海の外来生物(SDGs14.2 その6)
干潟や藻場が広がれば、また魚がたくさんいる海に戻ってくれるかもしれません。魚が増えると嬉しいのは私たち人間ばかりじゃないかもしれません。例えば外来魚なども喜ぶモノの1つかもしれません。外来魚とは本来日本の海には住んでいないような魚のことです。でも、海には国境もないですし、柵もありません。海の外来種というのは定義がなかなか難しいところです。例えば北海道で生まれた鮭は8月~11月はロシアのオホーツク海で過ごします。その後真冬になるとちょっと温かい南へと下り、太平洋へ移り住みます。そして春になればロシアとアラスカの間のベーリング海へ北上し、寒くなれば南のアラスカ湾に下ります。このベーリング海とアラスカ湾を4年ほど行き来した鮭は産卵時期が近づくと自分の生まれた北海道の川へ戻ってくるのです。(※1)さて、この鮭はどこ産でしょう?アラスカ湾で脂がのった鮭を釣ったからと言って、それは日本のモノだとはいいがたいですよね。でも、このように魚は世界を股にかけて旅をするので、どれが外来種なのか難しいところです。
海は自由です。海にすむものは何も縛られることがなく、どこに住みついても構いません。そして、この世は弱肉強食。強いものが生き残り、弱いものが滅びてしまう。悲しいかな、それはどこの世界でも、どの時代でも起こっていることです。それは誰もがわかっているし、逆に強いものが現れるからこそ、自分の種族が滅びないように何とか進化したりするものです。こう聞くと、外来種というのは特に問題なさそうに聞こえますが、実は大問題なのです。
海の生物の中には世界中どこでも行けるような魚もいますが、浅瀬でなければ生きていけない魚や水温が安定しているところでしか生きていけない魚などもいるのです。そして日本は海に囲まれた国です。ほかの国と陸続きではないため、日本にしかいない魚も多いのです。世界15000種の海水魚のうち約3700種が日本近海に住んでいます。そのうち1900種類は日本固有の海水魚なのです。(※2)安全な環境で過ごしてきた魚たちは外海で種の存続をかけて戦ってきたような猛者どもに入られてきてはひとたまりもありません。でも、複雑な海流、四季によって変化にとんだ水温、複雑に入り組んだ入り江など、日本の魚は自然というバリアで守られてきたのでよっぽどのことがない限り生存権を脅かされることがない、そんな魚たちの楽園こそが日本の海なのです。
しかし、それが入ってくるはずのない外来種が入ってくる事態が起きています。しかも人間の都合で、人間の手によって持ち込まれています。例えば、外来種のペットを飼ったけど、飽きてしまって海に捨ててしまうなど意図的に外来種を海に放してしまうこともあります。でもそれ以上に問題なのが船によって運ばれてくる場合です。
船は世界中の荷物を運ぶために最も効率よく運ぶ運送手段です。日本も石油から鉄鉱石、大豆やトウモロコシなど、すべて船でやってきます。逆に日本で作られた工業部品や自動車なども船で世界中へ運んでいきます。日本の輸入品の99.6%は船でやってきています。逆に船がなければ日本は生きていけないほどです。この船は荷物を積んでいるときにスピードの効率が良くなるように設計されています。でも荷物を下ろした場合軽くなりすぎて船が浮いた状況になっちゃいます。そこでその国の海水を船にためて重くします。この船の重量を重くするための海水をバラスト水といいます。このバラスト水は、船がからになったらすぐに取り入れます。つまり、荷物を下ろしたら、すぐにその国にある海水を取り入れます。そして次の荷物がある国へと移動します。そして、荷物を積むときに、元いた国で積み込んだバラスト水をそのまま捨ててしまうのです。この時にその国には本来いないはずの種類の外来種が移り住んでしまうのです。
現在、日本の海水魚の絶滅危惧種は217種。海の生物に至っては443種が地球の歴史からいなくなろうとしています。その一部がこの世界を渡ってきた猛者である外来種によって絶滅させられようとしています。
図1、環境省 2017年3月21日 環境省版海洋生物レッドリストの公表について
https://www.env.go.jp/press/103813.html
その外来種の中でも特に生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼしたり、及ぼすおそれがあるとされる特定外来種の数156種類のうち、37種が海に関わる生物とされています。(※3)せっかく、藻場や干潟といった海の環境を良くしたとしても、日本の魚の生態系が崩れてしまうかもしれないのです。
※1、マルハニチロ サケの回遊ルート
https://www.maruha-nichiro.co.jp/salmon/jiten/jiten03.html
※2、環境省 海洋生物多様性保全戦略公式サイト 「海のめぐみって何だろう?」
http://www.env.go.jp/nature/biodic/kaiyo-hozen/favor/favor05.html
※3、環境省 日本の外来種対策 「特定外来生物等一覧」
http://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list.html
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