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星空の下【眠れぬ夜】vol.12
2006年になり、年明けには、大勢の出張者も戻ってきた。
彼を休憩室で見かけることも多くなってきた。
彼の周りには、いつも笑いが起こっていて、話の中心だった。
私は、ただ耳をすませて話を聞いていた。
彼の名前が、鹿島聡さんと知った。
3月のある日、製造部から棚卸しを頼まれた。
そこへ行くと、彼がいた。
私は、嬉しくて、作業の合間に彼とやり取りする幸せを感じていた。
それからは、喫煙室で話をすることも増えた。
出張になれば、彼を見かけなくなる。
彼が出勤するかどうかは、駐車場に車があるかで知るだけ。。。
それをドキドキしながら、見ていた。
【今日は逢えるかな?】と思いながら、、、
もう、彼に恋をしていた。
そして、彼に2年になる彼女がいることも知ってしまった。
【見ているだけで幸せだから】そう思いながら、
彼を見かけるのを楽しみにしていた。
私はまだ離婚が成立していなかった。
毎月、泣きながら大阪に調停に通っていた。
離婚していないのに、付き合うなんてないから。
そう自分に言い聞かせていた。
ある日、喫煙室で2人になった。
たわいもない話をしながら、賭けをした。
『もし、下浦さんが勝ったら何して欲しい?』と聞かれた。
『ヒットパレードクラブに踊りに連れて行って欲しい。』と私が伝えた。
鹿島さんは、
『貴女と行けるなら、負けてもいいな。』と、、、。
彼と話す度に鳴り止まぬ鼓動。
笑いながら、喋りながらも、高まっていく恋心。
抑えきれない気持ちは、ダイエットに向けた。
【綺麗になったら、奇跡が起きるかも?】
そんな期待をしながら、私は10キロのダイエットをした。
そして9月になり、彼も何度かの出張から戻ってきた。
いつもの様に、喫煙室で皆で話していた。
製造のN君が『〇〇会社の調整部のデータ資料いただきに行きます』と私に伝えてきた。
『はい。用意しておきますね』と、私。
すると彼が、『あ、それ俺がもらいに行くわ』と言ってきた。
『はい。準備します』と私は調整部に戻った。
デスクで資料を探し、印刷準備をしていた。
彼が、部屋に入って来た。
彼に『こちらでお待ちください』と後ろのデスクへ促した。
座ってこちらを見ながら待っている彼に、私は緊張しながらも、背を向けたま印刷を始めた。
「美人の後ろに座れるなんて。」と、彼が口にした。
自分に自信の無い私は、暫くの間、彼の言葉が理解できなかった。
意味を把握した瞬間、恥しくて「そんなことありません。」と言った。
私の表情は、彼には見えていない。
「美人だよ。もてるでしょう?好きな人いないの?」と聞いてきた。
【鹿島さんは、私の気持ちに気づいていて、からかっているんだ】と思った。
【彼女が居るのに、なぜ私にそんな事を言うのだろう?】
「居ますよ・・・。でも、好きなんて言えません。」
「素直になった方がいいよ。」と彼は言った。
私は素直になっていいの?
この恋は、叶わないと・・・。何ヶ月も、ただひたすら隠してきた。
いいの?私が想いを募らせているのは貴方なのよ・・・。
押さえていた感情が、溢れ出した。
それから一睡も眠れぬ夜が続いた。
彼への気持ちが、溢れだした。
日中、心臓の鼓動が早く、、、頭には血が上リ続けた。
鹿島さんにも、同僚にも私の気持ちが表情や態度で知られていると思った。
4日目に限界が来た。
身体がオーバヒートだと、自覚した。
同僚の女性に、気持ちを伝えた。
『え。気付かなかった!』と。
私は、かなりポーカーフェイスらしい。
『彼女がいるのも知っているから、気持ちだけ伝えようと思う』と伝えた。
そして、彼から促された1週間後。
その同僚の女性が、鹿島さんと4人で夕飯を食べに行く機会を作ってくれた。