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ブラックロック vs バンガード:ETF覇権をめぐる新時代の攻防


ブラックロックバンガードは、資産運用の世界で常に注目を集めている両雄であり、運用資産額の規模においても他を圧倒する存在だ。両者が運用する資金は、アメリカを中心に世界各国の投資家から預けられ、時には国家レベルの政策や企業の資金調達にまで影響を与える。これほどの巨大企業がどのような思想を持ち、どんなアプローチで資産運用を行っているのかを理解することは、投資家にとって非常に重要だと考える。

私のように投資歴が長いと、ブラックロックのテクノロジー活用やバンガードの低コスト戦略といった話題を折に触れて耳にしてきた。投資商品を選ぶうえで、「コストをいかに削減するか」あるいは「市場平均を上回るリターンを狙うべきか」といった判断は避けては通れない問題でもある。ブラックロックとバンガードは、それぞれが異なる切り口でこの課題に挑んでいるのが面白い。

この記事ではブラックロックとバンガードの歴史や特徴に触れ、さらに両社が展開するビジネスモデルや最新動向について解説する。最終的には、両社がどんな投資家をターゲットにし、今後どのような戦略を描いているのかについても言及するので、ぜひ自分の投資スタンスを踏まえながら読み進めてもらいたい。

第1章 ブラックロックの歩みと特徴

ブラックロックは1988年、ニューヨークで産声を上げた。わずか数十年で世界最大級の資産運用会社へと成長した背景には、卓越した経営手腕とテクノロジーへの果敢な投資がある。2024年時点で運用総額は約10.5兆ドルに達し、ETFの銘柄として広く認知されるiSharesを主力商品としている。

ブラックロックが注目を集める大きな理由の一つは、自社開発のリスク管理プラットフォームAladdinの存在だ。このプラットフォームは膨大な経済データを取り込み、金融市場の動向やリスク要因を可視化・分析する。例えば、新興国市場の政治リスクが高まった場合や特定セクターの業績悪化が予想される場合など、投資ポートフォリオの影響を瞬時にシミュレートできる仕組みになっていると言われる。グローバルの機関投資家に向けてライセンス提供を行い、これがブラックロックの重要な収益源にもなっている。

印象深いのは、ブラックロックの投資スタンスがパッシブ運用だけではなく、アクティブ運用も行なっている点だ。つまり、単にETFを提供するだけでなく、市場平均を上回るリターンを狙うアクティブファンドも運用している。アクティブ運用のための専属ファンドマネージャーやアナリストを擁し、Aladdinを駆使して効率的にリサーチを行う。こうした姿勢は、リスク管理だけでなく新しい投資機会を発掘しにいく姿勢の表れだとも感じる。

近年では、暗号資産やAIの分野にも積極的に参入している。特に、2024年にビットコイン現物ETFを申請し、アメリカのSECから承認を得たニュースは市場で大きく話題になった。

暗号資産が機関投資家の正式な投資対象として認められつつある状況を捉えた動きであり、より広範なポートフォリオ戦略を展開する投資家にとって朗報だ。ブラックロックはテクノロジーを武器に、多彩な投資領域で収益を狙う姿勢をより明確にしている。

第2章 バンガードの歩みと特徴

バンガードは1975年、ジョン・ボーグルによって設立された。ボーグルはインデックス投資の父として名を馳せ、彼が提唱する低コスト運用の哲学はバンガードの企業文化に深く根付いている。2024年現在、運用資産額は約9兆ドルに達し、アメリカ・ペンシルベニア州を拠点に世界中の投資家の資産を管理している。

バンガードの最大の特徴は、投資家がオーナーとなる相互会社形態を採用している点だ。一般的な金融機関は株主の利益を優先させる構造になりがちだが、バンガードでは投資家がまさに会社の一部を所有しているという形になるため、運用利益は投資家自身に還元される仕組みになっている。これこそが、バンガードが業界でも屈指の低コスト運用を実現できる理由であり、長期投資家にとっては大きな魅力だ。

インデックスファンドやETFを中心とするラインナップは、余計な運用コストが抑えられる分、長期的には複利の効果を最大化しやすいとされる。例えば、年率1%のコスト差が数十年後には大きなリターン差になる点は、私の経験上も決して侮れない。さらに、バンガードは米国内で401kプラン(企業年金に相当)などのリタイアメントプランを数多く引き受け、退職後の資産形成に注力してきた。老後資金に直結する分野を抑えることで、幅広い顧客基盤を確立している。

最近では、アジア市場にも果敢に進出し、日本でもバンガードの低コストETFを利用する個人投資家が増えている。長年、手数料の高さが問題とされていた日本市場での選択肢が増えたことは、投資家にとって大いに歓迎すべきことだ。バンガードの世界展開は、インデックス投資やETFの魅力がより多くの国・地域に広がる結果を生み出している。

第3章 ビジネスモデルの比較

ブラックロックとバンガードは、いずれも巨大な資産運用会社であり、世界のマーケットを左右する存在だが、そのビジネスモデルにははっきりとした違いがある。ブラックロックはテクノロジー企業さながらに、Aladdinというリスク管理プラットフォームのライセンス販売で収益を上げる一方、アクティブ運用も含めた多様なファンド運営を通じて運用手数料を稼ぐ。

これに対してバンガードは、株主ではなく投資家を“オーナー”とする組織構造を徹底することで、とにかくコストを抑える姿勢を貫いている。インデックスファンドやETFをメイン商品とし、販売手数料や信託報酬を業界最安水準に近づける努力を続けている。この結果として、一件あたりの利益率は高くはないが、大量の資金を集めることで企業としての収益を確保している。

運用商品についても、両社のカラーが大きく分かれる。ブラックロックはアクティブ運用を取り入れ、市場を上回るリターンを追求する投資家層にも応えている。そのため、コストが上乗せされるファンドも存在するが、豊富な人材とテクノロジーを駆使して成果を出そうとする。一方で、バンガードは市場平均を狙うインデックス運用を核とし、長期的にコストを最小化する戦略を掲げている。私のように、リスクを抑えながら資産を長期的に増やしたいという投資家にとっては、バンガードのアプローチは非常に魅力的だ。

また、ブラックロックは企業としての規模を活かし、世界中の政府や大手金融機関と連携しながら運用業務を拡大している。中央銀行の資産管理を受託したり、政府系ファンドのマネジメントを手がけたりするケースもあり、金融政策や国際情勢にも深く関与している側面がある。バンガードはそこまで政府系の大規模案件に積極的ではなく、むしろ一般投資家や退職年金を中心に置くことで、自社のビジョンである「低コスト運用の徹底」をより純粋な形で貫いていると言える。

第4章 最新動向

ETF市場シェアの変化:バンガードの躍進、シェアを減らすブラックロック

2023年末時点で、アメリカのETF市場は合計で約7兆8000億ドル(約1130兆円)に上る規模に達している。ブラックロックが長年トップの座を守り続けてきたが、近年ではバンガードが急速にシェアを伸ばし、ついに肉薄する状況が鮮明になっている。具体的に言えば、ブラックロックのETF市場シェアは2006年頃に約60%を誇っていたが、2023年現在は32.5%にまで低下しているとされる。

対するバンガードは2001年以降、ほぼ途切れることなくETF市場シェアを拡大し続け、現時点では29.5%に到達。わずかな差ではあるが、ブラックロックの牙城を崩すだけの勢いを見せている。パッシブ中心の商品ラインナップによって、手数料に敏感な金融アドバイザーや個人投資家を強く惹きつけてきた結果だと言える。

もう一つ興味深いのは、ブラックロックが約400本以上のETFを扱っているのに対し、バンガードはわずか83本程度しかラインナップがないにもかかわらず、資産流入が拡大している点だ。バンガードは年間を通じて約1370億ドルの新規資金を集め、2023年の流入額トップを維持する見通しで、ブラックロックは約800億ドルで2位にとどまるという。ETF市場全体が成熟期に入りつつも、バンガードがシンプルかつ低コストな商品戦略でアドバンテージを得ている構図が浮き彫りになっている。

ブラックロックの暗号資産・債券ETF

バンガードの勢いが強まる中、ブラックロックにとっての巻き返し材料として注目されるのが、債券分野とビットコイン現物ETFの動向である。ブラックロックは債券ETFにおいて約40%という高いシェアを握っていることに加え、ビットコインETFが本格的に運用開始されれば、機関投資家を中心に数十億ドル規模の資金を取り込む余地がある。バンガードは暗号資産商品を提供する意図が全くないと明言しており、ブラックロックの暗号資産戦略が差別化要因になり得るという見方がある。

バンガードのDXと低コストの推進

バンガードは、相互会社形態によって生まれる余剰資金を積極的に手数料の引き下げに回すやり方で、低コストを徹底している。まさに「コストを手当てするためにファンドを運用しているのであって、もうけるために運用しているのではない」という理念が好評を博している。それだけでなく、DX(デジタルトランスフォーメーション)を通じて顧客対応を効率化し、経費節減を実施しながらも投資教育や投資家サポートには力を入れる。こうした企業姿勢が、資金流入のさらなる継続を支えているようだ。

第5章 今後の展望とまとめ

ブラックロックは、さらなるテクノロジーの活用と新興市場への投資によって、業界のリーダーシップを強化していく方針を明らかにしている。AIや暗号資産といった新しい領域で事業を拡大し、リスク管理の高度化とアクティブ運用の効率化を同時に進めるだろう。世界経済の先行きが不透明な局面が続いても、機動力と多角的な収益源を持つブラックロックは柔軟に対応できるだろうし、政府や中央銀行との太いパイプを背景に、さらなる業容拡大を狙う可能性も高い。

バンガードは、低コストという最大の強みを生かしてさらに世界規模での認知度を高める動きが続くと考える。インデックス投資の普及は投資教育の進展とも深い関係があり、各国の個人投資家が「投資は複利の力を長期的に活用するもの」だと理解するほど、バンガードの存在感は増していく。特に、高齢化が進む先進国や経済成長が著しい新興国では、退職後の資産形成や若年層の積立投資が焦点となる。そこにバンガードの低コスト商品が入り込む余地は大きい。

私は、ブラックロックとバンガードをどちらか一方だけで評価するのではなく、両社の戦略や商品が自分の投資方針にどう当てはまるかを慎重に考えることが大切だと思う。リスクをしっかり取りにいく投資家にとってはブラックロックのアクティブファンドや新領域へのチャレンジが魅力的だろうし、堅実にコストを削りながら長期的な成長を狙うならバンガードのインデックスファンドが理想的だと言える。

どちらが優れているかは投資スタイル次第というのが、私の結論である。 世界情勢が変動し、市場が大きく揺れ動く中でも、ブラックロックとバンガードは世界の投資家に多彩な選択肢を提供し続けている。両社のマインドセットは異なるように見えるが、共通しているのは「投資家のニーズを満たし、資本市場の発展に寄与する」という使命感だ。

今後も、ブラックロックとバンガードが競い合いながらイノベーションを起こし、投資環境をより良い方向へ変えていく姿を期待している。投資家としては、この二大巨頭が提案する商品やサービスを上手に活用し、自分なりの理想的なポートフォリオを築くことで、長期的な資産形成を実現できるだろう。

2025年2月22日追記

ついにバンガードがETFシェアでブラックロックを上回ったようだ。ETF新時代の幕開けである。

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