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快進撃が続くセキュリティ企業クラウドストライク:Falconが築く防御の未来


私はサイバーセキュリティやIT、そして投資の世界にも首を突っ込んできた関係で、クラウドストライクという企業名は以前から大変気になる存在だった。

クラウドストライクは2011年にジョージ・カーツ、ドミトリー・アルペロヴィッチ、グレッグ・マーストンによって立ち上げられ、米国テキサス州オースティンに本拠を置くサイバーセキュリティのリーディングカンパニーである。 クラウドベースの「Falcon」プラットフォームを中核に、エンドポイント保護だけでなく脅威インテリジェンスやインシデント対応サービスなど幅広い領域を手掛けている。

特筆すべきは従来型のオンプレミス構成とは一線を画したクラウドネイティブな提供形態とサブスクリプションモデルだ。 導入ハードルを下げ顧客を取り込み、追加モジュールのアップセルで売上を伸ばす戦略は現在のSaaSビジネスの潮流にも合致しているといえる。

クラウドストライク自身、ソニー・ピクチャーズに対するハッキング事件(2014年)や米民主党へのサイバー攻撃(2015〜2016年)の調査にも深く関わり、その専門性を世界に知らしめた。 こうした事件対応の実績が同社を一躍有名にし、エンタープライズや政府機関を中心に顧客基盤を拡大する足掛かりとなった。

主要製品とFalconプラットフォーム

クラウドストライクが提供する「Falcon」プラットフォームは、軽量エージェントとクラウド上の大規模データ解析基盤の組み合わせに強みを持つ。 エージェントはPCやサーバーなどのエンドポイントにインストールされ、不審な挙動を検知すると関連情報をクラウドに送信し、Threat Graphと呼ばれる分析基盤でリアルタイムに突合される。

ここではAIや機械学習(ML)がフル活用されており、既知のマルウェアを防ぐだけではなく、未知の振る舞いから攻撃を察知することが可能だ。 いわゆるシグネチャベースのアンチウイルスでは捉えきれない新種ランサムウェアやゼロデイ攻撃にも即応できる点が高く評価されている。

さらに、Falcon上では脅威ハンティングサービス(Falcon OverWatch)やクラウドワークロード保護、ID管理、XDR機能など多彩なモジュールを追加導入できる。 こうした追加モジュールこそがランドアンドエクスパンドの基盤であり、クラウドストライクの収益構造を支えている。

例えば企業がまずエンドポイント防御(EDR)を導入し、その後クラウド環境の監視や脆弱性管理、さらには脅威インテリジェンスなどを段階的に追加していくケースは珍しくない。 一度Falconの利便性を実感した顧客がさらなる保護範囲拡大を求める構造で、同社のARR(年間経常収益)の上昇を牽引してきたわけだ。

競合環境と市場の位置づけ

クラウドストライクはエンドポイントセキュリティ市場で、MicrosoftやSentinelOne、パロアルトネットワークスなど強力な相手としのぎを削っている。

Microsoft DefenderはWindowsに標準搭載され、コスト面と導入のしやすさで圧倒的なシェアを有する。 サブスクリプション料金の追加負担なく利用できる場合もあり、世界的な企業や組織がDefenderを使う理由は大いにある。

一方でクラウドストライクは複雑化する企業インフラへ柔軟に対応できる統合管理や高性能なマネージド監視・ハンティングサービスを武器に、Defenderとの差別化を図っている。 ウイルス検知の精度や操作性、人手による脅威ハンティング体制などで優位性を確立し、ディープなセキュリティ対策を求める顧客を取り込んでいるわけだ。

SentinelOneもクラウドネイティブ型のEDRソリューションであり、AIによる自動対応を強調している。 クラウドストライクとよく比較されるが、後者は専門家チームによる監視と脅威ハンティングを強みに掲げるなど、運用アプローチがやや異なる。

また、パロアルトネットワークスはネットワーク製品との総合提案が強力で、企業全体を一括防御したい大手顧客を取り込む力を持つ。 同社の次世代ファイアウォールやクラウドセキュリティ(Prisma Cloudなど)との連携は高い評価を得ており、ネットワークとエンドポイントをまとめてパロアルト製品に置き換える企業も出てきている。

クラウドストライクはエンドポイントからスタートしつつも、クラウドやコンテナ、ID保護へと製品を拡大しており、総合力勝負の色合いを強めている。 純粋にエンドポイントだけを守るベンダーというイメージから、クラウド全般まで含めた包括的なセキュリティ企業へと進化を遂げているのだ。

2024年の大規模Windows障害

そんなクラウドストライクが直面した大きな試練が、2024年7月に発生した大規模障害である。 Windows向けの誤ったアップデートが配信され、世界中の顧客端末がブートループに陥るという前代未聞のトラブルが起きた。

問題の原因はカーネルモードで動くFalconセンサーに適用された不整合な設定ファイルだったらしい。 配列から外れた領域を読み込んだことでOS全体がクラッシュし、サーバーや企業端末、行政システムなど多岐にわたるインフラが機能停止に追い込まれた。

クラウドストライクは素早くリコール対応を進め、原因を公表し、顧客には手動で修正ファイルを削除して復旧を図る手順を示した。 さらに再発防止策として、段階的なリング展開によるアップデート配信を始めるなど、スピード感ある対策を打ち出した。

とはいえ、この障害はクラウド集中型のリスクを世に知らしめる大きな事件となった。 企業や公共機関の運用を一時麻痺させた責任は重く、クラウドストライクのブランドにも少なからず傷がついたのは否めない。

当時、多くの投資家やアナリストは「クラウド型のメリットが一転してデメリットに変わるケースもある」と強調し、競合ベンダーが“安全性”をアピールする格好の材料とした。 実際に一部顧客が他社へ乗り換えを検討したとも報じられたが、同社は迅速な対応を通じて被害拡大を最小限に食い止め、議会の公聴会で経緯を説明するなど、信頼回復にも努めた。

投資家の視点と私の経験

実は私TTTは投資の世界にも深く関与しており、クラウドストライクの株式に注目してきた。 2019年のIPO以来、クラウドストライクの株価は大きく上下しつつも中長期で見れば右肩上がりで伸びている。

サイバーセキュリティ需要が高まる昨今、クラウドストライクのビジネスモデルは強固だと感じ、折に触れて株を買い増していた。 ただ2024年の障害が起きた際には、一時的に株価が急落し、市場も動揺した状況だった。

そこで私は「これは短期的な動揺に過ぎず、クラウドストライクはすぐ巻き返すだろう」と判断して、追加で買いを入れた。 結果的にクラウドストライクは障害対応策を迅速に打ち出し、投資家からの信頼が戻って株価は急反発した。 正直、もっと買っておけば良かったと悔やまれるほどのリバウンドであった。

私よりも多額を投入した投資家はさぞ大きなリターンを得たに違いない。 今回の障害が示したリスク要素は確かに無視できないが、それ以上にサイバー攻撃が絶えることはなく、クラウドストライクの製品需要も衰えないという市場の見方が強かったのだろう。

一方で、投資家からは「Microsoftの攻勢によるシェア浸食」や「高価格ゆえの契約削減リスク」など懸念も常につきまとう。 しかし、クラウドストライクは年間経常収益(ARR)の強い伸びと高い更新率を維持し、新規顧客の獲得と既存顧客へのアップセルを両軸で進めているため、長期的には有望だと評価されている。

今後の展望と総合セキュリティ企業としての進化

クラウドストライクはエンドポイントで名を馳せてきたが、近年は買収や開発によりクラウド環境やID保護、ログ管理、脆弱性管理など守備範囲を急速に広げている。 いわゆるXDRの概念を先取りし、ネットワークやクラウド、アイデンティティ情報まで踏み込んで包括的な監視・対処を狙っている。

サイバー攻撃の多層化や大規模化に対応するには、従来の部分的な防御体制だけでは十分ではない。 企業としても、バラバラのセキュリティ製品を導入するより、総合的に一元管理できるプラットフォームを重視する傾向が強まっている。

クラウドストライクには、その包括的なアプローチとクラウドネイティブな技術力がある。 それに今回の障害対応を経て、配信プロセスも一段と強化されたとみられる。 これを糧に、今後も企業や行政機関のIT基盤を支える中核的存在となっていくはずだ。

さらに、クラウドやコンテナ領域だけでなくID管理やゼロトラスト、ログ管理、SIEM機能の領域まで拡充する買収を続けており、セキュリティ領域全般をワンストップで提供しようとする姿勢が見える。 エンドポイントだけの企業では終わらせないという強い意志を感じる。

私TTTとしては、社会と投資の両面から同社の動向を注視していく構えである。 障害発生のリスクや競合の猛追は常に警戒要因だが、現代のサイバー攻撃の脅威を考えれば、クラウドストライクのようなプレイヤーの重要性が下がることはないとみている。

エンドポイントからクラウド、ID保護、そして未知の脅威検知へ――クラウドストライクの挑戦はこれからも止まらない。 私自身もまた、その動きをしっかり見定めながら、必要に応じて資金を投じるつもりだ。

この世界ではスピード感と柔軟性、そして実際の攻撃対応で積まれた確かな実績が何よりもの強さになる。 クラウドストライクが受けた試練は決して小さくないが、そこから得た教訓を活かして次の段階へ進む姿を、多くの投資家と顧客が見守っている。

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