昔が嘘のよう!「噂」と「ホテル・カリフォルニア」。今日の評価でここまで差がついた6つの理由
どうも。
2月4日は
フリートウッド・マックの金字塔的名盤「噂」。これが発表されてちょうど46年が経過したことになります。1977年2月4日が発売日でした。
このアルバムは1977年から78年にかけて、当時のビルボード・アルバム・チャートの記録になります31週の1位を記録しました。これはマイケル・ジャクソンの「スリラー」に抜かれるまで最長記録でした。
このアルバムは1977年4月2日付で1位になると、そこから2週1位になるんですが、そこから抜いて1位になったのが
イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」でした。実は「噂」はこれを抜いて1位になっていたんですが、このアルバムは77年に入って、1/15、2/5、3/26と1位で、4/16〜5/14まで5週連続で1位。計8週1位となります。
ところが「噂」は5/21に1位に返り咲くと、そこから8週連続1位。7/16にバリー・マニロウのライヴ・アルバムに1週抜かれますが、そこから実に19週連続1位。その後、リンダ・ロンシュタットの「夢はひとつだけ」に4週1位を譲りますが、翌78年の1/7、1/14に2週連続1位を追加。1/21に「サタディ・ナイト・フィーバー」のサントラに抜かれるまで31週の1位となりました。
という風に、「噂」と「ホテル・カリフォルニア」、この当時、チャート上のライバルで共に名盤扱いされていました。
ただ、日本だと、イメージとして「ホテル・カリフォルニア圧勝!」のイメージ、ありません?特に上の世代の方々と、その言い伝えによる名盤選の世界では。
ところがですよ。最近、そんな日本での常識は通じません。
この2枚、ここ数年、海外の評価にえらく差がついてしまってます!
このことを今回、色々語っていこうかと思ってます。
まず、ここのところのオールタイム名盤リスト。この2枚が最近どういう評価なのか。ちょっと見てみましょう。ホテル・カリフォルニアは HCと表記します。
ローリング・ストーン(2020) 噂7位 HC118位
コンセクエンス(2022) 噂2位 HC100位圏外
NME (2013) 噂51位 HC100位圏外
ピッチフォーク70年代アルバム 噂41位 HC100位圏外
差がすごいでしょ!えらく広がってると思いません?
これ、実はオールタイムだけじゃないんですよね。今週のチャートでも同じなんです!
なぜなら「噂」、今、英米でかなり上位に入ってるんですよ。最新のチャートでビルボードは25位、イギリスのオフィシャル・チャートで26位。「ホテル・カリフォルニア」は影も形もありません。
すごいでしょ?「いつの間に、こんなことに!」と驚いていらっしゃる方もいると思います。
今回、ここまで差が開いた要因を僕なりに分析しようかと思います。
①そもそも、1977年当時の日本が、この2枚を誤解して解釈していた
これはまぎれもない事実だと思ってます。
この当時の日本、やたらウェストコースト好きだったんですよね。これは、この前年1976年に雑誌ポパイがウェストコースト・ファッションを流行らせたことが大きいです。
このファッションに合う音楽として、日本はこの当時のアメリカ西海岸の音楽を付随して紹介させていた側面があったんですね。そのほとんどが、昨今、「ヨットロック」とそれからアメリカ本国で「ソフトロック(日本での60年代サイケデリック・ポップを指すソフトロックはアメリカではサンシャイン・ポップ)」と呼ばれるものなんですが、日本ではこれを「ロックが大人になった形」としてアダルト・オリエンテッド・ロック(AOR)という造語で広めます。
イーグルスがAORか否かは人によって解釈は違うし議論の余地はあるかと思いますが、要は「西海岸ロックの大カリスマ」的な存在であったことは事実だったと思います。
それがゆえなのか、ひとつ日本特有な現象も現れてしまいます。それは「ホテル・カリフォルニア」の一節「スピリットは1969年から切れている」というのがあるんですけど、これを「パンクロックへの返答、もしくは共感」と解釈する向きがあることですね。これはむしろ逆で、彼ら自身の属するベイビーブーマーに向けての「イノセンスの喪失」を歌ったものですね。ウッドストックに象徴される1969年の政治、社会に対しての一つの文化闘争の盛り上がりの終焉の悲しみを歌ったものなんですね。そういうこともあって、むしろ言ってることが旧世代的で新世代に新しいものを促すとか、そういうものとは言い難いんですよね。
だから、欧米圏だと、パンクと結びつけて語られることなど、ありません。欧米圏からはそういう話は少なくとも聞いたことないです。
逆にフリートウッド・マックの場合は、この大ヒットした時代の前に、ブルース・ロック・バンドだったんですよね。1967年から69年頃まで。メンバーも2人以外は全然違ってて。で、その時期に日本で多少人気があってファンもついてたんですね。そういう人たちが「あいつらは魂を売ってポップバンドになった」という言い方をして、商業主義の権化であるかのように批判したりしたんですよね。これに関しては、どうなんでしょう。売れすぎたから欧米圏でも一部あったりしたのかもしれませんが、今ではほとんど聞かない話です。
いずれにせよ、日本だと解釈に大きな誤解があって、それが今のこの2作の認識のずれにつながっているところがあるのは否定できないとこかなと思います。
②「女性最初のアリーナ・スター」がアメリカでは大きい
あと、アメリカでフリートウッド・マックがとりわけ支持される理由に、「アリーナロックの時代に最初に人気になった女性アイコンだから」というのがあります。
それが
このスティーヴィー・ニックスとクリスティン・マクヴィーのコンビですね。とりわけスティーヴィーの人気はアメリカでは絶大です。僕も2009年にアメリカでフリートウッド・マックのライブ、行ってるんですけど、会場がブロンドのロングヘアのおばさまでいっぱいだったんですよ!おばさまがコスプレして大挙会場に行くような感じなんですよね。あれ見て、いかにあの世代の女性たちにとって、この2人が特別な存在なのか、わかりましたもの。
そして、それはベイビーブーマー、1940〜50年代生まれの世代に限ったことではありません。グランジ世代の象徴、カート・コベイン夫人のコートニー・ラヴ、彼女が熱烈なスティービー・ニックス・ファンとして有名です。ホールの時代に「噂」のラストの曲の「Gold Dust Woman」をカバーしたことでもそれは明らかです。あと1997年にマックがMTVアンプラグドで「噂」の編成で再集結した際、見に行こうとしてスタジオ入れなくて騒いだという話もあります。
コートニーの世代だと「噂」がちょうど、彼女がティーンになるかならないかの時期で、それこそスティーヴィーが大きな女性アイコンとして見える絶頂期だったような気もしますね。
無理もありません。世が世ならジャニス・ジョプリンがそのポジションになれるはずだったのに、彼女はアリーナの時代の前に世を去ってしまった。ジェファーソン・エアプレインのグレース・スリックもその時代の前にバンドが失速してしまった。あと、ジョニ・ミッチェル以降のシンガーソングライターに関してはやっぱ基本がフォークですから大きな会場向きではない。むしろカーリー・サイモン、リンダ・ロンシュタットあたりはステージフライト(舞台恐怖症)で有名で積極的にライブをやってなかった。そんな中で
いつも、こうしたでかいショールを羽織って華麗に歌い踊るスティーヴィーに、「女性唯一のアリーナ・スター」を見て夢中になる人が多かったんです。
日本の場合は、そこも伝わってなかった気がします。日本だと、イギリスのグラムロック・スターだったスージー・クアトロが先にブレイクもしてたから、「女性ロックスター」といった場合にスージーの方をあげる人が多かったようなんですね。皮肉にもスージーがアメリカではあまり売れてなかった。このあたりもズレを生んだ原因だったかもしれません。
そして、昨今のマイノリティの権利の主張の時代と共に、当然、「ロックの女性のパイオニア」としてスティーヴィーの名はあげられます。こういう評価は、「噂」と同時期に出てきた女性ハードロック・バンドのハートとか、当時はアメリカでは過小評価されたものの、「女性パンクのオリジネーター」としてランナウェイズが再評価されるのも似たような傾向です。
そしてスティーヴィーはここ最近でも、ソロでフェスのヘッドライナーに選ばれることもしばしば。こういうことが、イーグルスのメンバーには起きていません。ドン・ヘンリーがフェスのヘッドライナーなんて話、聞かないですしね。
③「噂」の収録曲の特大リバイバル
あと「噂」の中の曲がすごくリバイバルしやすいんですよね。
たとえば
「チェインズ」は2017年の映画「ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー2」のクライマックスで流れて再注目されていいます。
それから
tik tokからのヒット曲が話題になった頃、2020年ですね。このおじさんの動画がバカ当たりしたことで再ヒット。この影響で「噂」が全米トップ10にまで入ってしまって、以降、ロングヒットが続いている状態になっています。
そういう影響もあって、Spotifyのストリーミング数で見ても「噂」は6曲が1億再生超えてるんですけど、「ホテル・カリフォルニア」、それが3曲なんですよね。3曲でも立派ではあるんですけど、「噂」はそれ以上ということですね。
④トリビュートのされ方の違い
あと、マックとイーグルスのトリビュート盤の違いの印象もこれ、ありますね。
フリートウッド・マックには2012年に出たこのトリビュート盤が有名ですけど、MGMT、HAIM、テイム・インパーラと、インディ・ロック主体の内容があの当時注目されていました。
このほかにも、ヴァンパイア・ウィークエンドも近い時期にカバーやってたし、最近でもThe 1975の「Im In Love With You」は、「タンゴ・イン・ザ・ナイト」の中の「Everywhere」という曲の・・かなりそのまんまです(笑)。
それ以前にも
90年代にも、さっき言ったホールもそうだし、スマッシング・パンプキンズもカバーしてたりして。僕はマック、80sのリアルタイムから好きでしたけど、「あっ、オルタナ以降でもアリなんだな」と思ったのはこのときでしたからね。
一方、イーグルスはというと
1993年に有名なトリビュート出てますけど、これがカントリーのアーティストによるカバーだった。さっきのマックのインディ・ロック主体に比べるとだいぶ印象違いますよね。
もっともHAIMはイーグルスのカバーもやってるんですけど、それ以外でインディからほとんど聞かないんですよね。
それもあったからなのか、イーグルス、2007年の「Long road Out Of Eden」というアルバムの際にかなり大規模なカントリー寄りのマーケッティングしてますね。たしかターゲットだったかな、百貨店での独占販売だったはずですが、彼らのアルバムではじめてビルボードのカントリー・アルバム・チャートで1位を獲得しています。
⑤ポップ・カルチャーでダサい印象を残してしまった
あとイーグルスにとっては、バンドのイメージとしてダメージになることが大きく2つあったんですよね。
コーエン兄弟1998年の映画「ビッグ・リボウスキ」で、ジェフ・ブリッジズ扮する主人公デュードが「俺、イーグルス大嫌いなんだ」と言って、黒人のタクシー運転手から車から下されるシーン。これ、はからずもポップ・カルチャーで有名なフレーズになってしまったんですよね。
あと
2016年にデヴィッド・ボウイとグレン・フライがかなり近い時期に亡くなったとき、これ、大問題になったんですけど、ボウイのファンがグレンのファンと口論することが頻繁に起きたんですよ。僕、このときはfacebookオンリーのユーザーで、音楽サイトのフォーラム良く覗いてたんですがボウイファンが「亡くなったのは残念だが、イーグルスなんてボウイに比べれば・・」みたいなことをものすごくやらかしちゃったんですよね。
あれはさすがに僕も行き過ぎだと思いましたけどね。人の死に際しては絶対やっちゃいけないことです。
ただ、これが割と報じられてしまったことで、現在のアーティスト・イメージが図らずも知られてしまったことは皮肉ですけど、ちょっと否めない感じはありましたね。
⑥マックが再評価されやすく、イーグルスが再評価されにくい音楽的理由
あとは、結局のところ、これなんだと思いますけど、今日なぜフリートウッド・マックが評価が高く、イーグルスのそれが上がらないのか、そこを分析したいと思います。
マックの場合は、「女性フロントのアイコン」としてのスティーヴィー・ニックスというものがありますが、それに加えて、
トリビュートなどで好まれるのはむしろクリスティン・マクヴィーの曲の方だし
あとリンジー・バッキンガムのギターや楽曲アレンジがニュー・ウェイヴ以降のリスナーとかなり相性がいいんですね。彼らがオルタナやインディのリスナーから嫌われない理由はそういうところにあります。
一方のイーグルスなんですが、どうでしょう。「カントリーっぽいから?」。それも一部はあるとは思いますが、それ言ったら今のウィルコとかライアン・アダムスみたいなアメリカーナのアーティストいるので、そこは理由になりにくいと思います。
僕はむしろ
https://www.youtube.com/watch?v=y-gu9BgMTyQ
ロサンゼルスの先輩のバーズやバッファロー・スプリングフィールドに比べると、なんか、僕個人がですよ、物足りない感じがするんですよねえ。
この2つのバンドに関していうと、サウンドの多様性が「実験的」に聞こえるんですけど、イーグルスのはそう聞こえない。これ、何が問題かというと、変に器用なんですよ。サウンドが洗練されすぎて、かつ、なんでもうまくこなしすぎてしまうがゆえに実験してるようには全く聞こえず。エンターティナーっぽいんですよね。なんか、ブルース・リーとジャッキー・チェンくらいの違いがあるというか。音楽的にいうならば、はっぴいえんどとサザンオールスターズの違いですね。
中でもこの人が典型でしたけどね。ソロ作だと「俺はなんでもやれちゃう」感がさらにアップというか。その点、フィル・コリンズみたいなんですけどね。フィルが再評価されにくいのも、こうしたとこだと思ってます。
・・といったところでしょうか。
もちろん、再評価というのはどういう形で飛び込んでくるかはわかりません。だから将来的にまた評価が動くこともありえるとは思います。だけど、それがすぐに起こるとは思えないですね。
」