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インタビュー with ウォレン・スタニスロース氏(後編)「ステレオタイプとその先に目指せるもの」

こちらは、イギリス・ロンドンから留学生として来日し、現在立教大学で客員研究員として活躍されているウォレン・スタニスロースとのインタビュー記事、後半になります。前編はこちらから。

アイデンティティについて(続き)

「こうあるべき」からの脱出

ウォレンさん 僕は、白人の生徒が大多数を占める私立学校にずっと通っていました。そういう環境にいると、教育だけじゃなくて話し方も影響されるんですが、僕の話し方はまさに典型的な中流階級のそれなんです。

でもイギリスでは、黒人はあまりそういう話し方をするイメージがないんですよ、特に黒人男性。なぜなら、黒人男性はもっとストリート出身、いわばゲットー出身という偏見があって、いわゆる教養の無い話し方をするものだと思われがちなんですね。

Risa なるほど。

ウォレンさん なので、例えば僕が電話で誰かに始めて「ウォレン・スタニスロースです」と自己紹介したとする。僕の名前も「黒人ぽくない」ので、相手は……(ウォレンさんを白人だと思いこんでしまう)。それがまず一つ。

もう一つは、他の黒人から、黒人ならこういう話し方をするもんだろうとか、こういう服を着るもんだろう、もしそうじゃなければ、「あいつはあちら側(白人側)のやつだ」というプレッシャーです。

イギリスではそういう黒人に対してBounty(バウンティ)」という言葉が使われることがあって、僕も何度かそう呼ばれたことがあるんですけど。バウンティというのはオレオみたいな、外が黒で中が白いチョコレートバーなんですよ(=黒人なのに白人に媚びているという意味)。

Bounty チョコレートバー

Risa それを、自分が属する黒人コミュニティーから言われるんですね……

ウォレンさん そうです。こういう背景が、実は僕が日本に興味を持った過程に影響したかもしれません。日本に興味を持つ前はカンフー映画が好きで、その後は韓国ミュージックにもはまりました。2004年ですよ、Kポップの登場よりずっと前です(笑)

Risa (笑)

ウォレンさん それから、日本に――V系ミュージックにハマりました。男性バンドが、日本社会ではあまり広く受け入れられていないような女性らしい衣装を身にまとったり、色んな感情を見せるじゃないですか。

Risa そうですね。

ウォレンさん 僕はそういう、V系の「他の誰にもなるつもりなんてない、自分は自分」というスタンスに惹かれたんだと思うんです。僕にとっては、「僕はあなたの望むゲットーな黒人じゃない。僕は僕だし、自分のアイデンティティを探しているところなんだ」と思うことができた。

日本に興味を持ち、日本に行って、日本語を学んだことで、僕らしさを100%出すということができるようになったんです。イギリスでは、息苦しくてなかなかできなかったことです。

Risa とてもパワフルな経験ですね。

ウォレンさん もう一つ付け加えると、イギリスやアメリカでは特に黒人男性に対する「過剰なまでの男性らしさ」というレッテルがあります。体も大きくて、力強くて、弱々しいのはけしからん、という期待ですよね。男性は誰しもそういうプレッシャーを感じると思いますが、黒人男性はとりわけ。

それに反して、日本文化や日本語、あとは日本のアニメやビデオゲーム、音楽といったポップカルチャーにはとても遊び心を感じたんですよ。そして、まったく異質な言語を話せるようになったことで、元々いた世界とはまったく違う自分にもなれた。黒人らしくとか、過剰に男性らしくとか、ゲットーらしく、といった押し付けから自分を切り離すことができたんです。

その時は気づいていませんでしたが、振り返ってみると、日本やアジアに対する興味の根幹にはそういうところがあったと思います。

Risa 私も、英語を学んで自分らしさをより幅広く表現できるようになったと思うので、少し共感できる気がします。おそらくウォレンさんにとって、自分の国やコミュニティーでは見つけられなかった自分の在り方を見つけるためとっかかりが韓国ミュージックやV系だったんでしょうね。

身内から向けられる「黒人男性なんだからこうあるべき」と言う過剰な期待も、ある意味「外側の人たち」が向けてくるステレオタイプを自分たちで再現しているようなものなのかもしれませんね。

DISCOVERY (Photo by Noble Mitchell on Unsplash)

ステレオタイプとその先に目指せるもの

Risa さて、ここまでウォレンさんのルーツや、黒人男性としてのアイデンティティ、自分のコミュニティーから向けられる「こうあるべき」という重い期待についてお話しいただいたわけですが、ここでは外から向けられるステレオタイプについてお話を伺えたらと思います。

ほとんどの日本人にとって、アフリカ系の日本人や外国人と直接関わることってまだまだレアな経験だと思うので、私たち自身、どうしても映画などが発する黒人の印象が強くなってしまうんですよね。

ウォレンさん そうですね。

「君はどんな分野でも大阪なおみのようになれる」

Risa 日本でもそういう偏ったステレオタイプに出会った時、見た目で判断されてしまった時はありましたか?

ウォレンさん 日本だけでなく他の国でもよくあることなんですが、例えば「黒人はエンターテインメントに強い、ダンスや音楽、スポーツに強い」というステレオタイプがありますよね。

日本でも、黒人セレブやアスリートは身体的な部分で注目されがちですが、それが必ずしも悪いこととは思いません。(日本のアフリカ系の子どもたちが)次の大阪なおみやケンブリッジ飛鳥になりたいと思う、そういうロールモデルがいるのは素晴らしいことです。

ただ、僕は(彼らは)どんな分野においても大坂なおみのような活躍を目指せるって言ってあげたいんです。

日本や他の国でも、黒人の子どもたちのロールモデルは身体的部分で優れている人たちばかり。ビジネス、学術、科学、政治、そういう他の分野で活躍している姿をほとんど見かけないので、僕はその点を強調したいかな。

Risa 当人たちにとって、多様なロールモデルがいることがとても大事ですね。

日本の良さと西洋社会の課題

ウォレンさん 僕も「足長いね、バスケ得意でしょ」など言われたことがありますが、まあ日本ではしょうがないと思うし、気にしません。知らないだけでしょうから。

日本で良いなと思うのは、僕は日本語を話せるから「イギリスではバスケやらないんだ」と言うと、相手は「へー知らなかった」と。
そんな新しい発見につながる会話ができることなんですよ。

時々嫌な経験もあります。例えばイギリスの大学にいた時、ある生徒と日本に10年いたこと、日本語を勉強したことを話したんです。そうしたら「それで、君はアフリカ研究をやってるの?」って聞かれて。え、なんで?と。

僕は「日本研究」と書かれた学生証も見せたし説明もしました。でも、僕の見た目からの先入観が強くて、相手の耳には入っていなかったんです。
こういったことが西洋社会の課題の一つだと思います。

アメリカでの警察の暴力もそうでしょう?IDを見せて「私はやってません」と訴えても、警察は聞いてはくれない。僕らが言っていることより、僕らの肌の色の方が状況を判断するのに重要だと思われてしまっているんです。

Risa ……

ウォレンさん 日本では警察に止められて「ID見せて」と言われることもあるかもしれないけど、見せて説明すればそれで終わり。自分が何者か説明する機会が与えられるんです。でも僕のイギリスや他の西洋諸国での経験では、その機会すら与えられていないこと、言っても信じてもらえないこともある。一番の判断材料が肌の色になってしまっているから

なにも僕が危険な状況にある、ということが言いたいわけではないんですが、こういった日常的な経験が社会全体の課題を示していると思うんです。

Risa 考えさせられますね。人間誰しも偏見は持っているから、「人種差別は欧米の問題」という日本人に対して、必ずしもそうではないんじゃないの?と思っていたんです。でも「知らないだけ」ということはそれ自体が一種の伸びしろと言うこともできるかもしれませんね

アメリカにいた時、「人種差別」という言葉が出るとそれだけでみんな構えちゃうことに気づいたんです。「自分が差別主義者じゃないと証明しなきゃ」と。そういった点で、日本にはまた違った可能性があると思われますか?

ウォレンさん そうですね、僕の日本での経験では、固定観念を持つ人はいるけども「いや実際はこうだよ」と説明すると「ああ、そっか」となる。でもそれは、僕がある種の特権を持っているからでもあると思います。

僕はイギリス出身で、オックスフォード大卒で、日本語が話せる。日本の大学にいたこともある。だから信用を得られやすいというのはありますよね。

もし僕が黒人のミックスの日本人だったら、よそ者扱いされていると感じて傷つくかもしれないですし、東南アジア人など、黒人以外の多様なコミュニティーもあるから、本当に立場や出身によると思います。

欧米からやってくる黒人は総じて「ステレオタイプはあるけども日本では安全」と感じることが多いので、僕個人はポジティブな可能性を感じていますね。

多様性を活かす、日本の将来

Risa 時間があっという間に過ぎてしまいまして、最後の質問です(泣)。前半でも話したように、日本では、日本やイギリスの多様性はまだまだ認識されていないと思うのですが、情報の時代でそれも変わりつつあります。

これから日本で両国の多様性についてより理解が広がっていった時、ウォレンさんはどんな成長・変化があると考えますか?

ウォレンさん 以前、記事に書いたこともあるのですが、日本政府や関連機関は今、インバウンド・ツーリズム(訪日外国人旅行)の推進の一環として、「日本再発見」というテーマに取り組んでいるんです。世界に誇れる日本文化を再発見し、ポスト・コロナの日本に観光客を呼び込もうと、今いろいろなところで聴き取りなどを行っています。

Risa (知らなかった!)

ウォレンさん そこで、「再発見」をしていくにあたって「誰の目線で」考えていくのか?日本への観光客は8割以上のアジアから来ていますが、実は多くの観光推進は欧米諸国の白人向けになっているんですよ。

Risa そうなんですか!

ウォレンさん ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアといったところですね。例えばパンフレットのイメージになっているモデルとか、宣伝しているアクティビティも、想定されているのは欧米の白人なんです。

でももし、異なるタイプの消費者をイメージしてみると、どういう日本文化が注目されるでしょう?例えばアフリカ系アメリカ人やラテン系アメリカ人、中国人。

さまざまなグループが想定できますが、僕が興味を持っているのは、それによって日本のどんなところに関心を向くか、日本文化のイメージがどう変わっていくか、ということなんです。

Risa なるほど……面白そうですね。

ウォレンさん 一つの例ですが、16世紀に実在した黒人の侍、弥助はご存知ですか。Netflixが彼を題材にアニメシリーズをリリースしたことで、世界中から注目が集めるようになってきています。

ウォレンさん でも日本ではこれまであまり話題にのぼってこなかったし、まだ知名度も低い。京都に行って、織田信長が最期を迎えた観光地を訪ねても、弥助の話は見つからないんです。彼も織田信長の物語の一部だったにもかかわらず。

Risa そうですね、私もそれこそNetflixのアニメ化まで、聞いたこともなかったです。

ウォレンさん 日本の観光を推進している機関や団体が、このような「世界に知られている日本」を理解していれば、何か変化が生まれそうな感じがしませんか?

特に弥助のような、アフリカン・ディアスポラの人々に興味を持ってもらえる題材にもポテンシャルがありますし、日本も世界と関わってきた歴史があるわけですから。こうした、異なる「眼差し」を通して日本を再発見する取り組みがもっとあってもいいと思うんです。僕自身、日本の新しい物語を語る一人になれたらと思っています。

Risa ワクワクするお話ですね!
おそらくこれまでは、日本人にとって欧米の白人が一番イメージしやすい「海外」だったと思うんですが、これから私たちが世界中の様々な人々への理解を深めていくにつれて、彼らが日本のどこに興味を持ってくれるのかというのも分かってくるわけですよね。

ウォレンさん ええ、まさにそうだと思います。

Risa 今日はとても興味深いお話をたくさんしていただき、ありがとうございました。インタビューが始まる前に、今も論文を執筆中と伺いましたが、今後のご活躍も祈っています!

ウォレンさん こちらこそ、いいお話ができました。ありがとうございます。


編集後記

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
さて、ウォレン・スタニスロースさんとのインタビュー、いかがでしたか?

日本とイギリスの意外な多様性
生まれ育った場所で感じる息苦しさと、異文化を通じて新発見した自分
アフリカン・ディアスポラから見た日本の可能性

物静かながら、歴史への好奇心と情熱に満ちたウォレンさんの「眼差し」から見るイギリスと日本は、私がそれまで知っていたよりも多様性と可能性にあふれていました。インタビュー中はもちろん、執筆中も、思い出しながらワクワクを掻き立てられました!(そうして尺が伸びる伸びる(^.^;)

皆さんにもそのワクワクが伝わればうれしいです!
ご感想も、ぜひお聞かせください♪

おまけ

  • ウォレンさんの日本語HP

  • ウォレンさんと立教大学GLAP学生が作った英国のブラックミュージックプレイリスト:SpotifyYouTube

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