初めての3Dアニメーションを作りながら、考えたこと
朝活として、この4ヶ月ほど3Dモデリングを続けている。その中で、アニメーション動画を1つ作ってみた。back numberの曲『東京の夕焼け』に合わせて流れる、15秒程度の短い動画。
拙いながらも、だいたい思い描いた通りのものが作れたので、この辺で一旦区切りとして、いろいろ考えていたことを書き残してみる。
CGの本当の価値
毎朝モデリングに触れていると、「何を作れば、3D CGの魅力が引き出せるんだろう」という疑問が浮かぶ。CGの強みは、現実世界では表現できないもの(もしくは表現するのにコストがかかるもの)を表現できること。だから、単にリアルなだけでは、その魅力が引き出せないと思っている。
テレビ番組で、「鉛筆で描かれた、写真にしか見えないリアルな絵」が取り上げられていることがある。それを見たとき、感動はもちろんあるけど、心のどこかで「写真でいいのでは?」とも感じてしまう。それは、単純な「リアルさ」はテクノロジーで代替できるから。(もちろん「創作にかけた時間や想い」は代替できないけど)
そして、こうして3Dモデリングしていると、初心者でも「それなりにリアルなもの」は作れることがわかってきた。高品質な無料素材、光の反射や影の濃淡まで綺麗に表現してくれる高性能なソフトのおかげで、パット見なら「これって写真?」と思える程のものが意外と作れてしまう。
さらに、そんな技術は今後も向上し続け、リアルさを表現するためのハードルはどんどん下がっていく。下のツイートでは、建物を、単に動画を撮ることで3Dモデル化している。凄い技術だ。
となると、リアルさに拘り過ぎず、バーチャルだからこそ表現できるもの、バーチャルだからこそ面白いものの作り方を考えていくことが、本質なんだろうと思う。
鉛筆で描く絵は、鉛筆だからこそ描けるものを突き詰めるべきだろうと。もちろんリアルな表現スキルがあるに越したことはないけど、そこに時間をかけすぎるのはリスクでもあるのかなと。
そんなバーチャルの表現方法にも、アニメーション、ゲーム、AR、VR、それらを通じたコミュニケーションなど色々ある中、今回はアニメーションを作ってみたという感じ。
でもそれは一旦置いておいて、まずはそんなバーチャル関連で、最近気になった話を2つほど。
未来のライブの形
バーチャル空間の新しい使い方という意味では、最近、米津玄師さんが「フォートナイト」というゲームの中でバーチャルライブを開催していた。形式としては、ゲーム内に歌うキャラクターが出現するわけではなく、ゲーム内のユーザーがライブ映像を鑑賞するような見え方ではあったけど、それでも「バーチャル空間のライブ」という文化の始まりを感じた。
また、以前には同じフォートナイト内で、トラヴィス・スコットという有名なラッパーがライブをして、世界中から1230万人も集まったらしい。こちらは、ゲーム内のキャラクターと同じ空間に彼自身の巨大なキャラクターが出現し、派手な演出をしながら歌うという、まさにバーチャル空間を使いまくったライブだった。
「リアルのライブには敵わない」とコメントしている人もいたけど、これは既存のライブと比較するものではなく、新しいもの。もちろん今までのライブとして見れば当然、その場の熱気や音の響きなど、物理的に感じにくいものはある。
でも一方で、収容人数の制約はなくなり、何より演出の幅が無限に広がるわけで、今までのライブとは全く異なる。密にならずに済む上に、移動コストもなく、他人や場所を気にする必要もない。
お金の面でも、表現力や観客の刺激・満足感の面でも、今後のライブは確実にバーチャルが主流になっていくと思う。そして、物理面に強いこだわりを持つ人や余裕のある人だけが、伝統的なリアルのライブに残り続けることになるのかなと。
驚異の額を集めるVTuberへの投げ銭
他にもバーチャル関連で面白いなと思ったのは、VTuberたちの躍進。YouTubeの投げ銭機能で、累計金額ランキングの上位7人を日本のVTuberが占めるという。1位は8800万円。恐ろしい金額。
実際には存在しないバーチャルのキャラに対して、これだけのお金が使われている。しかも投げ銭。もしこれが、リアルのYouTuberの方々では実現できない規模だということなら、かなり面白い事実になる。投げ銭を得るほどの深さを取るのは、バーチャルより人間の方が向いている、というイメージが覆される。
リアルYouTuberは、見た目だけで好き嫌いが結構分かれることがある。例えその人が面白いことや役立つことを言っていても、イケメンでもないおじさんの映像を何分も見続けるのは、慣れないうちはストレスが交じる。「面白さ」と「ビジュアル」を兼ね備えた人間は多くはない。
VTuberであれば、好きなように見た目をいじれるので、広く受け入れられる癖のないビジュアルを作ることができるし、表現も自由だ。となると、多くのパイを取るという意味ではVTuberの方が選択肢としては適している気がする。むしろ教育系VTuberなんかがもっと出てきてもいいのでは?とずっと前から思っているけど、そうでもないのが不思議。
個人制作の3Dミュージックビデオを作りたかった
話を戻すと、そんな大きな動きが面白いなぁと思いながらも、1人でサクッとできる範囲のものを作ってみようと、15秒のアニメーションを作ってみた。
短いミュージックビデオ的なものだ。3Dで人・もの・ストーリーを個人でも簡単に描けるようになりつつある今、曲と映像をリンクさせたものを作れば、音楽も3Dも相互作用で活性化していく気がした。
音楽は、短時間で感動を呼び起こしてくれる。ほんの5分程度の音声を聴くだけで、様々な感情が湧き上がり、時には感動し、涙する人もいる。
映画なら全て見終わるのに2時間以上かかるし、小説は読むのに数日かかるのに、音楽は5分で感動できる。効率的と言うと言葉が冷たいけど、ちょっとした時間でも癒されたり元気が出たりするような大きな力を持つ。
TikTokであれば、著作権もクリアしつつ名曲をBGMにすることができる上に、短時間の動画がメインだ。世間でワーワー言われることが多いアプリだが、単純にエンタメ動画アプリとしては凄く良くできていると思う。
ここからは、それを作りながら考えたことをまとめておく。
アニメーション作りの難しさ
初めて人にモーションをつけてみたけど、結構大変だった。便利なモーション設定の機能を使って多少は扱いやすくできるものの、なかなか直感的に動かせない。
きっとこの辺りは、既存のモーションを適用してから微修正したり、モーションセンサーを使って動きを取り込むのが最適になっていくんだと思う。こんなツイートからもそれを感じた。
また、そもそも3D空間の映像を平面の(2Dの)画面で操作していることが非効率。どう考えても3D空間内でする方が直感的なので、VRがそれなりに普及した後は、VR空間で作る流れになっていくと思う。
他にも、今回はVRoidキャラを使わせてもらったけど、これが自作キャラだったら、動かしたときの破綻なども気にしながら、リグやテクスチャの調整などもしなければならない。果てしない作業になる。
情報検索のスキルの必要性
今回、夕焼けを作るため、綺麗な夕日を作るYoutubeを参考にしてみたものの、レンダーエンジンを変えると夕日が見えなくなってしまったことがあった。
原因は日本語で調べてもわからず、英語で調べてやっとわかった。この、言語による情報量の違いや、最新情報の変化の早さなどは、プログラミングに通ずるものがある。ある程度の検索スキルがないと、翻弄されそう。
今使っているモデリングソフトのBlenderは、機能が多くて何でもできる分、機能を把握するのが難しい。今後、初心者でも使える標準化されたモデリングソフトが出てくるとは思うけど、細かい調整を自分で調べてできるようにならないと、差別化はできない。
最近、「ノーコード開発」という単語をよく聞くようになった。僕も仕事でやっているけど、ノーコードにするということは、簡単に扱えるように、「カスタマイズ可能な範囲を削ぎ落としている」とも言える。
VRoidのようなキャラモデリングの簡易化ソフトはそれに近いし、キャラ以外のモデリングもこの流れになると思う。だから、「誰にでもできる」の一歩先を進むことに、価値が出てくると感じた。
モデリングノウハウの学び方
最後に、Blenderを触っていて、初心者の学び方について考えたことをまとめる。色々考えた結果、「明確な目的に向かいながら、たまには関係ないものに触れる」のがいいのかなと。
というのも、数ヶ月使って実感したけど、機能が多彩過ぎて、全ての機能を把握するのは不可能。学ぶためだけに書籍を読んだりチュートリアル動画を見続けていてもキリがない。「こういうものを作りたいから、この実現方法が知りたい」という目的を軸にした姿勢で調べると、吸収力が変わってくる。
とはいえ、動画内で語られている言葉などは文字で検索できないので、調べ方が難しいこともある。(その辺は動画検索の課題であり、今後変わっていくと思うけど、)だから、強制的にインプットをする時間を決めるのも効果的だと思う。
頑張れば何でもできてしまう分、効率の良い方法を知らずにいる可能性もある。それを知るために、チュートリアルだったり、他人の作ったモデルだったりを、強制的に見る時間を作る。
その中で、自分の目的とは離れた場所に存在する、雑多なものに出会うのも楽しい。効率だけにこだわっていても、つまらない。意図しないところで出会ったものを組み合わせれば、より素敵なものが作れるはず。これはモデリングに限らず、そうだと思う。
個人が映像コンテンツを作れる時代を楽しもう
そんなことを考えながら、初めての3Dアニメーションを作っていた。
作業ボリュームだけで見ると、ストーリーを持つ作品を作るのは、個人には重すぎて、「1人でできることなんて、たかが知れている」と強く感じたのは事実だ。
でも、だからこそ、世に出ている多くの3D映像や作品の素晴らしさを感じられる。そして、個人でもこうして映像コンテンツを作れるようになったのは、本当に面白い。
自分は趣味なので、そこまで大きなものを作ることはないかもしれない。でも、そんな時代の中でどんどん生まれてくるコンテンツを、楽しんでいきたいと思う。
最後に、今回使用させていただいたキャラクターのページをお礼とともに貼らせていただきます。ありがとうございました。