ポゼスの遊山録~タイ⑤ 辛味邁進編~
前回からの続き
とにかくカレーを食わねばならぬ。
この旅の私の至上命題であった。
以前タイに訪れた時、いわゆるタイカレーを初めて食べた私はココナッツの甘さと唐辛子の爽やかな辛さが融合するカレーに魂を奪われた。世界にはこういうタイプのウマいカレーがあったのかと。
小学生から大人に至る過程で、母のカレー→ココイチ→ナン系インドカレー→居酒屋麻婆カリー→エスニックカレーと順調にカレー街道を進んできたつもりだったが、タイカレーを口にする機会がすっぽり無かった。
その時初めて食べたタイカレーに魂を奪われた私は「辛いがウマい。ウマいが辛い」と繰り返すロボットとなり、帰国後も昼飯時にはアジア料理屋に通い、タイカレーを食べ続けた。カルディで「ひひひ」と言いながらタイカレーの素を買い占めるという蛮行にも及んだ。
というわけで、兎にも角にもカレーである。私のグーグルマップにはあらかじめ調べておいたタイカレーがうまいらしい店のピンが林立している。昼前になってやっと開いた両替屋で、タイバーツを入手した私は速やかに「タイカレーの名店」を目指して歩き出した。
「タイカレー…いいね!」とマジ太は言った。
「え、タイカレーって辛いん? 俺食べれるかなぁ? どれくらい辛い? 甘口とかある?」とダイオキシンボーイが騒いだ。ダイオキシンボーイは甘いのもダメ、辛いのもダメというわがまま極まりない舌の持ち主である。奴の家には塩と醤油以外の調味料はない。
「大丈夫やろ」と私は笑顔で応じ、「大丈夫であろうとなかろうと俺たちはタイカレーを食うのだ」と宣言した。
シーロムという地区にはタニヤ通りと言う「ここはミナミの歓楽街か??」と思うような日本人向けのアヤしい通りがある。
ポゼスの男3人は「うーん、いかにも。いかにも。」と店先を眺めながらタニヤ通りを素通りして行った。昼前に開店しているのはアヤしくない店だけであり、男3人は惑わされることなくカレー屋へと邁進することができた。
街の街路樹も大いに南国だった。熱帯的ゲシゲシ状の葉が落とす木漏れ日の道はいかにもアジアの夏であった。私は買いたてのスマホ用ジンバル(手振れを軽減する器具)でダイオキシンボーイとマジ太の取り留めない会話を撮影しながら、タイの道を歩いた。(その時撮った動画はそのうちにダイオキシンボーイがオフショットムービーとして編集し、世に出すはずである。)
そうこうするうちに目指していたレストランに到着。
タイは物価が安い。100バーツ(350円ほど)も出せば立派な一品を食べることができる。旅行気分も相まって我々は気になったメニューをあれこれ注文した。もちろんカレーはかかせない。
「Friedって書いてあるから食べれそう」「唐辛子マークのやつはやめとけ」「タイの辛いのレベルは日本の50倍やぞ」などのざっくりした会話を交わしながら、私は見つけてしまった。
【Watermelon Shake】だ!!!
タイのスイカジュースは異常にウマいのだ。スイカと氷と砂糖?がシェイクされただけのものだが、それはもうみずみずしい甘さで一口飲むたびに幸せになれるのである。スイカが身体中に沁みていきわたり、自身もスイカシェイク化するのでは?!と思う。ヤバイ飲み物なのである。
「うっかりこいつの存在を忘れていた…ここで巡り合ったのもオミチビキだな」と私はニヤニヤつぶやいた。
まずはチャーンビールで乾杯。始まったばかりだが、タイ撮影旅行の前打ち上げだ。チャーンはタイの有名なビールで、軽くてさっぱり飲みやすい。オリオンビールもそうだが、南国のビールはみんな軽くて爽やかなのだろうか。ダイオキシンボーイは「どーんといこうや!!」と言って何ともなく嬉しそうだった。
そしてご馳走が運ばれてきた。「キィタアァーーー!」とマジ太が叫び(彼は実際このような大声をよく出す)、皿に手を付けた。
「ちょっと待ったー!!」と私も叫んだ。
「君たちこれでスプーンを拭きなさい」
そう言って差し出したのはアルコール入りウェットティッシュである。アジア観光ガイドでは、屋台で食事をする際、それで食器を拭くことが推奨されている。今、食事をしている店はなかなか綺麗なレストランだが、慣れぬ土地では念を入れるにこしたことはない。
「マウンテンはそういうところがあるからなぁ」と諦観したようにダイオキシンボーイが言った。
そう、私にはそういうところがあるのである。
潔癖とまではいかないが、気になるところにはやけに用心深くなってしまう所があるのだ。
それぞれが頼んだタイカレーやガパオライス状のご飯に加え、何かの魚を揚げたもの・パサパサの豆腐的のもの・タイ的のフライドチキンをガツガツと食べた。
エスニックな味付けが舌に新鮮でどれも美味しかった。「当たり」のレストランだった。しかも、これだけ食べても一人当たり500円もかからない。「さすがマウンテンが見つけてきただけあるわ」とマジ太が賛辞をくれた。私は私で本場のタイカレーを食べられた満足感に浸っていた。本当にどれも美味しい店だった。
3人は心から「あーうまかった」とつぶやき、ポン太郎は全員にビオフェルミンを飲ませた。
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Mt.Pontaro
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