漁業の強制労働からの守り方(SDGs14.b その6~海の豊かさの守り方b-2)
漁業の強制労働がはびこる原因はその魚を買う人がいるということです。とくに漁業は様々な人がかかわっているので、どの段階で強制労働で獲られた魚がまぎれたのかわからないということも問題です。そうして出てきたのが水産エコラベルです。(※1)魚を枯渇させないように配慮して、国際ルールに基づいて獲られた魚で、間違いなく正規のルートで店頭に並んでいるとされる魚につくことが許されるラベルのことです。簡単に言うと出どころがはっきりしている血統書付き魚といったところです。この水産エコラベルが貼られた魚しか買わない世界になれば万事解決かというとそうでもありません。水産エコラベルの最大の弱点はコストが高くなるということです。広い海で様々な規則を守らせる至難の業です。魚を獲ってくる側もそれを認証する側も莫大なコストがかかってしまいます。必然的に水産エコラベルの貼られる魚は高くなってしまうのです。
とはいえ、水産エコラベルはそれだけで買う側にとって安心できる要素にはなります。次に思いつくのがそんな悪い奴は捕まえてしまえばいいという売る側の取り締まりです。これについても対策はされています。それがIUUブラックリストです。(※2)すでにIUU(違法・無報告・無規制)漁業を行っている水産会社はリスト化され、指名手配のようにその名前をさらされています。とはいえ悪い奴は悪い奴で、一度味をしめてしまうとそうそう抜け出せません。会社がマークされてしまうと名前を変えたり、自分が表に出ないように工作したり手を変え品を変え悪事を働てくるのです。そうしてIUUブラックリストが増えてしまえば、全世界の全漁港に周知させることは難しくなってしまうのです。
このようなことを考えるとふと1つの言葉が思い浮かびます。「悪が滅びることはない」という言葉です。よくゲームの大ボスが倒されるときに言う負け犬の遠吠え的な言葉ですが、意外と核をついているのかもしれない。たしかに一悪人は倒したかもしれないけど人間に住む悪、言い換えるなら人間の欲はとめどないのかもしれません。それでも「悪のはびこる世界はない」と信じたいものです。そんな英雄が今生まれようとしています。その名はスターリンク。テスラモーターズのイーロンマスクが宇宙開発を手掛けるでスペースX社が進めている計画で、2020年代中頃までに12000基の衛星を打ち上げるとしている。(※3)間もなく地球上のどこにいようともスマホがつながる時代がすぐそこに来ているのです。広すぎる海で誰も見ていないからこそできていた違法漁業や強制労働といった海の闇が丸わかりになるわけです。別にやましい漁をしていないのであれば、船を登録して漁に出かけても問題はないはずです。そうして登録のされていない船を違法とみなし24時間365日見張っていればいいわけです。とはいえ、これはそう簡単な話ではありません。漁師にとって秘密の漁場を知られることは企業秘密をばらしてしまうことにもなりかねないのです。自分で大切に育てていた漁場を他の漁師に荒されてしまう可能性があるわけです。監視社会の弊害、プライバシー問題にも発展してしまうのです。でも、今はそれどころじゃないのです。同じ海で働く者同士で足を引っ張っている場合じゃないのです。身内でもめ合っている間に、密漁者や悪徳水産業者が市場を崩し、自分たちの魚を枯渇させているのです。まずはこの悪事を止めることが先決です。おそれずさらけ出すことも必要なのかもしれません。そのためにもルールつくりがしっかりしていないといけません。それにつきましては次の章の「世界交通の海のルールを作る」でお話してきます。
このように様々な取り組みや先端技術を駆使して漁業の強制労働を駆逐する動きをみると心強く感じます。しかしこれは強制労働者の外側にいる人間が働きかける活動にしかすぎません。強制労働者自体も変わってもらわないといけません。強制労働者におちいるのは情報不足が原因です。騙されていることすら知らずに船に乗っていることが問題なのです。今までは国家ぐるみで強制労働の事実を隠してきました。そのために強制労働の実態がわかっていませんでした。特に移民は身を隠していることも多く、正しい情報が入ってこないことも多いのです。まずは漁業の強制労働がある事実を明るみに出して、世界中の隅々まで広める活動が必要です。オレオレ詐欺対策のように悪徳業者の手口を紹介して、どんどんメディアでも取り上げていくことが漁業の強制労働を撲滅させる最も有効な手段になるのかもしれません。
※1、海のイドバタ会議 無報告漁業からの守り方(SDGs14.4その7~海の豊かさの守り方4-2)水産エコラベル
https://note.com/theruleofoceans/n/n14994ff2e64a
※2、海のイドバタ会議 無規制漁業からの守り方(SDGs14.4その9~海の豊かさの守り方4-3)IUUブラックリスト
https://note.com/theruleofoceans/n/n2ecb935b3b15
※3、日経 XTECH KDDIとスペースXが宇宙通信で提携、au基地局のバックホールに
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01537/00191/