生物多様性地域戦略のレビュー:ビッグデータで保全計画を実装する
生物多様性地域戦略とは何か?
COP10で設定された愛知目標では、生物多様性保全の実効力を強化するための戦略計画を掲げています。日本でも国家戦略が策定され、地方自治体レベルの地域戦略の策定が行われています。地域戦略は、国家戦略の方針を地域社会へ浸透させて、生物多様性の保全と持続可能な利用を推進するために、とても重要な役割があります。
都道府県の地域戦略の問題点
各都道府県の地域戦略を分析すると、地域戦略の80%以上は「保護区の新規設置または見直し」を掲げ、効果的な保全計画のためには「生物多様性情報の収集」が課題であることを明示しています。つまり、愛知目標を達成するために保護区ネットワークを充実させたいが、そのためのデータ整備(=生物多様性ビッグデータ)や科学的根拠が見通せていないことが暗示されています。
しかし、これは、やむ負えないことかもしれません。地方自治体に生物多様性の保全計画のエキスパートはいないので、地域戦略の策定やアクションプランは抽象的になるのが当然です。実際、環境省が行なった地域戦略レビューのレポート(平成29年4月 環境省自然環境局自然環境計画課 生物多様性地球戦略企画室)には以下のようなヒアリング結果が示されています。
私も沖縄県の地域戦略に関する有識者委員会のメンバーだったので、地方自治体の方が苦労されたことはわかります。
また、以下のヒアリング結果から、予算的にも実行困難だったことがわかります。
生物多様性に関する専門的知見、関連データ、地域戦略を立案するための分析スキルそしてお金、全てが地方自治体には十分ではないのです。
地域戦略を改善するための基盤システム
このような現状を改善する基盤システムとして、私たちは日本全土を網羅した土地区画ごとの保全利用カルテを構築しました。全国各地の自治体が、地域戦略やアクションプランを立案する際の、科学的データと分析結果を自在に閲覧できるシステムです(以下の地図サイト J-BMPを参照)。
この地図サイトの使い方は、以下の動画でも解説しているので、ご覧ください。
このシステムには、以下のプロトコルで分析された、生物多様性ビッグデータを活用した保全計画の結果が格納されています。
地域戦略を立案する場合、全国的に見た場合の保全重要度を把握することが、最初のステップになります。以下のような全国スケールの保全優先地域のスコアリングの地図情報は、各自治体の地域戦略の方針を検討する基盤になります。
保全利用のアクションプランを具現化しよう!
このような国家戦略の観点からの各自治体の位置付けを念頭に置いて、自治体特有の土地利用や生物多様性資源(サービス)の利用に基づいて、地域戦略をカスタマイズすることになります。
地域戦略を保全計画として実装する手法は、以下の動画をご覧ください。また、都道府県ごとの分析結果は、その他のnote記事で紹介しています。
私たちが全面的に支援している沖縄県の生物多様性保全利用指針OKINAWAは、地域戦略を科学的エビデンスを元に推進する模範的な事例です(以下のサイトから沖縄県の環境カルテを閲覧できます)。
地域戦略の役割
以下の分析結果は、日本全体で見た場合の、各都道府県の保全優先度スコアと、都道府県レベルの保全優先度の関係を表しています。全国レベルの保全優先度スコア(横軸)と都道府県レベル(縦軸)の優先度スコアが必ずしも一致していないことがわかります。
国家戦略上の重要地域は、日本固有の生物やレッドリスト種が数多く分布している都道府県になります。例えば、沖縄県や鹿児島県などです。鹿児島県と沖縄県は、全国的に見ても県レベルで見ても重要です。全国レベルの保全優先度スコアと県内レベルの保全優先度スコアが相関しています。
それでは、日本レベルで見た場合の保全優先度スコアが低い地域(例えば、東北や北海道)は、どうでしょうか。北海道、岩手、宮城、秋田にも、それぞれの地域の生物多様性を保全する上で重要な地域があります。ここに地域戦略の役割、国家戦略でカバーできない地域的な保全計画を推進する役割があると思います。
環境省の生物多様性地域戦略策定の手引きには、以下の概念図に示されているように、地域戦略は国家戦略における生物多様性の主流化を進めるための主要な手段と説明されています。
つまり、国家戦略だけでカバーできないギャップを埋めることが、地域戦略とそれに基づいたアクションプランの役割で、地域や身近な視点によるきめ細やかな取組を具現化することが課題になります。
いただいたサポートは、 生物多様性保全の研究成果を社会実装するために、日本各地を訪問してお話させていただく際の交通費に使わせていただきます。