【短編脚本】ある家族の千夜一夜物語
作:大島恭平
〇作品紹介
「アラビアンナイト」「木べら」がお題で書いた短編。
姉妹が料理をする話です。
父は解説役で、母は玉座にいます。
〇登場人物
・姉
・妹
・父
・母
◆キッチンに姉妹、ソファーに腰掛ける母、その中間に父。
姉:いろいろあって、母に料理を作らなくてはいけなくなったわ。
妹:そう。それは語ることが出来ないほどに恐ろしい理由で!
姉:私たち姉妹は、今、ここで、母に料理を作らなくてはならないの!
妹:そして、その料理に納得してもらわなければ、私達の命は無い!
父:見届け人は私に任せて貰おう!
姉妹:パピィ!!
父:ただし、私はあくまで見届け人。一切の助言は行わない。マミィの好みを聞き出そうとしても無駄だ。これでいいかね?
母:よかろう。
姉:食材の準備は既にできているわ。後は料理に取り掛かるだけよ。
妹:行くのね?
◆頷く姉
父:では、料理はじめぃ!!!
◆姉、物凄いスピードで料理を始める。
母:なるほど、早いな。
妹:ふ…私達が何の策もなく、正面から挑むと思った?
父:やれやれ。我ながら、私は親バカだな。
姉:パピィは私達に一切の助言はしない。でも事前に食材を揃えていたのはパピィなのよ!つまり、その食材を使う料理を作れば、母が好きな料理になるということ!
父:ルールには触れていない。私はただ食材を冷蔵庫に入れただけなのだから。一切の助言はしていない!
◆さらに料理を物凄いスピードでする姉
姉:ここまではイメージ通り
妹:これを。
◆妹、姉に穴あき木べらを渡す
父:あ、あれは!穴あき木べら!一体何に使うというのだ?
母:……
父:なに!穴の部分をパスタメジャーに…だと!しかし、聞いたことがある…穴あきヘラは丁度2人分のパスタを計ることができると。
妹:どう?少しは見直したんじゃないかしら?
母:……
妹:くっ
姉:流石ね。私の挙動を見ても一切動じない。
妹:ポンコツ姉妹として悪名高い私たちにとって、料理は最早科学の領域。
父:そう。どんなに私がヒントをあげようが、実際に料理をするのは彼女たちだ。付け焼刃のパフォーマンスじゃ流石に騙されてはくれないというわけだ。
姉:しかし!そうなるのは百も承知。でも、忘れていないかしら?
私は一人で料理をしているわけではないのよ?
◆妹、姉の横を離れる
父:おい、どうした!姉を差し置いてどこへ行く……いや、まさかお前が向かっているのは!
妹:お母さん、なんか小学生の頃を思い出すよね~
父:マミィの元へ向かっただと!!
姉:コレが私達にしかできない作戦よ!
妹:ほら!あれ覚えてる?母の日におねぇちゃんと私でお母さんのために初めて料理を作った日の事!おかあさんからは、包丁を持っただけでも凄い心配されて怒られそうになったけど、どうしても作りたいって二人でお願いしてさ。実際完成したのは料理とはとても言えない品物だったけど、でもお母さんは「おいしい」って言いながら食べてくれてさ!私達本当にうれしかったぁ~
◆母、一瞬だが口元が緩む
父:妹が…盛り上げている!
姉:これぞ、キャンプで食べるカレー作戦!
妹:もしくは、ピクニックで食べるサンドウィッチ作戦!
姉:どう?一家団欒の雰囲気を味わっているかしら?気分が乗れば、結局味なんてどうでもよくなるのよ!
父:マミィのテンションが僅かだが上がっている!あれはまるで、千夜一夜物語で姉のシェヘラザードの傍らで「話がおもしろい」と盛り上げ役を演じる妹のドゥンヤザードのように!必死だ!あの姉妹は今、必死にマミィのご機嫌を取っている!
妹:命の為なら、道化にだってなってみせる!
姉:これが私達の覚悟よ!
父:ゴクリ…
姉:完成よ。
妹:わーーーい!もうお腹ペコペコ。お母さんもそうでしょ?
母:……
姉:さぁ、マミィと、そしてパピィの分もあるわよ。
父:私の分も?う、うれしいなぁ~なんか、味なんてどうでもよくなってきそうだー
◆母、父、料理を食べる。
◆姉、妹、父は母の反応を見る。
姉妹父:……ゴクリ
母:おいしい…
父:い、いまなんて?
母:おいしい
姉妹:本当に?
母:うん。本当よ。
姉妹:や、やったぁぁあああ!!!!!
◆姉、父の料理を一口貰う
姉:あ、ほんとだ!めっちゃ美味しいじゃん!流石私!
妹:いや、私のナイスアシストのおかげだね!
父:まったく。気苦労かけさせやがって。味は正直中の下と言ったところだが、二人にしては上出来だったぜ。さてと。料理を食べたら、明日も仕事だし、風呂に入って寝るとするか。
母:ところで。
◆全員の動きが止まる
母:私が今朝作った料理も、まだ残ってるわよ?
姉妹:……
父:やれやれ。夜はまだ終わらないようだ。
END