台湾総統選挙に思う~民主主義を理解しない中国
1月13日、台湾で4年に一度の総統選挙が行われ、中国と距離を置く民進党の頼清徳副総統が当選しました。これまで、民進党と親中の国民党の二大政党が政権交代を繰り返してきましたが、2期8年を超えて同一政党が政権を担うのは初めてになります。台湾の人々の心の中国離れがいよいよ明確になってきたようです。(見出し画像は、台湾民進党HPトップページより)
中国は民進党政権下の台湾に対して、締め付けを強化し、人的・経済的交流を制限する一方で、国民党からの要望には前向きに応じるなど、国民党勝利に向けてさまざまな画策をしてきました。しかし、このような工作で台湾の人々の心を動かすことはできなかったわけです。また逆に言えば、このような工作をしてさえも国民党に勝たせることができないところまで、台湾の人々の対中警戒感が高まっていることが示されたのです。
そもそも、8年前の蔡英文総統の民進党政権誕生の時点から、中国の対台湾政策は根本的に間違っていたのです。
蔡英文総統誕生の目前、習近平国家主席は民進党の考え方にかなりの歩み寄りを見せており、蔡英文氏もそれに応えて歩み寄りを見せていました。両者の関係が良好に展開すると思われた矢先、蔡英文総統の穏当な就任演説に対して意外なほど習近平主席は強く反発し、台湾に対する強硬な政策が始まりました。(その過程については、下記も参照ください。)
その後中国の香港に対する締め付けが強化され、「次は自分たちが危ない」と感じた台湾の人々は、4年前に圧倒的な支持によって民進党政権の継続を選択しました。その後のコロナ禍においても、中国の台湾に対する強硬姿勢、国際場裏からの締め出しは続き、台湾の人心はますます離れていきました。
(ところで、今回の総統選挙では、民衆党という第三政党が登場し、これまで長期に一つの政党に政権を担当させなかった台湾の人々のバランス感覚を受け止めることになりました。経済政策など内政面の問題もあり、そろそろ政権を交代させたいが、親中べったりはいやだという主に若年層が民衆党を支持し、その結果民進党候補支持より「民進党以外の候補」支持の方が5割増しで多いという結果になりました。そのバランス感覚は立法院での民進党過半数割れという形でも反映されました。)
中国が台湾を統一したいという考えは理解できないわけではありません。しかしそれは、中国国民と台湾市民の自由な意思によって決められるべきことです。そのためには、中国・台湾の人々が、同一のコミュニティに帰属しているという意識が醸成されなければならないと思います。
しかし、台湾における世論調査では、自らのアイデンティティについて問われ、「中国人」「中国人かつ台湾人」という選択肢をおさえ、「台湾人」と答える人が圧倒的に増えています。
中国がこの8年間に行ってきた台湾政策、すなわち経済面・外交面での締め付け・締め出し、台湾海峡での軍事的プレゼンスの増大、党派偏向的な台湾内政への関与は明らかに逆効果なのです。統一に向かうどころか、明らかに台湾の人々を遠くに追いやっているのです。
台湾は、選挙をすれば投票率70%を超える一流の民主主義によって動いています。欧米や日本より、よほど民主主義が機能しているかもしれません。中国が台湾との関係で何かを実現したいと思うなら、台湾の人々の心を動かさなければなりません。統一したいなら、台湾の人々が中国と同じコミュニティにいる仲間であると感じさせることが何より肝要です。そのためには、中国自身が民主的な国になることが出発点ではないでしょうか。
中国が、決して軍事的な力により台湾の人々を踏みつけることが起きないよう、今回の総統選挙を機に、中国が根本的にその政策を改めることを期待します。