【再3回】ミジカメとミカヅキ【コユメちゃん日記】
「前回いきなり長くしすぎてしまったなー、と思って後悔しているコユメちゃんです。こんにちは」
「そういえばそうだったかもな~、って思ってる小野寺だよ~」
「違うんだよ。ついつい長話になってしまっただけで、本当はもっと短く終わらせたかったのよ」
「おっ、言い訳から入る~」
「どうせ私は言い訳ガールだよ。エクスキューザーコユメだよ」
「おっ。開き直りのコンボ~」
「否定、言い訳、開き直り、逆切れ辺りって、確かにコンボ技っぽいところあるよね……さておき、だから今回は短めに行きます」
「はぁ~い」
どうゆう導入だって感じだけど。
あらためてよろしく。
「今日の話題はどんな感じなの~?」
「どうしようか。なんか明るい話題にしたいけど……」
「じゃあ、折角秋だし~、お月様の話題にでもしない? 中秋の名月~」
「月かぁ。……どんなふうに話が広げられるかな……」
「月見団子とか~、月見バーガーとか~、月見酒とか~!」
「食べ物ばっかりじゃない。花より団子というか、月より団子ね」
「え~……コユメちゃんならどんな風なのが思い付くの? 月といえば!」
「うーん。満ち欠けとか、ムーンフェイスの原理とか……、やっぱり宇宙の話とは切り離せないよね」
「難しそ~」
「ていうか月並みなトリビアトークになっちゃいそうね」
話題としてはメジャーすぎて、すぐにありきたりな展開へ転んでしまいそう。駄洒落を織り交ぜるのにも限界があるし。むーん……。
悩んでいると、小野寺がおもむろに部屋の窓を開け、夜空を見上げ始めた。
「ねえねえ~、コユメちゃん。そういえば昔の人は~、月を天蓋に空いた穴だって思ってたとか~」
「天蓋なんて言葉、あんたよく知ってたね」
「え~、失敬~。奇想天外!」
「まー、そうね。そんな話も聞く。見上げるといえば、『月が綺麗ですね』の話なんか有名だね」
「あ~、千円札の~」
「それ、もう二回りくらい古い話になっちゃうからね? そう、夏目漱石の……英語の先生としての逸話」
知らない人は居ないと思うけれど、教え子が英語の「I love you」を「我君を愛す」と翻訳したのに対し、夏目漱石が「日本人はそんな風に言わない。月が綺麗ですね、とでも訳そう」と言った……みたいな逸話。
という……おそらくガセ話。
「ガセなの~?」
「記録に残っていないらしいからね。でも、ありそうだとみんな思ったから、広まったし残ったんじゃないかしら」
「そうね~。ちょっとステキだもん。月が綺麗ですね~って会話の中に愛を感じるっていうの~」
「実際には絶対通じないけどね。告白としては決定打不足」
「またそういうこと言う~。でも、あたしも絶対気付けない~」
「TSUKIのTを取ってSUKIとかの方がまだ伝わるかもしれない」
「言葉遊びみたいで風流がない~」
小野寺のハードルは、なかなか高かった。
「でも~、月って何だろう?」
「え? 石の塊。地球の衛生」
「そうだけど~。ほら~、人にとっての意味とか~……。大体どこの国の人でも、月を意識するじゃない? 太陽はもちろんだけど~」
「ああ、なるほどね。その観点からだと、またあてどなく話が広がっちゃいそうだけど……私は『目印』だと思うな」
「目印~?」
「そう。お月様はどこからでも、国を跨いでも見える。雲がかかっていなくて夜ならば、特定の星と違って探す必要もない。太陽は直視するのに眩しすぎるし、天空は印としては広大すぎるもの」
「あ~、なるほどね~。確かに、万国共通で、万人共通の『目印』になるのかも~」
「他にはなかなかない特徴だよね、案外。だから色んな象徴になって来たんじゃない?」
「コユメちゃんにしてはロマンチック~」
「そっちこそ失敬じゃん」
あはは、と小野寺はいつものように笑ってから、窓から身を乗り出してぽつりと言った。
「そっか~……、だからかぐや姫は、月に帰ったんだね~」
「何、突然?」
「どこへ行っても、いつになっても、きっと見えますよ~っていう……目印と一体になったんだよ。きっと」
月明りの間接照明に照らされた小野寺の顔は、横から見ると、少し儚い三日月のようだった。
なんちゃって。たまにはこういうのも良いな。
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