象眠舎 Mirror 制作記 5 post production + Track Down
さて今回が最後、
ここからおおよそのミックスダウンに入りますが、この状態でもオケの出来は5割ほどです。
ここからも足らないところに音を足して行くし、余計なところは抜いていきます。
前の投稿に書いた通りメロディーを淡々としたことの弊害か、音楽が軽すぎてしまって、もう一つフックになるものを探してたところで、歌の隙間に歌詞をつける前に録ったサックスを入れて見たらどうだろうと思いつき、前に録音したサックスを合わせてみたところ、良い効果が生まれてきました。
上手く合いの手的に挿入するのもありなのですが、そこはひねりを加えて、どうせなら、わざとTenderくんの歌の邪魔をするようにホテルのBGMのようにサックスを聞かせてみようと思いついて、10テイク以上あるサックスから所々切って貼り合わせ、適度に歌を妨害しつつ、かつ歌を活かすようにテイクを繋げて、生のプレイとして不自然にならないよう何度も小西くんにチェックしてもらいながら作りました。
すると歌詞も聞こえるし音楽も流れて、メロディを淡々としたおかげでまるでセリフのようにも聞こえ、映画のワンシーンような雰囲気にも聞こえてきました。
しかし、今度は流れすぎで、歌詞がうまく心に入ってきません。なので、ここでいくつかのポイントでエッジを入れることにしました。それが最初のサビの真ん中に入って来る呪文のような歌の逆回転と、最後の繰り返しのサビ一つ目の終わりに、心の奥底からの感情をむせび泣くようなサウンドを声というか歌を編集し加工しました。
そしてミックスをしながら、最後の最後にここで細かい駆け上がりフレーズが欲しいと小西くんに頼んだところ、自分が予想もしないフレーズで作ってきました。それがエンディングのオルガンフレーズです。
自分としてはストリングスセクションみたいなものをリクエストしていたのですが、サウンドが特に良くて、それはまるでメリーゴーラウンドのバックグラウンドで流れるメロディのようでもあり、大リーグで聞こえるオルガンのようなフレーズにも聞こえたので、もらったファイルにアナログエフェクター、モジュレーションをかけてかなり揺らし、最初の小雨とリンクしつつ50年台のアメリカや移動遊園地を彷彿させるメランコリックさが出るように音を作りました。
これでかなり良い効果が出たと思います。
ラフミックスの時点でかなり良いところまで出来ていたのですが、ミックスに入ってもどんどん足していきブラッシュアップを繰り返し繰り返しなんとか作り上げました。7割くらい出来た時にかなり小西くんも気に入ってたようで、最初のミックスの時に「完成だー」と思ったようですが次々に新しいミックスファイルを送る度に「最初ので完成だと思ったし、もっと良くなるとは思えなかった、そんな状態が何度も続いた」と言ってました。
このように各作業にはかなりの時間が要するし、時間をかけた結果、全く使い物にならず失敗することも山ほどあります。しかし、作品をリスナーの元に届けるためにかなりの時間を要するのは当然で、これは画家の書いた作品、作家の小説、監督の作る映画と同様、音楽もそれらと何ら変わらないと思ってます。
特にポップスという大きなカテゴライズの音楽は、記録ではなく、スタジオで創作する作品で、ライブとは全く違うものと僕は考えているので、クラッシックの作曲家が譜面で時間を費やすように、録音する場で時間がかかるのは当然だと思ってます。サウンドとメロディ、リズムのコラボレーションが自分が行なっている仕事だと思っています。
ライブと同じようなものなら、ライブの方が音量は大きいし視覚的要素が大きいのでよく見えるし、そういうものが欲しいなら、画像がない時代ではないので音源だけ録る意味はないかもしれません。
時間をかけ、手間をかけて作る音楽、それが忘れらてしまっているかのように見えるドメスティックなマーケットにどんな反応が出るのかを楽しみに作りました。