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顔を合わせるたびに彼が過去になっていく。

幾度目のクリスマスイブ。

ただの平日として過ごすつもりでいたわたしに彼氏からのメッセージ。
「クリスマスイブご飯行こう」
イベント熱が希薄な彼が珍しいと思いつつも嬉々しているスタンプを送信する。当日を思いながら過ごした週はどこにでもいる女の子そのものだった。

当日、集合時間に彼家のインターホンを鳴らすも無反応。
LINEに目をやると「まだ駅につかない」と着信が来ていた。
仕事が長引いたのだろうと予測し「了解」と打ち込んで着信に気付けるように携帯を握りしめておく。
12月の夜は肌がピリつく寒さである。「コンビニで待っているから来て」とLINEをして待機していた。最寄りの駅から彼家までの道中にコンビニがあり、そこで落ち合えばいいだろうと考えていた。

お店の予約は大丈夫だろうかと心配になっている頃、LINE着信。
「家に来れる?」
「え、コンビニには来れない?」
「あ、いいや!コンビニにいく!」
いつ最寄り駅について家まで帰ったのか不思議に思った。わたしが予想したルート外から帰ったのだろうと思い直すも引っかかる。
予約しているお店に行くために結局待機しているコンビニを通るはず、彼家に戻るよりもコンビニに彼が出向いたほうが楽だ。彼家に再度向かう理由がわたしにはわからなかった。

25分ほど遅れて彼とコンビニで落ち合った。
わたしの脳内をめぐる疑問は(ただの言葉のあやなのだろう)で片付けた。事前に教えてもらったお店へ歩きだそうとした時、
「お店変えたんだ、こっち」
方向を変え歩き出した彼に「え?変えたの?」と投げかける。
「うん、なんか違うなと思って」
「どこ?」
「ん〜?どこだろうね」
口角を上げながら言葉を濁す彼、彼なりのサプライズ的なものかと解釈しそのまま歩き出した。

焼き鳥屋さんだった。
野菜を中心とした少し大人めの雰囲気のお店だった。
ビールと数本の焼き鳥を注文し乾杯する。今のところクリスマス感は皆無。
会話の割合は9割彼の副業話である。今年いかに副業を頑張り、稼ぎを出したかの話を聞く。ちなみにこの日に初めて聞く内容ではない。会うたびに同じ話をするのだ。幾度肯定し尊敬の念を提示しても一向に話は終わらない。副業の稼ぎが全体の何%なのか、これがどのくらいすごいのか、彼は何度も伝えたいのだろう。薄まってきた言葉を幾度も拾い上げては返しているのに、そろそろ満足してくれないかと思っている。

わたしも自身の話をするも彼は気の抜けた返事か自分の話にすり替えて話始めるので見守ることにした。少し沈黙があると「うまいね?」と食事へのフォーカスへと切り替わる。話題提供者のわたしが休むと彼は決まって食事へのフォーカスに切り替える癖がある。これはきっと無自覚だろう。彼からの話題提供はほぼないに等しく、わたしのことは自分で切り開いて話すしかないのだ。


お腹が満たされ、お会計の時間になった。
クリスマスイブだし、直前にお店を変更しそれをわたしに伝えていない要素からご馳走してくれるのではないかと期待していた。そう思ってもおかしくない状況だったと思っている。
そうでなくても多めに出すつもりなのだろうかと彼の動向を伺っていた。
「まるが一旦払ってくれる?あとでPayPayで送るわ」
「・・・(ほう?)」
割り勘なのは問題ない。引っかかるのはこの日がクリスマスイブということだ。この一旦わたしが支払った後で彼からPayPayを送ってもらう(もちろん割り勘分の金額です)ことは、わたし達の間ではしばしばある。だから通常の平日の夜でなんてことない夜ご飯ならそれでいい。一旦わたしが払おうじゃないかと思える。ただ、この日はクリスマスイブなのだ。

「・・いいよ〜」
財布から現金を取り出してお会計を済ませる。彼は何かを察したのか言葉を吐こうとするもやめた様子だった。そこは吐き出すのが正解だったと今も思っている。
お店を後にし、デザートを提案するわたし。この一連から彼がクリスマスイブと言えど何も準備していないことは容易に想像できる。案の定「マックでいい?」と言われ承諾する。
わたしはホットコーヒー、彼はイチゴのフラペチーノ風のドリンク、ポテトフライLサイズを注文し席につく。(デザートは?と思われたかもしれないが、ポテトフライがデザートです)

そこでも話は彼中心。転職の話をする。ちなみに転職の話もこの日が初めての内容ではないことは薄々感づいているだろう。幾度としたアドバイスを似た言葉をチョイスしながら彼に投げかける。転職つながりでわたしの職場の話をすり込ませることに成功し、わたしは話したかった職場の話をする。その間は彼なりの相槌で聞き役を果たそうとしている姿勢を感じ取る。会話中の1割にも満たない中で時折彼は聞き役をすることがある。彼の中にも聞き役に徹する意識があることは救いだなと思いつつ、継続時間を伸ばせないのかという愚痴は心に仕舞うことにした。

明日もお互い仕事のため早々にマックをでた。
お互いの家の中心にある四角でサヨナラをしてクリスマスイブは終了した。サヨナラをする道中でも彼は自身の話に夢中だった。わたしの話を投げかけるも自分の話にすり替える技を見せられ呆れ笑いをするしかなかった。
「今日はありがとう〜」
お互いに手を振って帰路に着いた。

玄関のドアを閉め、お風呂の準備をしている間こみ上げる感情を抑えることはできなかった。頬を伝うそれらにただ寄り添っていたかった。
彼とは何度かクリスマスを過ごした。提案も準備も当日の流れもわたしが決めていた。わたしはイベント熱が高いわけではないが、彼氏と一緒に過ごしたいとは思っている人間である。クリスマス感のあるチキンやサンタケーキなどを準備する。彼へのプチプレゼントもクローゼットに忍ばせて。それなりにイベントを楽しもうという気持ちはあるのだ。
幾度と経験した彼とのイベント熱の温度差にわたしは疲れていた。提案も準備もすればするだけ温度差が広がり虚しくなる。それなら今年は辞めようと思った。虚しさを感じることも、また、体力が必要だから。

だからこそ彼からのクリスマスイブのお誘いは嬉しかった。
イベントごとを気にしてくれたのが、温度感を合わせようとしたのかと思って、気持ちが綻んだ。彼なりの精一杯があの日なら、それは肯定しないといけないのかもしれない。頭でぐるぐる交差する言葉をわたしは片付けることができずにいた。


優しさと思いやりってなんだろう。
彼は優しい人だけど、思いやりはあるだろうか。
優しい人とは思いやりを持っていることと同義ではないのだろうか。
わたしの優しさ=思いやりの方程式が崩れる出来事だった。思い返せばもやがかかる感情の中にはそういった自身の方程式から乖離した出来事に出会って生まれたものがあったのかもしれない。
お店の予約をしてくれるのは優しさで思いやりではないと思う。
わたしが思う思いやりは相手の気持ちを汲み取って相手を想う言動のこと。

お会計時に一旦支払いをお願いしたいなら「まるにも支払いの都合あると思うけどごめん、○○な理由で割り勘が難しい。一旦払えないかな?」と相手を気遣いながら払えない理由を添えてお願いすることが思いやりだと思う。
(一例が下手だけど雰囲気で汲み取って欲しい)

十人十色の価値観は承知だが、今のわたしはこう思う。
優しさと思いやりって対で繋がっているわけではないのかもしれない。
違う価値観だと分かっていても分かっていないことが多すぎるのかもしれない。結局自身の固定概念の中でしか生きられないのかも。

わたしなりに彼に寄り添い向き合ってきたつもりだった。
けど、どの言葉をとってもきっと届いていなかった。わたしの気持ちを代弁できるものが他に何があっただろうか。
少しずつ少しずつそういった違いを見つけては譲歩したり歩み寄ったりしてお互いがお互いのために想い合うのだろうと思う。

けどわたしは振り返っても一方通行のように思えて虚しさが込み上がる。
幾年かけてきた言葉は彼をすり抜けて消えていった、片思いだったのではと気付き悲しくなった。きっとここから話し合ってわだかまりや価値観をすり合わせていくのだろうが、わたしはリタイアする。
あと何度、言葉を交わせばすりあっていくのだろう。あと何度、同じ感情になれば言葉が届くのだろう。そもそもすり合わせなど彼は望んでいるのだろうか。

わたしはこれ以上彼に向き合い続けられる体力が残っていない。

人間関係に失敗したこと、とても残念だけど自身の感情を優先する。
もし次があるなら、学んだことを無駄にしない向き合い方をしたい。

言葉が足りなかったのか、選択した言葉が悪かったのか、
かけた言葉も時間も誤りだったとしても今のわたしを作った過去のわたしを労いたい。


自分の話をたくさんした分だけ、
相手の話もたくさん聞いてあげて、
誰だって自分の話を聞いてほしくてたまらないのだから。



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