「光る君へ」への長い道のり ~『第35回 「中宮の涙」振り返り』(その3)(ネタバレ)~[3322文字]
大河ドラマ「光る君へ」 第35回『中宮の涙』 の振り返り、その3です。
※以下より、第35回のストーリーを記述しています。未視聴の方は先に第35回をご視聴ください🙇。
■[第35回『中宮の涙』 振り返り]その3
ナレーション:「この年の10月。あかねの思い人、敦道親王が27歳で世を去った」
扇を胸に抱き、夕暮れの渡殿にたたずむ あかね〔泉里香〕。そっと寄り添うまひろ〔吉高由里子〕。
あかね「為尊親王様も、敦道親王様も、私がお慕いした方は、皆 私を置いて、旅立ってしまわれます。まるで私がお命を奪っているみたい」
まひろ「為尊親王様も、敦道親王様も、短い生涯ながら、あかね様とお過ごしになった日々を、何よりもいとおしくお思いであったと存じます」
あかね「もう触れられないなんて‥‥。『ものをのみ 乱れてぞ思ふ たれかには 今はなげかん むばたまに筋』。どんなにあの世から私を見守ってくださろうと、二度とお顔を見ることもできないなんて‥‥。親王様とは、心を開いて、歌を詠み合ったものだわ」
まひろ「あかね様。亡き親王様との日々を書き残されてはいかがでしょう」
あかね「え?」
まひろ「かつて書くことで、己の悲しみを救ったと、おっしゃった人がいました。親王様との日々をお書きになることで、親王様のお姿を後々まで、残せるのではないでしょうか」
夜ー。
追手から走って逃げる惟規。
惟規〔高杉真宙〕「はあ‥‥はあ‥‥はあ‥‥はあ‥‥」
追手「待て!」
塀を乗り越える惟規。
追手「いたぞ!」
追手「待て!」
塀を乗り越える惟規。庭におちる。
斎院の中将「惟規様‥‥」
熱く抱き合うふたり。
追手「何をしておる!」
引き離される。
惟規「中将の君!」
斎院の中将「惟規様!」
内裏、藤壺ー。惟規から話を聞いたまひろ。
まひろ「斎院の堀を越えたっていうの?」
惟規「そうだよ」
まひろ「男が足を踏み入れてはならない、斎院の女房に?」
惟規「禁忌を犯すからこそ、燃えたつんでしょ」
まひろ「なんてこと‥‥」
惟規「姉上だって、そうだったもんね」
まひろ「私は禁忌を犯してなんかいません」
惟規「身分の壁を超えようとしたくせに」
まひろ「そんな昔のこと、もう忘れたわ」
惟規「昔のことなのかな~」
まひろ「浮かれるんじゃありません。それでどうやって解き放たれたの?」
惟規「それがさ、捕まった時、とっさに歌を詠んだんだ。『神垣は 木の丸殿に あらねども 名のりをせねば 人とがめけり』って。そしたら斎院の選子内親王様が、俺の歌を見て、よい歌だから許してやれって、仰せくださったんだよ」
まひろ「そんなよい歌とも思えないけれど」
惟規「天智天皇の引き歌ゆえ、内親王様のお心をつかんだのかもな。俺もなかなかのもんだよ」
まひろ「何が、なかなかなのよ」
惟規「姉上の弟ゆえ、歌が上手いんだ」
まひろ「もう斎院には近づかないことね」
惟規「そうはいかないよ。俺のことを待っている女子がいるのだから」
まひろ「そういうことをやっていると、罰が当たって早死にするわよ。あなたも、あなたの思い人も」
惟規「あっ、仕事に戻らないと」
まひろ「仕事中だったの?」
惟規「これから宿直なんだよ。では」
まひろ「父上に心配かけるようなことだけは、しないでよ」
惟規「分かってるって。じゃあ」
去っていく惟規。はぁ‥‥とため息をつくまひろ。あきれた瞬間、なにかがひらめく。
夜になっても、まひろの筆は止まらない。伸びをして廊下に出る。
左衛門の内侍が男と来る。
男「あれ?この人、あの‥‥うわさの、あの‥‥。帝が夢中になられる物語を書く女房がおると、うわさになっておるのだが、そなたか?」
左衛門の内侍「邪魔をしては駄目よ。このお方は、私たちとは比べ物にならない、尊いお仕事を任されておられるのですから」
まひろ「そのような‥‥」
左衛門の内侍「夜遅くまで、ご苦労さまです。さっ、私たちはまるで尊くないことを楽しみに参りましょ」
男「ああ‥‥」
まひろの傍らを通り抜けていくふたり。
内裏、藤壺。宰相の君が物語を朗読する。
宰相の君「女が賢ぶって嫉妬し 何かと厄介な間柄になってしまうと こちらの気持ちとしても 少し違うところが出て来るのではないかと遠慮し 相手も恨みがちになって 思いがけないことなどが おのずから出てくるものですが 姫君はなんと可愛らしい遊び相手なのでしょう。おのれの娘でも このぐらいになると 気安くふるまい 心置きなく寝起きするなどは とても出来ないものですが これは本当に変わった秘蔵の娘だと 君は思うのでした」
大納言の君「でも、無理に連れ去っていくところは、何だかちょっと‥‥」
小少将の君「でも、実の父親が薄情ですゆえ、光る君の所へ行った方がよかったのではございません?」
左衛門の内侍「それでも強引ですわよね。まことの思い人は藤壺ですもの。この子は光る君のおもちゃのようなものですわ」
馬中将の君「藤壺の所に再び忍んでいき、子までなしながら、その一方で幼子を引き取って育てようと考える光る君は、無分別の極みでございますわ」
一同「無分別」
宮の宣旨が来る。
宮の宣旨「中宮様。敦康様は物忌みのため、今日はお越しになれないとのことでございます」
彰子〔見上 愛〕「そうか‥‥」
宮の宣旨「さあ、方々。お装束の手入れをする刻限ですよ」
一同「はい」
立ち上がるまひろを見る彰子。
彰子「光る君に引き取られて、育てられる娘は、私のようであった。私も幼き頃に入内して、ここで育ったゆえ」
彰子の前に坐りなおすまひろ。
まひろ「そうでございますか‥‥」
彰子「この娘は、このあと、どうなるのだ?」
まひろ「今、考えているところでございます。中宮様はどうなればよいと、お思いでございますか?」
彰子「光る君の妻になるのがよい。妻になる‥‥。なれぬであろうか?藤式部、なれるようにしておくれ」
まひろ「中宮様。帝に、まことの妻になりたいと、仰せになったら、よろしいのではないでしょうか?帝をお慕いしておられましょう?」
彰子「そのような‥‥、そのようなことをするなど、私ではない」
まひろ「ならば、中宮様らしい中宮様とは、どのようなお方でございましょうか」
ほほ笑むまひろ。
まひろ「私の存じ上げる中宮様は、青い空がお好きで、冬の冷たい気配が、お好きでございます。左大臣様の願われることも、ご苦労もよく知っておられます。敦康親王様にとっては、唯一無二の女人であられます。いろいろなことに、ときめくお心もお持ちでございます。その息づくお心の内を、帝にお伝えなされませ」
彰子の、まひろを見つめる大きな瞳から涙が落ちる。
宮の宣旨「お上のお渡りでございます」
涙をぬぐい、ひれ伏す彰子。まひろもひれ伏す。
一条天皇〔塩野瑛久〕「敦康に会いに来たが、おらぬゆえ‥‥」
彰子「お上!」
一条天皇「ん?」
彰子「(顔を上げる)お慕いしております!」
涙に濡れたくしゃくしゃの顔で一条天皇をみつめる彰子。
一条天皇「また来る‥‥」
去っていく一条天皇。
座ったまま、うろたえるまひろ。
震えと涙が止まらない彰子。
ということで、長くなりましたので、『第35回「中宮の涙」』の振り返り』その3は、その4へ続かせていただきます(´-`)。
最後までお読み頂き、ありがとうございました🙇。