見出し画像

どうして少子化だと、医療教育が必要になるの?|ハートキッズライフリンク活動紹介

少子化という社会の大きな変化において、次世代の医療者を育成することが大変な状況になっていることをお伝えしたい記事です。

500人の必要数に対して100人程度しか現在いないとされる、医師の中でも超過重労働の領域「小児集中治療」を担う、酒井渉先生のインタビューを通じて、その背景と現状、展望をご紹介します。

北海道立子ども総合医療・療育センター 医長

北海道「こどもっくる」の小児集中治療科(PICU)、酒井 渉と申します。
私は専門は、主に人工呼吸や、コロナで話題になった人工心肺の一種「ECMO」を必要とする患者さん。こどもの医療の中でも、心臓血管外科の手術をはじめ、病気やけがを問わず命に係わる領域を全般的に担当しています。少し前にPICUのドラマがありましたね。実際はあのような派手な場面はあまりなく、意外に思われるかもしれませんが、地道で根気もいる仕事が多いです。


小児集中治療領域の独自性と特徴

小児集中治療分野は、他の医療領域に応用が効きにくい、独自性の高い分野です。扱う症例でとても多い先天性心疾患を例に挙げると、心臓のサイズや形が一つ一つすべて異なり、それぞれの患者さんに個別の対応が求められます。

また、この分野は他の医療領域に比べて医師の数が極めて少ないことが知られています。それだけでなく、こどもの命に関わる状況が多く、強いストレスがかかる領域でもあります。

少子化に伴う二つの危機的な状況

①医療資源とニーズのバランス崩壊

少子化により患者さんの数が減少し、入院する患者さんは数年前の1/3に減っていますが、それに伴って単純に、医療資源を同じ割合で減らすことはできません。

例えば、エクモのような高価な医療機器を1/3の価格で運用することはできず、また、医療者も24時間の体制を維持するためにある程度必要な人数があります。

このように、少子化においていま、医療ニーズと資源、医療者のバランスが取れていないことが問題になっています。

②貴重な経験と教育の機会が激減

私たち小児集中治療を担当する医師にとって、一例の患者さんから学ぶことは非常に意義のあることです。
現在、患者さんが少なくなることで学ぶ機会も減少しています。その中で得られる貴重な経験を共有することが医療レベルの維持に必須とも考えています。

時代に合わせた医療現場の新しい体制づくり「集約化」

現在、少ない患者さんと医療機能を「集約化」して、医療の質を保つ改革が進められています。これに伴い、搬送できないとき、搬送中の対応、搬送に伴う家族の負担などの問題についても議論と改善が行われています。

この体制変化の目的は、集約化により救命率を上げることができるという点です。

教育体制の標準化が必要に

今後は、集約化に伴い、個人や施設の特性に依存しない標準的な教育体制の構築が合わせて必要になります。

これは、これからこの領域にすすもうとされる医師の先生方が、キャリアに不安を抱えることなく、安心して働ける環境を提供することにもつながり、当領域にチャレンジしやすくなる人材育成施策にもなると考えます。

事例|よりよい教育体制の推進に向けた取り組み

私たちは、医療教育の標準化に役立つ取組の一環として、AIを活用した教育システムの開発をすすめています。

具体的には、まず、症例ごとにパターン化したリアルタイムの診断補助システムを開発します。例えば、心臓が悪い子の血圧が低く、唇の色が悪ければ心臓を強くする薬を使うなどの具体的な指示をリアルタイムで提供します。

つぎにこれらに自律学習機能を装備し、ベッドサイドで医師の診断補助の役割を担う高度なモニタリングシステムを開発します。

そして、このシステムは、リアルタイムの画像や患者情報、治療選択を記録することになるのでデータベースを活用した症例教育コンテンツを開発していきます。

期待される効果|「経験」の定量化がもたらす医療の質への貢献

本取り組みでは、数値にされてこず、一子相伝的に受け継がれてきた「経験」をデジタルで記録するシステムを構築するともいえます。

従来、血圧などのデータは電子カルテに保存されています。ただ唇の色などの目視での所見は記録されていません。これらをデジタル化し、ほかのデータと複合解析することで、より正確・適切な教育コンテンツとなり、医療の質を守ることにつながります。

貴重な症例を、その場にいなかった医師も勉強でき、先輩医師の技術、知識を受け継ぐシステムとなります。優れた先生方の臨床をなるべく正確に、的確に受け次いでいけたらという思いで取り組んでいます。

いいなと思ったら応援しよう!