【短編脚本】劇的
【著】大島恭平
誰しも劇的な展開を期待する。
劇的な出会いに、劇的な恋、そして…
【本編】
●仕事から帰ってきた男が玄関のポストを開けると、一通の封筒があることに気づく。
男:ん?なんだこれ?観劇のお誘い…?大学時代の後輩からか?
●男は封筒を手に取り、手に持っていたカバンを床に置き、手でビリビリと少々乱雑に封筒を開ける
男:どれどれ。なんだこの劇団。うちの後輩じゃないな。おいおい…旗上げ解散公演って。タイトルも…なんだこれ。えぇーっと。「是非劇場に足をお運びください。無料カンパ制」…ねぇ。公演日バッチリ予定空いてるじゃん………まぁいっか。知らね。
●男はチラシを、散らかった机の上に乱雑に置く。
●数日後、休日をダラダラと部屋の中で過ごしている男。リビングから冷蔵庫へ飲み物を取りに行こうとする。すると、何かを踏みつけ足を滑らせ態勢を崩す。
男:あ、あっぶねぇーチラシか。すっかり忘れてたわ…はぁ。少しは掃除すっか…
●落ちているチラシを手に取る男。
男:そういや公演日…今日だったな…はぁ…部屋でじっとしているより幾らかマシかな。
●男、外出の準備をし始める。
●数時間後、男はとある雑居街にいた。
男:こんなところに劇場なんてあんのか?…あ、ここか。うわ、薄気味悪っ。
●駅から15分程歩いた距離にある、80年代に建てたであろう雑居ビルの地下へと丁寧に公演の看板立っている。男はゆっくりと、その看板通り地下へと進んでいく。階段を下りた先には、特に受付の姿はなく、机が一つ置いてあるだけであり、その机の上には「ご自由にお入りください」と書かれた立札が立てられていた。机の左側はドアがあり、そこのドアにも同様に「ご自由にお入りください」と書かれた札がかかっている。男はゆっくりとドアを開けて周りをキョロキョロと見ながら、若干忍び足になりつつ劇場内に入る。
劇場はまさに小劇場といった感じで、大人4.5人が舞台に立てば、いっぱいになってしまいそうな広さであった。
はけ口はお客から見て左側の下手に1つのみ。舞台中央にパイプ椅子が一つという簡素なものだった。
さらに客席は椅子が1席しか用意されておらず、その椅子にはここに座ってくださいと言わんばかりに、公演のチラシがおかれていた。
男:え?お客、俺だけ?
●男は恐る恐る、そのチラシが置かれた椅子に座る。
するといきなり暗転
男:え?もう始まるの!?まだ時間来てないけど…
●暗転が続く。
舞台上にうっすら人影のようなものが見え、なにかを準備しているようだ。
男:暗転なげーな。
●1分後、明転
男:!?
女:トモくん!?
●明転すると、舞台上には男の恋人の慶子が両手両足を縛られパイプ椅子に固定された状態で座らされていた。思わず椅子から立ち上がる男
男:は、慶子?え?なんでお前ここに!?
女:トモくんこそなんで!?
男:いや、俺は劇を観に。お前こそなんで!?
女:私は…なんでって、
●慶子、舞台袖を何度も確認する
女:逃げた方がいいって!トモくん!!ここにいたらヤバいんだって!!
●男の中で一瞬、これは芝居なのか現実なのかが分からなくなり、どうしようかと数秒悩んでいると、舞台袖からもう一人、謎の女が現れる。顔は布のようなものを被っていてよく見えない。その女の手には鉄パイプが握られており、縛られた慶子の前で大きくそれを振りかぶる。
女:ヤダヤダヤダヤダ!!!!!!
鉄パイプが慶子の頭部に振り下ろされ、ゴーンと鈍い音が劇場内に響く。血が舞台上へ飛び散る。慶子は完全に静止。
男:は…?
●男が突然の出来事で戸惑っていると、慶子を鉄パイプで殴りつけた女が、男へ顔を向け、ようやく謎の女の顔を確認する。
男:…あ、あ、あっ!
●声にならない息のようなものが男から途切れ途切れ漏れる。
男:お、お、お前…は…!?
謎の女:トモヤ、愛してるよ。
●男の手から公演チラシが滑り落ちた。
タイトル「劇的な復讐」
END