【短編脚本】事件は事件後に。
【著】大島恭平
経営不振のホテルに探偵が一人。
イラつきを隠せないオーナー。
そして不穏な空気が漂い始める。
これは事件の匂い…!
さぁ、推理を始めましょう。
・・・え?もう終わったの?
〇登場人物
・探偵
・犯人
・刑事
・オーナー
〇本編
犯人:僕が!僕が!どんな思いで…一体どんな思いでこのホテルを……くそ…
探偵:例えそうだとしても!あなたがやったことは、間違っている…!
犯人:じゃあ俺はどうすれば!
探偵:やりなおせる!!もう一度…やり直しましょう。
犯人:うっ……(泣く)
オーナー:このホテルは立て直せるよ。
犯人:…オーナー
オーナー:殺しは決して善行などではない。でも、君がこのホテルに抱いていた思いは、私は決して忘れないよ。
犯人:うっ……ありがとうございます…
刑事:さぁ、いきましょうか。
犯人:はい。
刑事:それでは、ひとまず失礼いたします。
探偵:ご苦労様です。
●刑事・犯人ハケ
オーナー:ふぅ。無事解決ですな。
探偵:そのようですね。
オーナー:しかし、流石は名探偵!私だったら今回の事件、こんなトリックがあったなんて気づきませんでしたよ!
探偵:いやいや。みなさんのアドバイスあってこそです。
オーナー:ハハハ―。最後の説得も心にくるものがありましたな。こんなにお若いのに大したもんだ。
探偵:まぁ、慣れですかね。
オーナー:ほぉ~奥が深いですねー。
探偵:ハハハ
オーナー:ところで、その名探偵に一つ質問があるんだが。
探偵:なんですか?
オーナー:…この部屋のホテル代、どれくらい下がると思う?
探偵:……はい?
オーナー:この部屋のね、宿泊料がさ、どれくらい下がると思う?
探偵:…ん?ホテル代…?
オーナー:いやね、ここ一泊約1万円なのよ。それでさ、今回みたいな殺人事件が起こっちゃったわけでしょ?流石にこのままの値段で出せないからさ、どれくらいまで下げるのが一番妥当かなと思って。それで名探偵の意見を聞きたいなと。どうだね?
探偵:……え?今それ考える事?
オーナー:ん?
探偵:それは、今考えなきゃいけないことですか?
オーナー:ん?
探偵:いや、分かりますよ、ホテルの経営者としてそういった部分が気になるのは。
オーナー:ですよね?
探偵:うん。でも今じゃねーよ!
オーナー:え?どうしたんだい?
探偵:ムード!ムード!え?探偵ものとかさ刑事ものとか見たことないの?普通はさ、事件が終わって余韻に浸って、いろいろあったけどお互いが前を向いてエンドロールっていう一連の流れがあるじゃないですか!
オーナー:だから私は前を向いて
探偵:はえーよ!前を向くのが!余韻余韻!
オーナー:え?ちゃんと余韻はあったじゃないか、あのー「奥が深いですね~」のくだり。
探偵:こっちは全然浸れてないの!ホテル代?業者に聞け業者に!
オーナー:そんなこと言われてもなぁ…
探偵:あーもう、分かりました!ちょっと、ここで待っててください!
●探偵ハケ。少しして、刑事・犯人を連れてくる。
探偵:お待たせしました。
刑事:え?すいません、呼ばれた意味が全く分からないのですが。
犯人:まだ何か言いたいことでもあるんですか?
オーナー:あ、ちょうどよかった。ホテル代のことなんだけど。
探偵:張本人に聞くなー!
刑事:ホテル代?
探偵:ここのホテル代が今回の事件でどれくらい下がるかって話です。
犯人:5千円くらいですかね。
探偵:答えるなよ。
オーナー:なるほど、いい線いってるね。
探偵:あんたも参考にするな。
刑事:そんな事のために私達を呼び出したのか!
探偵:あ、す、すいません。
刑事:こっちにもこれからやらなきゃならないことがあるんだ。まずは護送用のパトカーが来るまでの彼の保護、それからさっき述べた供述と事実のすりあわせ。メンタル面のケア。それから…余韻に浸ったり。
オーナー:浸るのか!
探偵:ほらほらほら!
犯人:僕だって…今ちょうど余韻に浸っていたとこなのに、急に連れ戻されたら、いろいろ台無しじゃないですか!
探偵:もう既に台無しになっているけどね!いや、オーナーさんがね、事件終わってすぐにお金の話をするから、私全然余韻に浸れなくて…
刑事:それで私達を連れ戻して。
犯人:余韻の大切さをオーナーに伝えようってことですか?
探偵:そうです!それともう1つ。
オーナー:なんだね
探偵:他の二人だけ余韻に浸ってるのが許せなかったから!
刑・犯:最低じゃないか!
探偵:私だってやりたくてこんなことをしたんじゃない…仕方がなかったんだ。
犯人:例えそうだとしても!あなたがやったことは間違っている!
探偵:じゃあ…私はどうすれば…
犯人:やりなおせる!!もう一度…やり直しましょう。
探偵:うっ…ありがとうございます…それじゃあ事件が起こる前からやり直しましょうか。
オーナー:やり直せないよ!
END
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