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中国経済の衰退:不動産バブル崩壊と地方債務の危うい未来
私はTTTという者である。投資の世界を長く渡り歩いてきたが、ここ数年は中国の不動産市場にも注目している。理由は単純で、世界経済における中国の影響力は多大だからだ。特に日本を含むアジア地域にとって、中国が減速すればその余波は避けられない。それほどの規模を持つ中国経済が、不動産バブルの崩壊兆候と地方政府の巨額債務という二つの問題を抱えている。私の見立てでは、この二つは表裏一体であり、構造的に深刻なリスク要因となっている。
もう少し噛み砕いて言えば、不動産市場を基盤とする中国の成長モデルに陰りが見え始め、さらに地方政府は高水準の債務を抱えながらインフラ投資や公共サービスを拡充してきた。その基盤である土地使用権の売却収入が落ち込めば、地方財政は立ち行かなくなる。そうなれば経済全体にも影響が波及する。今回取り上げる恒大集団(Evergrande)や碧桂園(Country Garden)の経営危機は、ある意味では必然だったのかもしれない。
ということで、今回はやや旬を過ぎたテーマだが、中国の不動産バブル崩壊と地方政府が抱える負債リスクについて整理してみたい。
恒大集団(Evergrande)の破綻が示す構造的リスク
恒大集団は誰もが知る大手デベロッパーで、中国の不動産バブルの象徴でもあった。高額な借入をもとに積極的な開発を進めてきたが、2020年以降の不動産融資規制(いわゆる三条紅線)が導入され、資金調達が次第に閉ざされていった。
2021年に入ると、恒大はドル建て社債の利払い遅延を相次ぎ起こし、世界中の投資家が注目した。負債総額は2兆元超と桁外れに大きく、建設途中の物件も数多くあったため、未完成住宅に対してローンボイコット(返済拒否)を行う消費者も出るほどに社会不安を拡大させた。
私が特に着目したのは、中国政府の対応が「恒大を見捨てる」という明確なスタンスをとりつつも、資金やプロジェクトを地方政府が管理する形で延焼を防ぐ策を講じた点である。直接の公的救済こそ避けながらも、不動産市場全体と金融システムに波及しないよう巧みにコントロールしていたように思う。しかし、その結果としてマーケット全体の萎縮を招いた可能性も否めない。恒大の破綻はすなわち、中国不動産市場の泡が大きくしぼむ前兆であり、過度のレバレッジに頼ったビジネスモデルの限界を白日の下に晒した。
碧桂園(Country Garden)の後追い危機
恒大ほどの歴史はないが、販売戸数ベースで中国最大級のデベロッパーである碧桂園も、2023年に入り危機感が一気に高まった。負債総額は約1.4兆元。恒大よりは小ぶりだが、三・四線都市を中心に事業を展開してきた同社は、不動産需要の冷え込みと販売不振で深刻な資金繰り悪化に陥った。
2023年8月にはドル建て社債の利払いを期限どおり実行できず、デフォルト懸念が一気に市場に知れ渡った。株価は急落し、ドル建て債の価格も暴落。私から見れば、この時点で碧桂園は恒大と同じ道を辿る恐れが大いにあると感じた。一方で、碧桂園はまだ一部の建設現場で工事を継続し、未完成住宅問題を最小限に抑えようと腐心している。だが販売不振の根本的解決なくしては、好転が難しいだろう。
興味深いのは、中国政府が碧桂園に対し恒大ほど強い圧力をかけていない印象がある点だ。むしろ国有保険会社や銀行を通じて融資や株式取得を検討させるなどの形で、ソフトランディングを図っているとも言われる。とはいえ、地方政府そのものも財政難に陥っているため、救済の原資に限りがあるのも事実だ。
地方政府の債務危機とシャドーバンキング問題
ここで、中国の地方政府がなぜ財政難に陥っているかを考えると、その原因は土地使用権の売却収入と密接に関わっている。不動産ブーム真っ只中の頃、地方政府は土地を高値でデベロッパーに売却することで潤沢な資金を得ていた。しかし不動産市場が減速すると、この収入が激減。コロナ禍対策やインフラ投資など出費が増える中で、地方政府の収支バランスは一気に悪化した。
さらに問題を複雑化させるのが、LGFV(地方政府融資平台)などを通じた隠れ債務である。地方政府が直接債務を負っているわけではないが、実質的には財政補填を前提とした借入が行われている構造だ。このような手法は長い間、中国経済が高成長を維持していた時期には「暗黙の保証」として機能していた。しかし成長が鈍化する中で借金の規模だけが膨らみ、今やGDP比で120%を超えるとの推計もある。この数値には中央政府債務も含まれるが、構造的には地方政府の債務負担が特に重い。
そして、この隠れ債務を支えてきたのが銀行以外の資金仲介、つまりシャドーバンキングだ。信託会社やノンバンクが高金利の金融商品を売りつけ、その資金を不動産開発や地方政府事業に回す。表面的には銀行のバランスシートに載らないため当局の規制をすり抜けるが、その実態はリスクの塊と言っていい。2023年には大手信託会社のデフォルト問題が表面化し、投資家の間に恐怖が走った。中国政府は急激な金融崩壊を避けるべく介入を行うと想定されるが、こうした繰り返しでは根本的な解決には程遠い。
不動産市場全体の行方
中国の不動産はGDPのおよそ30%を占めるとも言われ、まさに経済の柱である。その市場が停滞すれば、鉄鋼・建材から家具・家電まで広大な関連産業が打撃を受ける。私としては、このスケールの大きさこそが世界経済へのインパクトを高めている主要因だと考えている。
実際、恒大・碧桂園の危機だけに止まらず、ここ数年で50社以上の不動産デベロッパーがデフォルトに追い込まれたというデータもある。地方でも大量の未完成物件が放置され、住居を手にしたはずの人々がローン返済を拒否する事態まで発生している。私の見方では、この「未完成プロジェクト問題」が中国の社会不安を高める最大の要因となり得る。住宅は一般家庭にとって最大の資産であり、その価格が下落すれば消費マインドも一気に冷え込むからだ。
一線都市(北京・上海・深圳・広州)では多少の復調が見られるとの報道もあるが、大半の地域で不動産価格は下落基調が続いている。購入者は慎重になり、デベロッパーは資金繰りに苦しみ、地方政府も土地収入が激減。この三重苦が当面は解消されそうにない。
地方政府の財政とインフラ投資のジレンマ
地方政府は景気対策や住民サービスを充実させるために支出を増やさなければならない。しかし歳入面では不動産関連の減速で大幅に目減りし、恒大や碧桂園と同様、資金繰りの綱渡りを余儀なくされている。中央政府は債務の肩代わりや再編を通じて爆発的な破綻を回避する方針だが、それは言い換えれば先送り策でもある。
私が懸念しているのは、地方政府が恒大のような破綻した企業のプロジェクトを引き継ぎ続ける中で、どこまで財政負担に耐えられるのかという点だ。土地収入が回復しないままでは、将来的に大規模な地方債務デフォルトが発生し、社会資本への投資がストップするかもしれない。これは道路や公共交通機関、医療や教育のインフラまで遅延や停止に追い込まれる可能性がある。結果として、地域経済がより停滞し、住民の不満も高まっていく。
国内外への影響と今後の見通し
仮に中国の不動産バブルが急激に崩壊してしまえば、その影響は中国国内だけでは収まらない。中国企業と取引する日本企業や、資源輸出国にとっての中国需要の大幅縮小が起これば、世界的な経済停滞にもつながりうる。
しかも、これまでの中国政府の動きを見ると、金融システムの急崩壊を防ぐために中央銀行が流動性を注入し、国有銀行や保険会社を通じて不動産会社や地方政府を支援するというパターンを繰り返している。これは短期的には効果があるが、構造的な改革を先送りする弊害も生んでいる。
不動産と地方債務の問題を放置すれば、膨大なデッドマネーが積み上がる半面、成長のエンジンは弱まる。マクロ経済が低迷すれば失業や所得の減少に直面する人々が増え、消費低迷が長期化する可能性が高い。今後も中国経済が低成長路線を歩むとしたら、私たち海外投資家は中国関連市場のリスクをシビアに考えなければならない。
他方で、中国政府は一党支配の下で強力な統制力を持ち合わせているため、破綻をソフトランディングさせる手段を豊富に有していると考える向きもある。実際にリーマンショック級の金融危機が発生するかどうかは不透明だ。ただ、危機的状況を未然に回避するために、国有セクターが不動産企業を吸収合併したり、地方政府の財政再編を加速させたりする可能性は十分ある。こうした動きは短期的安定を生む一方で、市場の自由競争という視点からはマイナス要因ともなり得る。
より長期的な視点
私が改めて強調したいのは、中国の不動産市場と地方政府財政は今後も波乱要因となり続けるという点である。恒大や碧桂園の危機は、氷山の一角に過ぎない。世界最大級の人口と巨大な経済規模を持つ中国だけに、一つの企業グループが倒れる影響が他国とは桁違いに大きい。ましてや地方財政が破綻に近づけば、公共サービスや社会秩序にまで悪影響を及ぼす。
どこかで中国政府が抜本的な財政改革や不動産市場の需給調整を断行する可能性はある。だが、政治的にも痛みを伴う決断であるため、すぐに実行されるとは限らない。現実には短期の微調整を繰り返しながら、徐々に市場や債務残高を縮小していくシナリオが濃厚だ。
このような状況下では、外部の投資家も中国に対するエクスポージャーを見極める必要がある。過去のような高成長と上昇相場を期待するのはもはや危険だろう。むしろ自らのポートフォリオを再点検し、地政学リスクやシャドーバンキングなど不透明要素をしっかり織り込む必要がある。
おわりに
恒大集団と碧桂園という二大不動産デベロッパーの破綻危機が浮き彫りにしたのは、中国経済の中核を支えてきた不動産バブルがもはや終焉を迎えたという事実である。さらには地方政府の隠れ債務やシャドーバンキングが大きく膨れ上がり、当局が制御不能に陥るリスクさえある。
中国政府は急激な崩壊を避けるため、これまで延命策を繰り返してきたが、そうした対応は本質的には問題の先送りと言える部分も多い。供給過剰の住宅在庫や、歳入減に苦しむ地方政府の資金需要を根本から変えない限り、不動産バブルの再燃は期待できず、低成長と信用不安の時代を迎えかねない。
私のように長年投資をしている者としては、こうした構造的なリスクこそが市場を大きく揺さぶる要因になると見ている。バブルが急落すれば世界の金融市場が巻き込まれるし、ゆっくりとしぼむにしても、中国自身が抱える成長限界が世界の資金循環に影響を与える。だからこそ、今後もしっかりと情報収集を行い、何が起きても対応できるよう準備することが欠かせない。
不動産バブルの存在自体は中国に限った話ではないが、ここまで規模が大きく、しかも政治的統制力が強い国で起きているという点が歴史的にも非常に特異だ。中国がどのようにしてこの構造的課題に取り組むかは、21世紀の世界経済全体にとっても注目に値するテーマである。今後もその動きを注視し、市場の波を読んでいきたいと考えている。