
【舞台感想】真っ赤な嘘に染め上げろ/歌舞伎NEXT「朧の森に棲む鬼」
2月12日に博多座にて歌舞伎NEXT「朧の森に棲む鬼」を見てきました。
思っていた以上に新感線でした。
2007年版は見ていないんですが、この役は古田新太さんだな、高田聖子さんだな、粟根まことさんだろうな、と思ったり。
それに加えて、凄絶な立ち廻りや思わず見惚れてしまう所作、見得や六方、だんまり、人形振り、本水にさいごは宙乗りなど歌舞伎的演出が目白押しで、そこに大向こうもかかって、歌舞伎初心者の私には目を瞠る瞬間の連続でした。歌舞伎って凄いなあと感嘆しまくりでした。(一昨年見た「流白浪燦星(ルパン三世)」での愛之助さんのレクチャーがいまも歌舞伎を見る面白さをマシマシにしてくれています)
そしてやっぱり脚本に惚れ惚れしてしまうのは性かなぁ。
脚本も演出も演者もどこをとっても凄いなぁと感服しまくり。この打ちのめされるような満足感はなかなか味わえないなぁと大興奮、大満足の観劇体験でした。
歌舞伎って凄いエンタメだなぁと思いました。
松也さんのライ、幸四郎さんのサダミツの回だったのですが、ずっと幸四郎さんがいないなぁ・・と思っていて、さいごのさいごのカーテンコールでサダミツ登場時に背景の映像に幸四郎さんのお名前が出て、えええーっと驚きました。まんまとしてやられていました。
幸四郎さんがライをつとめる大千穐楽のライブ配信は平日だけれど見逃し配信もあるということなので購入しました。どんなライなのか楽しみです。
(けっきょく24日の松也さんのライブ配信も購入してしまって・・まんまとカモです・・)
松也さんのライは迫力が凄かったです。本当に剣に操られているように見えました。どういう体幹をしているんだろう・・。
口先では迎合しながら相手に顔が見えない向きで別の思惑がある表情を見せるのは「リチャード3世」ぽいなぁと思いました。
となると冒頭の3人の魔物(オボロ)に「王になる者」と言われるところが「マクベス」をリスペクトしているのかな。
歌舞伎以外の演劇にも挑戦してきた松也さんがいま、歌舞伎に誇りと充実感をもってこの舞台に立っている、そんな印象を受けました。
松也さんのライと尾上右近さんのキンタとの掛け合いもとても面白くて、シュテンの血人形の契りの意味がわかったときのライに僅かに動揺があったように見えたのは、端からシュテンと義兄弟の契りなどかわすつもりもなくて代わりにキンタの血をつかったことでキンタの命を危うくしたことを悟ってなのかな?
どんな相手も利用するし平然と騙し裏切ることもなんとも思っていないライだけど、ちょっとだけキンタに「あはれ」を感じているのかなぁと思いました。その本人さえ意識していないちょっとした「あはれ」が最終的に自滅につながるのがまたあはれでこの筋書きの痺れるところだなぁと思いました。
松也さんライと右近さんキンタの関係性がとても刺さったので、幸四郎さんのライとキンタではどうなるのだろうと興味がわいています。
時蔵さん演じるツナと坂東彌十郎さんのオオキミも好きだなぁと思いました。
時蔵さんのツナは女性性をほぼ封印した凛々しく美しい女性であるところがガツンと心を奪われました。すっとしたストイックな武人で女性で懊悩しがち。(まんまオスカルだな)それを女方が演じているところ。
(これまでもお嬢吉三や富姫や凜とした女方に心奪われていたから、ツナに惹かれるのは道理なのかな・・?)
オオキミは花道から登場のときから愛らしくて心掴まれました。「3人しかいないけど」もチャーミング。
玉座に上るため身を翻して打ちかけた着物を払う所作とタイミングがシキブともピタリと一緒で見惚れていました。
コミカルかと思いきやするっと様式美を決めるなど油断できない感じにぎゅっと心掴まれました。
坂東新悟さんが演じたシキブはじっさいに近くにいたら苦手なタイプだと思うのだけど、内に秘めたかなしみのようなものも感じて憎めない人だなぁと思いました。
そのかなしみというのは、ツナが感情を抑えているけれど心に嘘はないのとは対照的に、シキブは感情豊かに見せながら実は本心を隠して生きているからかなぁと思いました。そういうすごく女性ゆえな有り様にリアリティを感じてかなしくて憎めなかったのかなぁ。
観劇中のほぼどの瞬間も感動していてとても忙しかったです。演者のパフォーマンスにセリフに展開に。登場人物たちの名前にも。これってこういうこと? これってどういうこと? これって・・と。述べだすときりがないくらいに。とても面白かったです。
2月24日(松也さんライ千秋楽)と25日千穐楽(幸四郎さんライ)のライブ配信も購入したので、観劇中にこれは?あれは?と思っていたことを検証したり、ライが変わることでどうなるのかとか、また自分が何をどう思うのかとか、楽しみにしたいと思います。