2015年から2024年の特別な10年間について、知っていますか?
いつもお読みいただいてありがとうございます。HBAライターのRisaです!
みなさんは、2015年から2024年までの10年間が、国連によって「アフリカ系の人々のための国際の10年」と定められていることを知っていましたか?この記事では、この取り組みの重要性や背景もふまえて、わかりやすく説明していきたいと思います!
「アフリカ系の人々のための国際の10年」(以下「10年」とします)は、アフリカ系の人々の「理解、正義、開発」のための行動計画を実施するために、2013年12月23日の国連総会で採択されました。
今回は、この枠組みが作られた背景から、に注目していきましょう。
「アフリカ系の人々」とは?/「10年」が制定された理由
そもそも「アフリカ系の人々」とは、誰を指すのでしょう?
国連は「アフリカ系の人々」を、アフリカを起源とする人々や自らをアフリカ系と考える人々、と定義しています。つまり、「アフリカン・ディアスポラ」と言い換えることもできます。
南北アメリカにはアフリカ系の人々が2億人いるそうです。
日本政府は人種を基にした人口統計を作っていませんが、もちろん国内にも、アフリカにルーツを持つ日本人や移住者、留学生、難民等、様々なアフリカ系の人々がいます。
国連は、この「10年」を制定した背景として、アフリカ系の人々が今なお世界的に「もっとも貧しく、もっとも社会から隔絶された層」であるにも関わらず、この状況に十分な関心が寄せられていないことを指摘しています。
もちろん、住むところも生活環境も異なる世界中のアフリカ系の人々すべてが貧しかったり、社会から隔絶されたりしているわけではありません。
しかし、中世から近代にわたって欧米諸国がアフリカ系の人々を差別し繰り広げてきた奴隷制度・奴隷貿易・植民地化は、今だに世界中のアフリカ系の人々に影響しているのです。
たとえば、日本人にはあまり馴染みのないアフリカ大陸。
アフリカにはなんと、「3000の民族が存在」し「2000〜2100もの言語が話されている」と言われています。
多様な民族が暮らすアフリカ大陸にヨーロッパが目を付け、奴隷貿易をはじめたのが15世紀半ば頃。多くのアフリカの人々が家族や部族と離れ離れにされられ、ヨーロッパや北米、中南米に連れていかれました。
やがてヨーロッパの列強はアフリカ大陸の豊かな資源の存在に気づき、植民地支配を始めました。その多くは第2次世界大戦後に独立を果たしましたが、もともとあった伝統文化は崩壊し、経済基盤やインフラも整っていない状態からの再スタートを強いられました。
ご存じの通り、アフリカ大陸には今でも人道的課題が山積み。特に植民地支配の遺産としてよく指摘されている問題には、次のようなものがあります。
ヨーロッパ諸国が自国の都合やアフリカ人の仲間割れのために引いた境界線が、独立後もそのまま国境となり、元々あった民族間対立が激化、国境紛争を生み出した(分割統治)
欧米大国による経済支援という名の間接支配(新植民地主義)
植民地時代に導入された少数の作物・天然資源への依存が独立後も続き、資源大国とそうでない国との間で格差が拡大した(モノカルチャー経済)
これらの問題が悲惨な内戦や貧困につながり、2001年には、南アフリカ・ダーバンで世界会議が開催されました。そこで、このような悪影響を残し続ける奴隷制や植民地制度を国際的に罪として認め、人種差別や外国人排斥の撲滅などについて示した「ダーバン宣言及び行動計画」が採択されたのです。
国連はこれまでも「ダーバン宣言」をもとにアフリカ系の人々の人権の向上を優先してきましたが、そこで指摘されている問題は今なお、解決から程遠いところにあります。
「アフリカ系の人々のための10年」の制定にあたって国連は、奴隷貿易の犠牲者の子孫であろうと、近年の移民・難民であろうと、アフリカ系の人々が世界規模で次のような問題に直面していると指摘しました。
教育・医療・住宅・社会保障を十分に利用できていない
すべての人に平等であるべき司法から差別を受けたり、警察からの不当な暴力を経験する割合が圧倒的に多い
投票率、議席率などの形で政治参加が停滞している
日常的に人種差別や外国人嫌いの被害にあっている
ここで紹介した歴史や課題は、現状のごく一部ですが、背景を少しでも知るだけでも、「10年」の重要性がお分かりいただけるのではないでしょうか。
「10年」の目的と行動計画
国連はこの枠組みを通して、これら問題の解決に向け加盟国や市民社会と協力しながら「理解、正義および開発」をテーマとして行動計画を実施することを目指しています。
そしてこの行動計画は、いくつかの実行段階に分かれています。
国レベル:アフリカ系の人々(特に女性や青少年)に対する人種差別や外国人排斥、不寛容さに対処すべく、国際法や国内法に基づいて具体的かつ実践可能な行動計画を立て、実行する。
国際社会レベル:国際社会や地域共同体(アフリカ連合、欧州連合など)は、ダーバン宣言や人種差別撤廃条約を啓蒙し、各国の行動計画の実現に協力する。また、統計データを集め、開発目標に人権を組み込み、アフリカ系の人々の歴史の保存に努める。
国連総会レベル:国連人権高等弁務官をコーディネーターに任命し、コンサル的な役割を果たす「フォーラム」を設立、「10年」の中間レビューや最終評価などを担う。
この枠組みに法的拘束力はありません。
そのため、国連が各政府に対して何かを強制したり、罰したりすることもありませんが、国レベルの取り組みはそこで暮らすアフリカ系の人々に特に影響をもたらすとして、大きな期待が寄せられています。
各国の取り組み
ではここで、国連に報告された各国の取り組みの一部を見てみましょう。
法的措置
人種差別を法律で罰することができるようになった(ボリビア、チリ、エクアドル、ギリシャ、カザフスタン、リトアニア、セルビア)
格差を積極的に是正するため、 高等教育・労働市場で少なくとも8%の枠をアフリカ系の人々に与えることを法律で定めた(ウルグアイ)
警察によるレイシャル・プロファイリング※を禁じるガイドラインを策定(イギリス、オランダ)
※人種や民族など、特定の属性であることを根拠に個人を捜査すること
国家の行動計画・政策
差別解消およびアフリカ系の人々の人権のための行動計画を策定(アルゼンチン、コスタリカ、ホンジュラス、イタリア、リトアニア、メキシコ、ペルー、セルビア、ウルグアイ)
「10年」についての円卓会議を設置し、政府とアフリカ系国民との間の話し合いを推進(エクアドル)
監視・報告制度
人種差別的犯罪に特化した5名の特別検察官を任命(ギリシャ)
アフリカ系国民のニーズや課題に対応する全国評議会を設置(ボリビア)
差別に関する苦情に対応する監察官を任命(南アフリカ、イギリス)
啓発・教育
教科書の中で、アフリカの歴史や文化、アフリカ系偉人、人種問題に関する史実を増やした(アルゼンチン、キューバ、メキシコ、リトアニア、ウルグアイ)
国連と連携し、大西洋奴隷貿易やアフリカ系国民の活躍などを取り上げたテレビドラマシリーズを制作(キューバ)
警察などに対し、レイシャル・プロファイリングに関する人権トレーニングを開催(オーストラリア、キプロス、グアテマラ、ナイジェリア)
データ収集
貧困、雇用、健康、教育などの統計や、アフリカ系国民の直面する人権問題をデータベース化(ペルー)
人権問題、武力紛争、労働搾取がアフリカ系国民にもたらす影響を調査(コロンビア)
警察による職務質問を記録するアプリを開発(イギリス)
ここに取り上げた例はごく一部ですが、植民地支配や奴隷貿易に加担した欧米諸国より、大きなアフリカン・ディアスポラ人口を持つ中南米の国々による取り組みが目立っています。
そして、気づきましたか?日本を含むアジアの国々の名前もほとんど出てきていません。アフリカ系の人々の割合が少ないことが関係していそうです。それについては、また後で戻ってこようと思います。
コロナ禍が浮き彫りにした現実と、「10年」のこれから
「10年」の折り返し地点が過ぎた2021年7月、国連による中間レビューが行われました。同年8月には「10年」行動計画の一環として「Permanent Forum of People of African Descent(アフリカ系の人々の常設フォーラム)」の設置を決議。このフォーラムは人種主義・人種差別・外国人排斥などに関する専門的なアドバイスを国連に提供するために立ち上げられ、「10年」の更に先も見守っていくことになります。
中間レビューの翌日、国連の人権活動の中心を担う国連人権高等弁務官事務所(Office of the High Commissioner for Human Rights: OHCHR)の高等弁務官、ミシェル・バチェレ氏はこの「10年」を振り返り、アフリカ系の人々の権利や人種差別の撲滅に向けた各国の動きなどを評価しました。
その一方で、何百年にもおよぶ差別や搾取に報いるための包括的な取り組みをまだどの国も行っていないことを指摘しました。
副高等弁務官のナダ・アルナシフ氏は、コロナ禍で人種間の対立が激化し、長年の人種差別がアフリカ系の人々をより脆弱にしていることにも言及しました。
多くの日本人にとっては、人種差別とパンデミックの関係と聞いても、ピンとこないかもしれません。たとえば国内でも、ひとり親世帯や低所得者、免疫不全者など、以前から弱い立場にあった人々がコロナ禍によって更に厳しい状況にさらされていることが度々報道されますが、同じようなことが、アフリカ系の人々にも世界的に起きています。
たとえばアフリカ大陸全体の新型コロナワクチン接種率は、今も10%未満(2022年1月現在)。アメリカやイギリスといったいわゆる先進国でも、貧困層やエッセンシャルワーカー、基礎疾患持ちの割合が多いアフリカ系国民の感染率・重症化率・死亡率は、白人と比べて突出して高いことが報告されています。
更に米国では、石油化学工場などの大気汚染を悪化させる施設が黒人の多い地域に建てられることが多く、これらの地域での大気汚染レベルと新型コロナウイルスによる死亡率との関係性が明らかにされてきているそうです。
「ずっとそこにあった危機」がまさに露呈している今、「アフリカ系の人々のための国際の10年」も残すところ3年となりました。
2022年1月、バチェレ高等弁務官は、SDGsの取り組みを加速するためのアジェンダ「私たちの共通の課題」達成に向けて、各国や寄付者にさらなる援助を求めました。その中で、OHCHRが警察の暴力への対応をはじめ、アフリカ系の人々のための取り組みを更に強化していくことを宣言しています。
もちろん、何世紀も続いている人種差別をたった10年間で撲滅することはできません。でも、危機が明白になっているこの時こそ、世界が同じ認識と目的を持って、問題解決に向けて前進する機会になるのではないでしょうか。
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あとがき−−日本
実はこの記事を書く前は、私もこの取り組みのことはまったく知りませんでした。アフリカ系の人々がもともと少ない日本では、当然のことかもしれません。そこで、基本的な背景から丁寧に伝えることを心がけました。
アジア、とりわけ日本では、アフリカ系の人々は圧倒的少数かもしれませんが、国内にも様々なアフリカ系の人々がいます。
アフリカ系のルーツを持つミックス(ハーフ)
留学や仕事で日本に滞在している外国人
日本人と結婚して家庭を持っている外国人
内戦や気候変動などによって自国内で安全に住むことができなくなり、日本に来ることになった難民
私の周りには、日本で黒人であることを理由に差別や偏見を経験したアフリカ系の友人たちがいます。「いちいち気にしてられないから」という人、「もっとこうなってくれたらいいのに」という人もいます。私は彼らの話を聞いて毎回、誰かが偏見や差別を我慢し、慣れなければいけない世の中は、彼らにとってはもちろん、回り回ってみんなにとっても生きづらいのではないかと思うのです。
偏見や差別をなくすために個人にもできる第一歩は、知ることだと思います。上記のようないろんな背景を持つ方々が日本に暮らしていることを知ること、見た目で判断しないようにすることからでも、始めてみませんか。
また、「各国の取り組み」のところを書いていて、アフリカ系の人々の少ない日本でもいろんな可能性があるのでは、と思いました。たとえば、アフリカ系人口を対象にした国内のデータがあれば、憶測ではなく、社会全体としての実情をより正確に知ることができます。
また、中南米の国々のように、歴史の教科書でアフリカの歴史の枠が増えたり、キング牧師以外にもアフリカ系の偉人が取り上げられたりするとどうでしょう?「スポーツ選手」や「ラッパー」などのステレオタイプではなく、もっといろんなアフリカ系の人々がメディアで取り上げられるようになると、私たちが見る世界ももっと違ってくるのではないでしょうか。
私が小学生の頃はクレヨンに「肌色」という色がありました。でも、肌の色にもいろいろある、ということでいつしか呼び名が「うすだいだいいろ」に変わったのだそうです。たしかに、その色に当てはまらない肌を持つ子は、それが理由で他の子からからかわれたり、「自分の色は普通じゃないんだ」と思ったりすることもあるでしょう。
「肌色」のクレヨンは小さな変化かもしれませんが、一つの色を肌のスタンダードにしなくなった大きな一歩と見ることもできます。個人が、社会が何か一つを変えられたのであれば、それは当事者、そして日本が多様性により寛容な社会になるにあたって、重要な一歩なだと思うのです。
長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。
さて、皆さんは「10年」のことを知っていましたか?
日本では、どのような取り組みができる・あった方がいいと思いますか?
皆さんの感想やアイデアをぜひお聞かせください。
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