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櫻坂46「静寂の暴力」考察
静 寂 の 暴 力
櫻坂46、3期生の11人で披露された楽曲の2曲目。作詞:秋元康、作曲:辻村有記/伊藤賢。公開されてから1年以上経つけど、櫻坂46、ファン(buddies)、3期生にとって重要な曲。この感想を書くために今回noteに登録した。このページに辿り着いた人が、一言でも良いから、何か気にかけてくれたらと願っています。
それでは早速、MVの冒頭。女子高生が歩いているバックショットからスタート。ビニール傘を引きずりながら歩いている。
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傘を引きずっている事から、行きたくないけど歩いているような印象を受ける。学校に行きたくないのか、もしくは家に帰りたくないのか。この役は小島凪紗。
次のカット。こちらはビニール傘を差している、雨が降る夜。上下黒い服、大きなリュックを背負い、左手のビニール袋にはペットボトルの水500mlが3本入っている。
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自宅に帰る途中で水分補給なら2リットルを1本買えば済むような気がした。あえて500mlを3本、1日分ではなく2〜3日分の買い物なのだろうか。遊びに出かけるような服装や表情には見えない、しばらく家に帰らないつもりなんだろうか。この役はセンターの山下瞳月。
山下瞳月は高校三年生で進路を決める時期、将来やりたいことは見つかっておらず、大学に行ってバイトするところまでしか見えない。進路が決まっていく周囲から置いていかれるような焦りの中、なんとなく生活するぐらいなら、いっそ現実離れしたアイドルに挑戦してみようとオーディションを受けている。選考が進んで行くうちに、ここで落ちたら人生どうなるんだろうと不安になる。受かったとしても、その後の不安だって大きい。最終審査の前夜「明日行かない。もう帰る。辞退する」と母に告げる。しかし母からは「人生経験として行ってみたら」と言ってもらい、最終審査に向かう。結果45,000人応募のオーディションに合格。その後「明日から東京に行く」と、上京する事を母に伝えたのは前日の夜だったと。過去にも長い期間東京に行くことがあったので、その雰囲気を出しつつ、実は上京しますと寝る前に伝えたらしい。前夜に伝えた事には理由があり、悲しむとわかっていたから、伝えてから家を出るまでの時間を出来るだけ短くしたかったんだと。
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当日駅まで送ってもらい上京してから、彼女は1年半以上も実家に帰ってないらしい。なお、初ライブの際には、横浜の会場に既に到着している家族に「場内に入らないで欲しい」と連絡し、家族は娘の初ライブを観ないまま京都へ帰ったそうだ。京都にいた頃の現実の自分と、東京にいる理想の自分は別人のように違うらしく、やっている事も話す事も違いすぎて疲弊したとの本音を吐露していた。アイドルになった実感は湧いているが、急に不安になったり不思議な気持ちだと話されていた。あえて今は、まだ帰れないなと判断しているのだろうか。なんだか、このMVの冒頭、夜に家出するかのような演出、山下瞳月が上京した時の背景を照らし合わせているのではと感じられた。
そうなると、小島凪紗がビニール傘を引きずりながら歩く冒頭のシーン、本人の現実背景も取り入れているのか気になり、インタビューを探してみると、こんな記事を見かけた。
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中学3年生のとき、自分の意見を理解して貰えず落ち込んでしまい、不登校になりかけたと話している。自分が正しいと感じた事は貫き通す性格を持っているらしく、それが原因で先生とのすれ違いがあり、学校を休んでしまっていた。家で気持ちが沈んでいた時、プレイリストから流れた櫻坂46「Nobody’s fault」を聴いて励まされ、学校に行く事が出来たんだと感謝を言葉にしている。学校に行きたくない様子の女子高生は、小島凪紗の当時の気持ちを表現したのかもしれない。かなり憶測ですので、お手柔らかに。
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ここからMVは、3期生11人のダンスパート。目を閉じて両手で両耳を塞いだポーズから曲が始まる。練習着のような衣装、大量の汗をかいて髪を結んでいる。ドキュメンタリー動画を観た人は思い出すだろう。このセットと衣装は3期生がデビュー前に行われた4泊5日の合宿をイメージしているのではと。
ほとんどの人の衣装は白だが、的野美青、石森璃花、小島凪紗の3人だけが黄色を着ている。色が違う理由は…分からない。Xで見かけたポストで「ミーグリで本人に聞いたらランダムと言われた…」との呟きを見た。意味は無いのかもしれない。全員が白よりも3人黄色がいる事で立体感があり全体の見映えは良い。
ここからは歌詞を太字に。
静かすぎる時間は嫌い
呼吸さえもできなくて
星の降る夜
なぜ 人恋しいのか
呼吸さえ出来ないくらい深刻な一人の夜、焦燥感もあり、ちょっときつい言葉を選んでいると感じる。人恋しいと歌われていることから、一人になりたいタイミングではなく、自分以外の誰かをはっきり求めている事が示されている。
灯りを消した
部屋の天井は
心の声 聴いてくれる
あれこれ 弱音を思い浮かべても眠れないだけ
目を閉じて何を夢見ればいい?
本音である心の声は弱音を吐いてしまう。「何を夢みればいい?」明るい未来を想像出来ないでいる。ここも、きつい言葉で表現しているような印象を受ける。ここから1サビ。
静寂は一つの暴力だと思う
これ以上傷つけないで
し~んとした無限の空間
暗闇に吸い込まれるように 全て無になる
光を否定された
私のそばに誰かが(誰かが) あなたが(あなたが)
いてくれたなら
怖くない
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Aメロ冒頭で人恋しいと歌われ、サビでは誰かが、あなたが、いてくれたなら怖くないと言い切る。最初は「誰かが」と歌い、その後「あなたが」に歌い直している。誰でも良いわけじゃないと覚悟を決められたのは、なりふり構っていられない焦りと覚悟を感じる。若干切羽詰まったような印象も受ける。ここで歌われる「あなた」については、後にも触れておきたい。
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1サビ後の間奏、ダンスパートと同じ場所に複数の扉がセットされている。11人の動きが全員止まってしまい、最後に山下瞳月が自分で扉を閉めてしまう。扉が複数ある事から部屋は複数であり、皆が一緒にいるわけじゃなく、別々の部屋なのだろう。この後に出てくる歌詞を考えると、なんだが外出自粛で部屋に閉じこもり、11人の時間が止まっているかのように感じた。また、逆再生の映像で扉を閉めている事から、過去にさかのぼる回想シーンなのかもしれない。
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次のカットでは、谷口愛季、怒りを何処にぶつけたら良いのか分からず、家で1人テーブルを突き飛ばしてしまう。3期生それぞれ11人に様々な環境と過去がある。
街はもう眠ったか?
それとも もう死んだのか?
世界から ノイズが消え
誰も孤独になるよ
この世には自分以外の
何者かいて 騒いでるから
人の気配にホッとするんだ
一人じゃない そう信じたい
何にも 起きてない
時計の針がくるくると
虚しく回ってる気がするよ
ベッドにどんどん沈んで行くような
私の身体は錯覚して
唇が乾いてしまうくらい
無口な筋書き
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この曲を初めて聴いたとき、コロナ禍を感じたのも正直なところ。緊急事態宣言、外出自粛、マスク着用、会話禁止や黙食、3密回避、在宅勤務、電車はガラガラに空いていた。街は静まり雑音は消え、同時に孤独も深まった。ライブは無観客の配信が中心、観客が声を出せないライブも沢山あった。3期生の学生時代はコロナ直撃世代かもしれない。こんな世界になってしまい、自分の未来に何を夢みたら良いのか。冒頭のAメロやBメロの、きつめの言葉を選択されていたのは、この辺りの心情を汲み取った言葉を選択したのかもしれない。ここから2サビ。
静寂という名の音が存在する
それは確かに聴こえていた
ここの振付け、3小節半もの長い時間を11人の動きが止まり、ただ前を凝視している。
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これは動かないのではなく、動けなくなってしまう、立ち止まってしまったのではないだろうか。ここから本格的に静寂が訪れはじめる。
言いかけた言葉は終わる
「喋りたい願望を捨てて 沈黙を愛せるか?」
伝えたかった想いも言えないまま。それさえも受け入れて、このままで良いのか?。誰かの存在を確認して一人じゃないことを感じたいんだ、自分はここにいるんだ。その言葉を伝える事も叶わず、これを受け入れて沈黙を愛すべきなのか?。
想像をするのは当たり前の日常
妄想だって言われても
正解を答えられない
ここの振り付け、立ち止まっていた11人がいっせいに自らの左手で耳をふさぎ、次は右手で目をふさいでしまう。
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実はこの振付、1サビでも同様に左手で耳をふさぐけど、その左手を右手で掴み力強く振り払っていた。下記画像は1サビで左手を振り払う瞬間の振付。
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1サビでは静寂に抗い耳をふさぐ左手を振り払っていたのに、2サビでは振り落とす事さえ出来なくなってしまい、静寂に飲み込まれていくシーンと私は受け取っている。もう、何も聞こえない、何も見えない。絶望と諦めが押し寄せてくる。
「想像をするのは当たり前の日常、妄想だって言われても、正解を答えられない」
今までは当たり前だった日常に、また戻れるよね?って投げかけても、妄想だって否定され、代替えや正解を答えられないまま、どうなっていくのか誰もわからない。どうすれば良いのか答えられないまま、時間は残酷に良くも悪くも進んでいく。
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ブランケットを頭からかぶってしまおう
このまま愛情をもらえずに
夜が明けるまで 瞬きしないで
じっとしてよう
この曲を理解すればするほど、「瞬きしないで、じっとしてよう」のフレーズに胸が苦しくなる。ずっと誰かや貴方を求め、口が乾くほど発言を控えて、静寂、沈黙、闇に抗ってきたのに、ここではブランケットを頭から自分でかぶり、静寂に身を委ねてしまう。このまま朝まで何もせず、じっとしていようだなんて自虐的だ。静寂を受け入れて、動かない事を自分で選んでしまい、このまま世界は変えられないんだと諦めてしまったかのような締めくくり。
そしてドラマパートの方も同様。部屋のソファーに座っている谷口愛季が黒い影に飲み込まれていく。
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冒頭で傘を引きずり歩いていた小島凪紗。傘を差しているが、周りの人の傘は全部黒。小島凪紗の傘だけが透明で、黒い傘の群れに飲み込まれてしまう。
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次に出てくる村井優。何もない部屋、白い衣装で踊っていたのは、村井優がバレーをやっていた事を表現したのだろうか。この部屋では、黒い羽が舞い、後ろから複数の黒い手が忍び寄り、複数の黒い腕に覆われてしまう。
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ドラマパートの上記3人は、影や黒に飲み込まれしまう。
しかし、山下瞳月だけは違った。
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雨の中、目を閉じて路上に横たわっていた山下瞳月のシーンには、赤いドレスを纏ったダンサーが映り込む。ドレスが見切れた先には、さっきまで倒れていた山下瞳月が、雨に打たれながらも少し起き上がっていた。彼女だけは黒や影に飲み込まれなかった。
今思えば、小島凪紗、谷口愛季、村井優のシーンは昼間、山下瞳月だけ最初から夜だったのは、このシーンのためかもしれない。
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別の世界線と現実が交わったのは、このシーンだけ。そしていよいよラスサビ。
自分から叫びたいよ
泣いてもいい 声を枯らし
ここにいると知らせたい
黙ってたら気づかれない
愛しても忘れられる
ジタバタして 大声で
無視するのはやめて欲しい
待つだけじゃ息が詰まる
これまでのサビは11人が全員ユニゾンで歌っていたが、ラスサビは1人ずつ歌うように切り替えているのが素晴らしい。
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全員が床に倒れているところ、山下瞳月が立ち上がり「自分から叫びたいよ」聴くたびゾワっとする。黒い闇に飲まれ、結局世界は変えられない、正解は分からない、未来に夢を見れない。それでも、生活を変えることが出来るのは自分自身だけ、誰かに変えてもらえるわけじゃない。暗いと不平を言うよりも進んで灯をつけよう。誰にも頼れない、自分から動く。全員で歌わずに、1人づつ歌われていくところに、みんなそれぞれに別々の悩みと弱点と願いがあって、普段は言えない心の叫びが感じられる。いつでもどこでも最初は誰か一人が自分の意志と勇気で働きかけていくもの。その一人が、今日の自分からなんだ。
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そしてドラマパート、4人がドレスを纏い踊っている。雨に打たれていた山下瞳月のシーンに現れた赤いドレスのダンサー、その正体は未来の自分自身だろう。ダンスパートの11人は練習着のような衣装だけど、このドレス4人のシーンは、これからの3期生11人は先輩達のように、美しいドレスを纏いステージで歌い踊る、3期生の未来の姿なんだと、制作側が3期生に伝えたいプレゼントのようなシーンだと感じている。
だからあえて、あまり4人の顔がはっきり映らないカットを採用してるのではないか。ドレスを纏い踊るのは4人だけではない、3期生11人の未来の姿なのだから。
そしてラスト、下記のポエトリーで「静寂の暴力」は締めくくられる。
「どうしても考えてしまう」
「私から何を奪うつもり?
思考を停止させる、静寂は暴力だ」
「どうしても考えてしまう」。この「どうしても」とは、きっと自分は諦められないし、他人に否定されたとしても、一度は自分自身で辞めてしまおうかと悩んだ日も、それでもやっぱり考えてしまうぐらい、心が身体が求め叫んでいるのではないか。やりたいからやってみたんじゃない、やらずにいられないからやってるんだ。考えずにいられないから、どうしても考えてしまうんだ。そんな私に対して思考を停止させようとしてくる静寂、それはまるで暴力。もう私からは何も奪わせない、だってどうしても考えてしまうのだから。
最後に、さかのぼって1サビのラストの歌詞に触れておきたい。
暗闇に吸い込まれるように 全て無になる
光を否定された
私のそばに誰かが(誰かが) あなたが(あなたが)
いてくれたなら
怖くない
ここで歌われている「あなた」とは、櫻坂46を応援しているファン(buddies)の事だと思う。
あなたがそばにいてくれたなら怖くない。