェンスのデータとして使えるでしょうから、管理ロイドを用いて建物を点検すればするほど、メンテナンスデータが蓄積され、運用を踏まえた建物の価値の証明になっていきます。つまり、管理ロイドが不動産の価値を値下がりさせにくくするツールとして認知される可能性もあると。そうするとまた違う次元で不動産Techとして成長出来そうです。
井上:
おっしゃる通りです。それはまさに私たちのビジョンでもある、「Clear Deal, Clear World」にも通ずる部分になります。
千葉さん:
不動産の世界だと一次情報を取れることが強いですよね。私がイタンジに所属していた当時も、情報が最初に入力されるインターフェイスとしてレインズやATBBなどの情報の上流を抑える事業者が圧倒的に強かったです。賃貸物件を扱うポータルサイトを作ったところで、不動産会社の入力の手間が増えてしまったり、既存の物件管理システムから情報を転載してもらう必要が発生するなどの課題があり、情報流通の下流から上流に登るのは難しいと思っていました。データ化されていないものをデータ化していくことは、最上流の一次情報を取るポイントを抑えるということです。THIRDだとそこにSaaSでしっかり入り込むことで他で取れない一次情報を取れるようになっていることが面白いと思います。
井上:
そうですよね。不動産の一次情報は物件名と住所だけでは意味がなく、どこまで詳細なデータを取れるかによってその後のビジネスが変わります。不動産業界のビジネスは突き詰めると情報産業に近いと感じています。なので、現時点でデータ化出来ていない素地が多いことは大きなチャンスなんですよね。レインズなどにあふれている賃貸や売買の情報に、建物のハードとしての情報が付帯すると、様々な可能性が広がります。
また、不動産Techにおいては必要なデータをどのように取得しているのか、誰よりも早くそのデータを取得できるのかも、とても大事だと思います。最近、ロボットや監視カメラの画像、センサーなどを活用して建物データを蓄積しようとする動きが出てきていますが、1からこのデータを地道に集めて、集めたデータをどんな価値に転換するかを1から作ろうとすると数年単位の時間がかかってしまうケースが多いです。不動産にかかわるデータをすでに持っている会社や組織が、最先端テクノロジーを活用して今取得できない隙間のデータを利活用する方が早いと感じることも多々あります。そういった設計も拘っているポイントですね。
千葉さん:
THIRDのビジネスが業界に定着すれば、管理ロイドでちゃんとメンテナンスをしているのか否か、工事ロイドで効率的に適切な業者に発注しているのか否かで、物件のアセットバリューが変わり得る世界観が実現出来ると思います。いずれは建物管理に留まらず不動産の価値を維持し高めるためのサービスに進化していくと面白いと思いますし、それを期待した出資ですね!
井上:
THIRDとSpiral Capitalが組むことで、不動産業界に対してどんなポジティブな要素を出せそうでしょうか?
千葉さん:
当社だと大手不動産会社やインフラ系の会社とお付き合いをすることも多いので、そのネットワークで事業に寄与する会社をご紹介出来ると思います。その他だと出資先企業同士で何かシナジーを生み出せるのか等も楽しみなことの一つです。
井上:
確かに、うまく棲み分けが出来れば、業界を大きく変革する起点を一緒に作っていけるかもしれませんね!選択肢は無限に広がり続けているので、自社で完結しきらずにスタートアップ業界の中でも、連携していくことで、大きな価値を残していきたいです。引き続きご助力ください!
インタビュー前編はこちら。
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