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年間ベスト・アルバム最有力候補 ビッグ・シーフ「U.F.O.F」   二世代下のアメリカからのレディオヘッドへの返答

どうも。

では、こないだのヴァンパイア・ウィークエンドと同じ週に出た、「令和最初の名盤」にして、現時点での僕の2019年の年間ベストの最有力候補のこのアルバムを紹介しましょう!

ニューヨークを拠点とする4人組、ビッグ・シーフのアルバム「U.F.O.F」、もう、これですね!もう、出てから何回も繰り返して聴いてます。

まずは、これから聞いてください。

この曲が2月か3月に先行で出た時に「レディオヘッドみたいだ!」と騒ぐ人が結構いました。僕もその一人なんですけど(笑)。ビッグ・シーフがレディオヘッドみたいだということは

2017年に出た、このセカンド・アルバム「Capacity」の時に。僕、既に指摘してるんですよね。

http://themainstream.jugem.jp/?day=20171214

この上のリンクに、あの年の年間ベストの19位にこれを選んでいるんですが、そこに「演奏のタイトさとリズム感覚を聞いていると、「イン・レインボウズ」以降のレディオヘッドの要素も感じたり」と書いています。

このバンド、そもそも何がレディオヘッドに近いと思ったかというと、まずはスネアドラムでした。この音処理の感じが「In Rainbows」の頃のレディオヘッドに近いなという印象でした。

この、非常に生々しいパスパスいう感じのスネア。スネアの皮の振動をヴィヴィッドに感じさせるアレンジ。これがソックリだなと思ったのが最初です。この時は「面白いところに目をつけたなあ」という感じだったんですよね。

そうしてたら

このバンドのフロント・ウーマン、全作詞作曲を出がけるアドリアンヌ・レンカーが昨年「Abysskiss」というソロ・アルバムを出したんですけど、この時点から一部で「レディオヘッドに似てる」という言われ方を頻繁にされ始めます。実はこれともう1曲、それが今回の「U.F.O.F」に再レコーディングされて収録もされているんですが、この、メランコリックで、ちょっとアイルランドあたりの伝承音楽からの影響を感じさせるギターのアルペジオのフレーズ。そして、さらにやや不明瞭な歌い方。おそらく、このあたりのことを指しての指摘だったのではないかと思われます。

これなんかに特に顕著な感じですね。あと「All I Need」とか、それと、アルバムでいうと「アムニージアック」ですね。あの中の「Knives Out」とか「You And Whose Army?」とか、あのあたりの曲から顕著になる傾向ですね。

レディオヘッドって、エレクトロというか、IDMというか、その路線で「未来に対して先進的」なイメージが一般的に強いと思うんですけど、その一方で、こと、トム・ヨークが弾き語る歌に関しては逆にプリミティヴな、太古の昔に戻るというか。さっきも言ったような伝承音楽としてのフォークとか、さらにはブルーズにまでに共振する次元にまで達しますからね。そのコントラストこそが、ある時期以降のこのバンドの奥深いところであり、フォークの観点からそれを見つけたビッグ・シーフってすごいな、と思うようになってきていました。新しいとこだけじゃなく、実はトラディショナルな音楽に対してまで革新的アプローチができるということをね。その矢先の、「U.F.O.F」だったわけです。

ただ、今回のアルバム、すごいなと思ったのは「”レディオヘッドのフォークロック解釈”で終わってないところ」なんですね!それは冒頭に挙げた「U.F.O.F」のタイトル曲で挿入される、アンビエントでサイケデリックな揺らぎ。あれなんかも「OKコンピューター」とか、一番新しいアルバムの中の「Daydreaming」あたりを意識したような感じ(してないとは言わせない、笑!)なんですけど、この手法は他のいい曲にも使われてまして

これなんか、もっとストレート・アヘッドなフォーク・ロックに聞こえるんですけど、途中からテクノロジカルにサイケデリックになっていきます。

このあたりのモダン・サイケデリックな路線って、前作までにはなかったんですよ

で、そうかと思ったら

アルバムのラストに近いところでは、初期の轟音ギター路線ですよ。これがまたダイナミックなスケール感があってね。実はこれ、2015年のデビュー・アルバムにはかなり目立っていた路線でもあったりして。こういう曲も、今回のアルバムでは2曲あります。

つまりはですね

レディオヘッドの初期にも、中期にも、後期にも、全部似てます!

これ、すごいことですよ。レディオヘッドって真似しようと思っても、「技術的に難しいから」と避けてきたところじゃないですか。「似てる」といったところでそれはMUSEとか、初期のトム・ヨークの歌い方とかギター・ロックのフレーズに似せたとか、バラードでのコールドプレイとか、そういう感じだったじゃないですか。そこに対して、「中、後期が似てる」バンドなんて初めて聞いたし、ましてや「キャリア全時期に似てるなんてどうやったらできるの??」という、そのことにとにかく驚いてしまいましたね。

しかし!

それ以上にすごいのは

偉大なレジェンドを彷彿させながらも、しっかり独自性が感じられることです!

そこが一番すごいんですよね。ひとえにそれは

アドリアンヌ・レンカーのカリスマ性。これがひとえに圧倒的なんですよね。この人、パッと見は地味で、この写真みたいに坊主にした方がキャラ的にむしろいい(2ndの時にこれだったんですが、つい最近これに戻ってます)くらいだったりもするんですけど、か細く、ささやくような声で、内省や寂寥感を類まれなメロディ・センスで歌う。ただ、それだけで、レディオヘッドに似ていようがいまいが関係なく、すでに惹きつける力があるんですよね。

そして歌に関しても

こういう繊細な消え入りそうなタッチなものから

1オクターヴ落としたような、別キャラクターを使ったかのような表現まで可能と、シンガーとしてもかなり器用です。一部、「ケイト・ブッシュにも似てる」と言われてますけど、そういう歌い方も実際、よく見られますね。

それから

このギタリストのバック・ミークという人。どうやら、この人もかなりの才人のようです。ビッグ・シーフはもともと彼がアドリアンヌとデュオとして始めたものだったんですね。ビッグ・シーフでは、アドリアンヌが全部曲を書くんですけど

2018年に出た、彼のソロ・アルバム。これを聞いていると、アレンジのアイディアは彼が出してるんじゃないかとも思えますね。これは、レディオヘッドっぽさは全然なくオルタナ・カントリー的なアルバムなんですが、ある時期のウィルコとかに近いモダンで斬新なアレンジしかけてきます。揺らぎ系アンビエントとかギターのディストーションに関しては、かなり彼に負うところが多いのかな。そこに、伝承フォーク的なアドリアンヌのメロディとリフが加わるから、結果としてレディオヘッドみたいになってしまっているのかもしれません。

いずれにしても、すごいことですし、新しいすごい才能が生まれたことは確かですよ。このアルバム、僕もかなりハマってますけど、世界の音楽メディア、えらいことになってます。まず、批判的なレヴューと言うものを全く見かけないし、ピッチフォークにいたっては9.2点ですからね!あそこが新作に対して9点台出すって、数年に1回のことですから、これ、今週、その界隈ザワついたんですよ。それくらいの大事になってますね。

もう、今、一番ライブ見たい存在に僕の中でなってますけど、それにしても、こないだここで特集したフォンテーンズDCもそうだし、ビッグ・シーフもそうだけど、日本のロックの批評家の人、もっと騒いで欲しいです!ヒップホップの新世代がどうだとか、ポリコレがどうだとかってのもわかるし、「ビリー・アイリッシュ、もっともっと盛り上げたいよね!」というのは僕も当然同じだったりはするんですけど(笑)、インディ・ロックの中も、無視できない動き、結構出てきてますからね。

あと、去年のThe1975のアルバムもそうだったんですけど、「レディオヘッド」という、アンタッチャブルな超大物に対して、「自分たちだって負けない」とばかりに正面から挑むような人たち(1975の場合は「I Always Wanna Die」だけじゃなく、「挑戦的な姿勢」そのもの、という意味だけど。あのアルバムはむしろ「ロンドン・コーリング」とかの方に近いけど)が出てきた意味でも、すごく嬉しいことだと思っています。








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