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インタビュー with ウォレン・スタニスロース氏(前編)「日本での生活、アイデンティティ、私たちの知らないイギリス」

こんにちはこんばんは、HBAライターのRisaです!

今回は、イギリス・ロンドンから留学生として来日し、現在立教大学で客員研究員として活躍されている、ウォレン・スタニスロースさんにインタビューをさせていただきました。日本に来ることになった経緯やここでの生活、アイデンティティ、ステレオタイプ、日本の新しい可能性等、興味深いお話をたくさん伺うことができました。

前置きはこれくらいにして、早速行きましょう!

※このインタビューは英語で行われました。
※ウォレンさんのセリフ内の()は、筆者による補足です。

日本での生活

日本に興味をもったきっかけ

Risa このインタビューに先立って、ウォレンさんが以前インタビューを受けた際の記事も拝見しました。日本へは元々ボランティアとしていらっしゃって、それから10年以上こちらに留まることになったのですよね。
まず、その背景をお話いただけますか?

ウォレンさん はい、僕が最初に日本に興味を持ったきっかけは、ヴィジュアル系でした。

Risa 

ウォレンさん そう、あのロックミュージックのV系です。17歳の頃、とても興味があって。最近も、たくさん海外の人が日本のポップカルチャーに関心を持ち、日本語へのあこがれを抱いていますが、僕もその一人でした。

Risa (アニメ好きはよくいるけど、V系好きは珍しいです!)

ウォレンさん これについては、今僕がやっていることにもつながってくるので、後からもう少しお話しましょう。

Risa (はい!!)←まだ相槌のテンポをつかめていません

ウォレンさん 僕は当初、英国の大学に進学する予定でした。ところが、イギリスでも多くの人がおこなっているギャップイヤー(大学に入学する前に旅行したり仕事を経験したりして1年を過ごすこと)について知り、いずれ日本の大学を目指すならまず一度日本に行ってしまおう、と思いました。

ボランティア生活、とんでも事件、想像していなかった日本

ウォレンさん ネット検索で、愛知県西尾市でのボランティアプログラムを見つけました。簡単に説明すると、約6ヶ月間、毎週半々ずつ保育園と老人ホームに通ってお手伝いするというもので。その間、日本にいるだけで言語や文化についてたくさん学ぶことができたので、英国の大学ではなくこのまま日本の大学に行こうと考え、最終的にここの大学に応募しました。

Risa 面白い経緯ですね!いきなり日本に行ったとなると、はじめは言葉に苦労されたのでは?

ウォレンさん まあ、そうですね、誰もが通る道といった感じで。
ロンドンの大都市から日本ののどかな地方にやってきたという環境の変化も大きかったですが、他にも海外からやってきたボランティアがいたので、あまり寂しくはなかったです。

もちろん初めは日本語ができないので、日本人と知り合うのは難しかったです。日本に着いたばかりの頃、路上でサラリーマンに「郵便局はどこですか?」って日本語で聞いたたら、くるっと回れ右して逃げ出られて(笑)

Risa (笑)

ウォレンさん 僕は18歳で、相手はスーツを着た大の大人ですよ?(笑)
まあそんなことは時々ありました、特に傷ついたりはしなかったですけど。

Risa なるほど……田舎だったから、外国人を見慣れてなかったんでしょうか?

ウォレンさん それが興味深いことに、僕が行った愛知県の街には、ブラジル人がたくさんいたんですよ

Risa !!

ウォレンさん 本当に驚きました。 一般的に日本は単一民族と言われる中で、僕はそれとは違ったバージョンの日本に出会ったので。

保育園では、ブラジル人の子供たちがたくさんいました。 その子たちとコミュニケーションをとるために、ブラジルの言葉をいくつか学ばないといけなかったんです。それだけでなく、南アジアや東南アジアの子供たちもいました。親が愛知県の工場などで働いていたんですね。日系ブラジル人を日本政府が雇用で受け入れていたから、おそらくそれでじゃないかと。

面白いと思いました。僕が最初に知った「日本」は、聞いていたよりはるかに多様でしたから。

Risa しょっぱなから想像もしていなかった日本に出会ったんですね。そういったサプライズも、ウォレンさんが日本に留まる理由になったのですか?

ウォレンさん ギャップ・イヤーの後日本に残ったのは、あくまで日本語の習得と日本文化にどっぷり浸かって学びたいと思ったのが主な理由でした。まずはICU(国際基督教大学)に行って、卒業後は(イギリスの)オックスフォード大学の修士課程で現代日本について二年間研究しました。
その後、仕事でまた日本に戻りました。

これだけ長く留まることになったのは、日本の歴史や文化、社会について学ぶのに多くの時間とエネルギーを注いできたからというのもありますし、気候や治安が素晴らしいというのもあります。日本はQuality of Life(生活の質)もとても高いですから。つまるところ、僕の仕事と研究も日本に関することだったので、長く留まったのは自然なことでした。

アイデンティティについて

Risa これまた過去のインタビュー記事を拝見して、面白いと思ったことなんですが、日本人はウォレンさんの出身地を言い当てるのに苦労するとか(笑)そういった方々にはご自身の出身地をどう説明されていますか?

私もそうなんですが、日本人って「イギリスといえばアフタヌーンティー」とか、そういったイメージしか持っていないと思うので(笑)

ウォレンさん そうですね、まあロンドン出身と言ってしまえば、もうそれ以上僕から説明することはあまりないんですよね。同じイギリスでも、もし違うところの出身であればもう少し説明する必要があると思います。
でも、たしかにイギリスに関して固定観念を持っている人は多いんですね。たとえば、「食べ物がまずい」とか。

イギリスのご飯はまずくない!?

Risa ああ、聞きますねえ(笑)

ウォレンさん そうなんです、日本でしょっちゅう言われます(笑)

でも個人的に、僕自身はあまりそう思ったことがないんですよ。定番のイギリス料理と言われるものはあまり食べてこなかったので。もちろん、フィッシュ・アンド・チップスは時々食べますが、ロンドンは多様性のある街で、けっこう世界中の本場の味を経験できるんです。調味料も手に入るし、レストランもある。

だから「イギリスの食べ物はひどいでしょ」と言われたら、「そんなことないよ」と説明するんです。日本人の多くが、多分そういうことを聞いたことがないと思うので。日本でよく知られるイギリスのイメージは、一面的な中流〜上流階級の白人英国人に関するものが多いと思うんですよ、実際のイギリスの多様性ではなくて。

Risa なるほど。ちなみに、ウォレンさんの大好きなイギリス料理は何でしょう?

ウォレンさん 僕のお気に入りはカリブ海風イングリッシュ・ブレックファスト(朝食)ですね。通常のイングリッシュ・ブレックファストは卵や豆、パンなんかが添えられているんですが、カリブ海風アレンジには揚げたプランテンを使うんです。

Risa プランテンとは?

ウォレンさん プランテンは調理用のバナナのような食べ物で、カリビアンフードの定番なので、僕たちはよくそれでイングリッシュ・ブレックファストを食べます。カリブ海以外にも、いろんなルーツを持つ人たちが、イギリス料理にそれぞれの故郷の味を組み合わせるんですね。

Risa それって東京でどこか出しているお店あります?(食い気味)

ウォレンさん プランテンなら輸入食材店においてるので、時々買いますよ。

Risa なるほど、家庭料理みたいなものなんですね。じゃあ都内のイングリッシュ・パブとか、そういうところでは食べられないんですね(笑)

ウォレンさん ないですね(笑)スタンダードなイングリッシュ・ブレックファストはとても素朴なんです。だから僕たちは、カリブ海風の材料や調味料でアレンジして食べるんですよ。

Risa (今度自分で作ろうかな!?)

「ウィンドラッシュ」とみんなの知らないイギリスの話

Risa さて、イギリスの多様性の話も出たところで、ここからウォレンさんのルーツについてお話を伺いたいと思います。

ご両親はイギリスへの移住者で、いわゆる「ウィンドラッシュ世代」に当たるとか。知らない方のために、「ウィンドラッシュ世代」について簡単にご説明いただけますか?できれば、ご家族こともぜひ知りたいです。

ウォレンさん もちろんです。
まず、私の父はカリブ海のトリニダード・トバゴ出身。父方の家族はカリブ海の他の島々出身です。第二次世界大戦後、英国政府が国の再建プロセスの一環として、かつての植民地――今で言う「イギリス連邦」――から移民労働者を連れて来よう、ということになりました。

カリブ海などの旧植民地の人々は、英国市民としてイギリスへ移住できるこの新法に大きな期待を膨らませていました。

ウィンドラッシュ船と呼ばれる有名な船があったのですが、それがジャマイカからやって来て、ジャマイカやトリニダード・トバゴからのたくさんの乗客を乗せ、ロンドンに連れて行きました。その特定の船の名前にちなんで、ウィンドラッシュ世代と呼ばれているのです。それが、戦後のイギリス連邦諸国からの移住の始まりでした。

私の父方の両親は60年代に英国に引っ越し、父もそれについていきました。カリブ海からやって来た人々の多くは、父のようにロンドンに移住したり、ロンドン南東部のルイシャム、ブリクストン、クラッパムといった場所にも定住しました。あの映画で有名なノッティングヒルにも

ノッティングヒルは今やロンドンで最も地価が高い場所の1つで、日本ではそういうイメージがないかもしれませんが多くのカリブ海の人々が引っ越してきた場所でもあるんです。カリブ海の文化を祝う「ノッティングヒルカーニバル」というお祭りが毎年夏に開催されるんですよ。

ノッティングヒルカーニバル (Photo by Glodi Miessi on Unsplash)

Risa (ロンドンでカリブ海文化のカーニバル、気になる…)

ウォレンさん 私の母は、ナイジェリア人とスイス系ドイツ人のミックス(ハーフ)です。これもまたおもしろいつながりなんです、なにせナイジェリアはイギリスの旧植民地だし、ドイツはかつてのイギリスの敵でしたから。

以前他の記事にも書いたのですが、私の家族はある意味、イギリスの歴史の縮図なんです。

イギリスとカリブ海、アフリカ、そして西ヨーロッパとのつながりの歴史。僕の家族のような一般人は、その中で何の決定権も持ち合わせていなかった。彼らはただ、より良い生活を送ろうとする中で、こうした歴史的なつながりを通して、イギリスへの道を見つけたのです。そうして僕も生まれた。そういう意味で、僕の存在はその物語を体現しているようなものなんです、あまり知られていないイギリスと世界との物語ですね。

Risa とても興味深いですね!イギリスと言えば、「ハリー・ポッター」や「ノッティングヒルの恋人」のような白人が主役の映画のイメージしか持っていなかったので、こういった歴史やエピソードはとても新鮮です。

故郷を思い出させるもの

Risa ウォレンさんは長らく日本に住んでいらっしゃいますが、何か故郷を思い出させるものはありますか?私は沖縄出身なのでやはり東京にいると、たまに聴く三線の音でとても懐かしくなったりするんです。イギリスに関することでも、ウォレンさんの地元に関することでも、何かそういうものがあれば。

ウォレンさん まず天気ですね、日本であまり天気が良くない時(笑)
今朝のように雨が降ったり寒かったりすると、イギリスを思い出します(笑)

文化的なことでいえば、サッカーです。男性に限ったことではないですが、男友達同士でパブに行くと、自然とサッカーの話で盛り上がります。

あとは、夏のイギリスの晴天ですね。とてもきれいに晴れた日には、みんなハッピーになって公園に行ったり音楽を流したりします。南カリフォルニアにいらっしゃったのであれば晴天なんていつものことだったと思いますが、イギリスでは違いますよ。すっごく珍しいんです(笑)

Risa すっごく(笑)

ウォレンさん そう、だからたまに晴れると、大事な思い出になりますし、みんな急にハッピーに。

Risa たまにしか晴れないからこそ、特別感がすごいんですね。

晴れた日のミレニアムブリッジ in ロンドン(Photo by Johan Mouchet on Unsplash)

ウォレンさん そうなんですよ。
みんな「やあ」と挨拶したりして、すごく優しくなる(笑)まあ、そういうちょっとしたことがイギリスを思い出させますね。

あと、特にイギリスで育ってきた中で経験してきた興味深い側面があります。「黒人であること」にも関係することなので、日本人には馴染みのない話かもしれませんが、少しお話しましょう。


後半に続きます!

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