黒いダイヤと白いダイヤ(SDGs14.4 その4)
毎年話題のクロマグロの初セリ。2021年の落札価格は、1匹2084万円。この不況の風が吹きすさぶ日本に年明け早々景気のいい話となってくれました。日本の寿司ネタでマグロは不動の1位です。でも江戸時代には、猫でもまたいで通るほどまずいという「猫またぎ」と呼ばれるほど人気がなかった魚だったのです。当時はイワシやサンマと同じように油が乗った魚は毛嫌いされて、トロに至っては肥料に使ったり捨てられる存在でした。しかし、世界の食文化が入り乱れてきた今日では、味の濃い脂ののった魚が人気となり、大トロなんて言ったら今では一躍スター。寿司屋さんで大トロを連発するのは大金持ちと相場が決まっているほどです。そんな時代の価値観によって魚の値段は変わっていくものです。
日本ではマグロは大人気ですが、世界でもマグロ人気は絶大です。ツナ缶の原材料だったり、ハワイのポキ丼だったりあの手この手で世界中でマグロを食べるようになりました。その結果クロマグロが絶滅の危機に瀕してしまったのです。現在、世界中でマグロの漁獲を制限していおり、日本でも2021年6月1日、一般人がクロマグロを捕まえて取ってはいけないルールができたほどです。(※1)クロマグロの場合は動きも早く、船を出したり、それなりの漁法でなければ簡単に捕まえることはできない魚だったので規制はそれなりに効果を生みました。しかしこれが、だれでも手軽に取れて、しかもそれが高値で売れるようなものであればそうもいきません。
江戸時代、鎖国を強いられていた日本では中国の漢方や生糸を手に入れるために中国へ輸出を行っていました。海の民である日本にとっての最大の輸出品は海産物でした。寒天、昆布、鰹節など海のモノが多く、海が少ない中国では貴重なものでした。その中でも最も高価な輸出品がありました。俵物と呼ばれ、中身は干しアワビ、干しナマコ、フカヒレでした。言わずと知れた中華料理の高級な食材です。フカヒレはさておき、アワビやナマコなど日本中のどこにでもいる海産物です。ナマコと言えば、子供のころ地元の北海道で海に入るとにゅるっとナマコを踏んで「うわっ、ナマコ踏んだ」なんて気持ち悪がっていたものでした。でもこの気持ち悪いと言っていたナマコを干した干しナマコは、たっぷりのアミノ酸、滋養強壮があり、さらにはお肌をつるつるにするコラーゲンがたっぷり入った食材として、また肝炎や心筋梗塞などにも効くありがたい食材なのです。健康志向の強い中国人には人気が高いのも納得です。その人気は今でも高く、1㎏数十万円で取引されているのです。この高額な食材ということで黒いダイヤともよばれているのです。あの気持ち悪がられていたナマコがダイヤです。日本のいたるところにいてちょっと手を伸ばせば取れるナマコ。もちろん漁業法で規制がかけられてはいるものの、罰金を200万程度払えば済むので数十㎏取ってしまえば元が取れてしまうし、たとえ捕まったとしてもその間はナマコの育成期間として休暇としても使えます。ナマコの密輸は密漁の格好のモデルケースになってしまったのです。
アワビも同様です。学生のころバイトをしていた千葉の海では海を覗けばアワビなんて普通に見かける珍しいものでもありませんでした。しかしこれも干したものとなれば中華料理では高級食材で、現在でも高額で取引されいます。そしてアワビは日本でも高級な食べ物です。アワビの密漁は潜って勝手にとることもできますが、養殖しているかご網ごとごっそりとっていきます。各県で販売してよいアワビのサイズは決まっているのですが、9㎝以下のものは基本的に流通してはいけないことになっています。でもその事実を知らないで正規のルートで買ったからといって、小さいサイズのアワビを扱っているお店もあるのです。このアワビの密漁者に入る金額は200億にも及ぶと言われているのです。
土用の丑の日で有名なウナギも問題を抱えています。ウナギの稚魚にあたるシラスウナギは岸壁からちょろちょろと見つけることができるので、簡単にタモで救い上げることができます。しかも価格は1㎏数十万にも及びます。このシラスウナギも絶滅の危機に瀕していて、県の許可証がないと取ってはいけないことになっています。そのため白いダイヤと呼ばれて取引されています。このシラスウナギに関する大変なことは、池入れ(※2)から換算されるウナギの量と輸入によって入ってきたウナギの量を合わせても日本で消費している全然足りないという事実です。つまり密漁で入ってきたウナギが出回っているのか、または水揚げ(※3)しても国へ報告せずに売っている可能性があるということです。
世界の人口が70億人となっている現在。深刻になってきた食糧問題を解決するために、手つかずであった海に注目が集まっています。しかし海はみんなものだと知ったような権利を主張して、ルールも何も関係なく、好き勝手にとったり、異常に高く買いとったり、それを利用して高く売りつけたりする人が近年、世界中に増えているのです。この密漁関係で闇に流れている金額は2兆6800億円とも言われているのです。(※4)世界の海がやられたい放題にやられて、ぐちゃぐちゃにされているというのが現状です。そのしわ寄せは、今まで真面目にやってきた漁師さんたちにこそ降りかかっているのです。このように法律的には獲ってはいけない魚を獲ったり(違法、Illegal)、限度以上に魚を獲っているのにちょろまかしたり(無報告、Unreported)、許可も得ていないのに魚を獲ってしまったり(無規制、Unregulated)といったこのような行為をまとめてIUUと呼んでいます。このようなIUUを取り締まるには海はとてもでかすぎるのです。とはいえ、指をくわえて海や魚や漁師さんがボロボロになるのを待つわけにはいきません。このIUU問題こそ世界が一致団結して取り組まなくてはいけない問題なのです。
※1、水産庁 遊漁の部屋
遊漁(一般の釣り)として30㎏以上のクロマグロを釣り上げて、持ち帰ってはいけないというルール。生きたままリリースするのであれば問題なし。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/yugyo/y_kuromaguro/kyouryokuirai.html
※2、シラスウナギを売り物のウナギにするために養殖池に入れることを池入れと呼ぶ。
※3、漁師が販売目的で捕まえた魚の量のことを水揚げと呼ぶ。
※4、WWF 確かな管理、豊かな資源
https://www.wwf.or.jp/activities/data/20171227_ocean01.pdf
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