見出し画像

60年分とそれから#1

「母」

  一番小さい頃の記憶というのは、なかなかに薄れているのでどんな子供だったのかを先に話そう。記憶というのは大事にしなくちゃならないよ。ほっとくとどっかに行くわけだからね。その癖恥ずかしい話に限って他人は覚えてることが多いんで、年越しには従兄弟に嫌なエピソードをひけらかされることがあるんだ。だから昔話はあんまり好きじゃないんだよ。記憶はしっかり留めておいて覚えのない辱めを受けないように話題をそらして行かないといけないんだ。でも今回は特別。あぁ話してるうちに思い出したら、いくつかエピソードを言ってみるよ。うちの母はまめにアルバムを作る人だったから、みたければ見てくれたら良いと思う。
 よし。まずは、僕はね。僕は友達と遊んでた記憶があまりないんだけどとにかく水遊びが好きだった。水たまりを見つけると走って行ってぐちゃぐちゃになるまで飛び跳ねてたな。なんでそれが好きだったのかは遠い記憶だし、今は服が濡れるだけで一日悲しい気持ちになってしまうようになったので理解できないけれどそうだった。でも小さい子供は水たまりとか雪とか、あと砂場とかさ。汚れるところが好きだろ?だから僕も例外じゃなかったんだよ。そういう点では普通の子供だったんじゃないかな。ボール遊びはやりたくてもできなかったし、家にいてもゲーム機は兄貴が全部占領していたし、とにかく外。そして公園には沢山人がいるから社宅の敷地内で遊び場を探すって感じだったよ。というより遊ぶこと自体、兄貴たちのサッカー観戦とか諸々でなかなか機会がなかったからね。だからこういう印象に残る記憶しかないな。あ、そうだね。だから今でもそうだけど遊ぶのが下手くそだったな。友達もいなかったと思う覚えてないから。それはそうだ。これ、人生においてすごく不利になるし大学やその先へ出て出来た仲間が幼馴染みの話や地元の仲間の話をしだすと無条件で自分は何にも無いさもしい人間だと思い知らされてしまうからとにかく勇気を持って公園に行かなきゃダメだ。あまり知られて無いけれど、あそこは小学校や幼稚園より先にある最初の自治体なんだからね。あそこで女の子とバトミントンができる男と男子だけでマックのテイクアウト競争ができる男は団地で友達のお母さんにモテる男だぞ。これは教訓。よし早速思い出したエピソードがあるんで言ってみようか?経緯は覚えてないから飛ばすけど兄貴に怪獣ステッカーを顔中に貼られたことがあるんだ。末っ子なんかそういった悪戯の的だからね。普通ならそれを嫌がって喧嘩なりに発展すると思うんだけど、僕はそうじゃなかった。いやそれどころか途中から自分で手にも足にも貼り出しちゃったんだよ。あ、店の売り物のシールを勝手にベタベタ貼り出しちゃって、母に買い取らせてしまったことがあったっけな。シールって面白いからしょうがないよ。開発した人が悪い。で、満遍なく張り切って満足して家の中を走り回ってたらパートから母が帰ってきてね。びっくりしてた。そりゃ家に百目みたいなのがいれば驚くよな!そうは思わない?なるほど。百目を知らないのか。全身に目がある妖怪で、、、いや、もしかしたら違う名前かも。頭に浮かんだだけなんだごめんね。でもそれで買い物袋を落としちゃったから卵が割れちゃってね?無茶苦茶怒られたな、僕だけ卵スープをコンソメスープにすることで責任を取らされたからね。いやいや、僕は元々やられた側だってのにね。要は、ごちゃごちゃになって訳が分からなくなるのを楽しく感じる子供だったと言えるかな。シールも水たまりも大好きだったなぁ、今とは大違い。言葉にするととっても変なやつだな、親も迷惑至極だね。今とそんなに変わってないか?そうか。俺はずっと変な奴だったんだ。
 お前鋭いこと言うよな。似てないよ。

いいなと思ったら応援しよう!