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新しい失敗をしましょう。


「人間の脳みそは否定形を理解できない」

 どこかで聞いた事がある話ですよね。正直全くピンと来ませんが、調べたところどうやら本当みたいです。やってほしくない事を伝えるよりも、どうしてほしいか伝えた方が建設的なのだ!という意味として筆者はこれを受け止めています。ミスをただ悪かったと指摘しても当事者がミスを再認識するだけで、結局は改善に繋がりません。改善するにはどうしてほしいか具体的に伝える必要があります。

 これは自由度が高いサッカーのようなスポーツにおいても同様です。これは実際に見た光景ですが、パスミスした選手に「パスミスするなよ!」の声が飛びます。しかしその声を聞いた当事者はどうすれば良かったかがわからず、ミスを繰り返し最終的に萎縮して何も出来なくなるという状況に陥りました。この時、周囲はどうしてほしかったかを伝えるべきでした。パスをずらさないで欲しかった、違う人に出すべきだった、自分でドリブルしてほしかった…このようにどうして欲しかったか?を伝える事こそが建設的なコミュニケーションで、それはいつでも心がけるべきものでしょう。ま、指導者がこれをやるべきかは別として。
これを踏まえて、筆者が最近のザスパに思っていることは
「新しい失敗をしましょう。」です。

最大公約数を出さなければ。

ザスパクサツ群馬は資金力のないクラブです。在籍している選手はみんな真面目で努力ができる素晴らしい選手ではありますが、質の面でゼルビアやエスパルスの選手より劣っているのは事実でしょう。しかし今季のザスパがここまで素晴らしいシーズンを過ごしているのはチーム戦術の成熟だけが理由ではなく、選手の得意なもので勝負させる適材適所の選手起用ができていたからです。選手それぞれが抱える苦手を誤魔化し、それぞれの得意を輝かせ、チームとしての最大公約数を出すような素晴らしい起用法を実行できていました。しかし、ここに来て選手の苦手に直面させるような起用法が目立ってきており、これについては監督の大槻さんに責任があると考えています。特に2トップの起用については大きな改善の余地があります。具体的には平松と川本の起用法です。

川本梨誉

 まず、筆者の川本に対する評価を書きますが、今のザスパにおいて最も才能がある選手だと思っています。川本の武器は圧倒的なアスリート能力と前を向いた時に見せる攻撃性能です。ドリブルが上手く、目の前の相手を抜く能力は今のザスパで一番です。ボールタッチも柔らかく、キック力があるため前を向いた時の期待感があります。身体能力は走っている様子を見れば明らかです。加えて体勢が崩れてもボールコントロールし続けるなどバランス能力も抜群で、アスリート能力は本当に素晴らしい。これらの川本が持っている武器は後天的に身につけるのが難しい(少なくともプロ入り後に身につけるのは難しい)ものであり、才能と表現するに相応しいでしょう。

 一方で課題もあります。後ろを向いた時のプレー判断&精度、加えて前を向いたときの狭い視野と利己的なプレー判断、守備では持続できない集中力と大きく分けて3つです。特に後ろを向いたときのプレーの質は川本にとっては大きな課題です。ポストプレーなどの相手を背負うプレーが特に苦手で、背負ったら基本的にボールを失ってしまいます。シンプルに潰される事もあればパスがズレることもしばしば。相手をかわしてターンする技術も持っていないため、後ろを向けば向くほど悪さが見えます。一方で前を向けば良さが出るという極端さを持った選手だというのが筆者の川本への評価です。これらを踏まえると、川本の武器を輝かせるためには前を向きやすいポジションで起用すべきという事になります。では、最近の川本の起用法はどういったものだったでしょうか?

 みなさんご存じのように、川本はCFで起用されています。今のザスパのCFはビルドアップでは裏を取るために前を向くことがあるものの、前進に成功した後はボールを引き出すために後ろを向いてポストプレーに取り組みます。裏へ抜け出したとしてもサイドで起点を作り、味方の攻め上がりを待つために相手に背を向けてボールキープに取り組みます。要するに、まさに川本の苦手な相手を背負うプレーを求められるのがCFというわけです。苦手なプレーですからボールロストが多く、非常に悪目立ちしています。センター、つまり真ん中ですから相手DFが多くなかなか前は向けませんし、武器のドリブルはカウンターなど限られた場面でしか見られません。苦手な仕事をやらされ、得意な仕事をほとんど任されていないのが今の川本です。可哀想すぎるでしょ。

 では何故大槻さんは川本に不得意な仕事を任せているのか?考えられるのは川本を成長させたいからといった理由でしょうか。川本はまだ22歳の選手ですから、今後を見据えて不得意を克服させるためにこういった起用法をしていると考えるのが自然です(レンタルで加入している選手にそこまでする必要あるか?というのは置いといて)。裏へ抜けるときのスピードを求めている可能性もあるけれど。将来性という点でギリギリ理解できるのがこの起用法です。最大公約数だとは思いませんが、投資の意図があるなら理解出来ます。

平松宗

 筆者はTwitterでも何度か批判を繰り返しているのでご存じかと思いますが、最も起用法に問題があるのが平松宗だと思っています。まず、筆者の平松に対する評価ですが、今のザスパにおける等身大のCFだと思っています。平松の武器は体の大きさ、強さです。クロスに合わせる形でのゴールが得意なだけでなく、ポストプレーが上手い選手で、相手DFに背を向けながらのプレーが上手い典型的なCFです。守備への取り組みは決してサボらず、CFとしてはボール奪取力が高い印象があります。パスが来なくとも裏への走り出しを何度も繰り返す事から、生真面目な性格であることも伺えます。空中戦やポストプレーの成功率をもっと求めたいと筆者は考えていますが、資金力のない今のザスパにおいては等身大のCFでしょう。

 一方で課題は大きく分けて2つあります。スピードの無さと選択肢の少なさです。裏への走り出しををしてもパスが来ないと書きましたが、これは平松のスピードが足りないために相手DFを振り切ることができず、パスを躊躇させる状況になっているからです。いや出せないよ!というシーンは多い。また、前を向いたときの選択肢の少なさは明確に課題です。平松はドリブルで相手を抜く技術もスピードも持っていないため、前を向いたときにできるプレーは横パスだけ。前を向いたときに出せる武器が何もないのが平松の課題です。でもそういう選手じゃないから!というのも事実で、後ろを向くシーンとクロスに飛び込む迫力でチームに貢献してくれるのが平松だというのが筆者の評価になります。では最近の平松はどのような起用がされているでしょうか?

 みなさんご存じのように、最近の平松はトップ下で起用されています。現在のザスパにおけるトップ下は後ろを向いてビルドアップを助ける役割とゴール前で前を向いて違いを作る役割を任されています。ビルドアップを助ける役割はそれなりにこなしていますが、後者の役割は全くこなせていません。最終ラインがビルドアップを頑張り、前を向いた状態の平松にボールを出しても何もできずに杉本へのパスを繰り返すのみとなっています。相手DFも平松が何もできないとわかっているので、パスを出す前から杉本への接近を開始し、ボールが届く頃にはプレスをかけられ杉本も何もできない状況に陥ります。

 これは平松が悪いのでしょうか?確かに平松の技術は不足していますが、苦手なポジションで起用する大槻さんに責任があると筆者は考えています。今年31歳になる平松のこの起用法に投資的な意味があるとは思えず、全く理解できない起用が続けられています。右サイドのエド&佐藤からのクロスに飛び込む平松!という青写真を描いているのかもしれませんが、そういったシーンはなかなか見られず、ひたすらに平松の欠点が悪目立ちするだけとなっています。

新しい失敗をしましょう。

 筆者としては、これらの起用法というよりもこの起用法が何度も繰り返されていることに大きなストレスを感じています。長倉が移籍し、その穴埋めの最適解を探すために試験的に1~2試合こういった起用法を試すのはおかしなことだとは思いません。試験ですから、失敗だったねと受け入れて新しい起用法を探せば良いのです。しかし、昨日の長崎戦で平松のトップ下起用は4試合目です。もういいでしょう。上手くいかないとわかったことを何度も繰り返されるのは見ていて辛い。選手も苦手な仕事を任され続けて可哀想です。長倉が移籍してから流れの中でのゴールが0なのは偶然ではありません。

 平松はCFで起用するのが最適ですし、川本は大外レーンに経つSHとして右で起用するのが一番でしょう。利き足でボールを受けると自然に前を向く右サイドでなら川本の良さを存分に発揮できるはずです。守備で貢献出来るのは左SHをやったときに証明済みですから問題になりません。集中力は怖いけど。

 次節からは最適な並びを探すためにさまざまな起用法を試してほしいと心から願っています。開幕戦でやったように佐藤をトップ下起用する選択肢もありますし、杉本に任せてもいいかもしれません。北川も良い選択肢になるでしょう。テレビゲームではありませんから、そんな簡単にはいかないとわかっていますが、最適解、最大公約数を探すための試行錯誤をちゃんとやってほしいです。同じ失敗を繰り返すのではなく、新しい失敗をしましょう。

 ここまで本当に素晴らしいシーズンとなっています。プレーオフはご褒美のようなものなので置いておくとして、まずは勝ち点50を達成するために努力してほしいと思います。試行錯誤していきましょう。
強い気持ちで。



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