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デビュー作が最高作となったオペラ作曲家たち① マスカーニ

芸術家は経験を重ねるごとに作品の質を高めていくのが一般的なイメージです。
ですがオペラの作曲家にはたまにデビュー作が大変素晴らしい作品であったものの、その出来があまりに良すぎたためかそれ以降デビュー作を越えることなくキャリアを終えた人が何人かいます。

歴史に名を残したいという野心を持つ芸術家にとって、早々にその目的を達成してしまうことは果たして幸せだったでしょうか?
その後の人生は自分のデビュー作を越えようとする戦いであり、それなりに辛いものではあったでしょう。ですが彼らの作品は今でも舞台に上がり続けています。
結果としては誰もがうらやむ名声を得ることができた、幸福な作曲家たちなのです。

今回はそうした作曲家と作品を私の主観で選んでみました。
それは芸術の神様の気まぐれだったのか、本物の才能が最初の作品に結実したのかをぜひ確認してみていただきたいと思います。


マスカーニ『カヴァレリア・ルスティカーナ』(1890年)

突然現れた作曲家 マスカーニ

作曲家はイタリアの音楽教師ピエトロ・マスカーニ(1863~1945)。彼は楽譜出版社ソンゾーニョの一幕オペラコンクールに『カヴァレリア・ルスティカーナ』で応募し、最終審査(舞台上演)の3作品に残りました。
この時点での前評判で既にこの作品は他の2作品を圧倒していました。実際ローマでの上演後の聴衆も無名の新人に向けたとは思えないほどの絶賛ぶりで、カーテンコールはなんと60回にも及んだそうです。

誰もがマスカーニにオペラ界の大御所ヴェルディに続く大家の誕生を期待しました。
事実彼はその後も「友人フリッツ」「イリス」といった現代でも稀に上演されるオペラを世に出したのですが、デビュー作『カヴァレリア・ルスティカーナ』を越える作品を生み出すことはできませんでした。
その後彼はファシスト政権に接近したせいで戦後全財産を没収され、最終的にはローマのホテルで寂しく生涯を終えたのです。

悲劇の連鎖 『カヴァレリア・ルスティカーナ』

全曲で約70分程度の短いオペラで、休憩を挟まず一幕で上演される作品です。

題名の『カヴァレリア・ルスティカーナ』とは“田舎の騎士道”という意味で、その題名のイメージの通り舞台は不倫に始まり、決闘で終わります。
元々愛し合っていた二人がある事情で別れ、女性の方は結婚したものの二人は別れ難く、それに気付いた不倫妻の夫と不倫男の婚約者が復讐をするという何とも辛い物語です。
抗しがたい運命や悲劇の連鎖というテーマの共通性から映画『ゴッドファーザー PART Ⅲ』の中でもオペラの一場面が取り上げられていて、それでご存じの方がおられるかもしれません。

このオペラの魅力は胸を締め付けられるような物語と音楽で、泥臭く湿っぽく描き切っている所でしょう。泣ける音楽というのはこういうものを言うんだろうなと感じさせてくれるオペラです。

とにかく“熱い”音楽 『前奏曲』

ここで紹介するのはオペラの最初の曲『前奏曲』です。中間に演奏される『間奏曲』の方が圧倒的に有名ですが、前奏曲の方がより起伏に富んでいて劇的な音楽です。
この曲はまず心に沁みるような旋律で始まり、すぐに熱を帯びてきて激情的な頂点を迎えますが、またすぐ落ち着きます。
こうして音楽は山場を何度か繰り返すのですが、こうしてすぐに熱くなりやすいところは南イタリア人の気性を表しているのでしょうか。

前奏曲の間に不倫男トゥリッドゥの恋人に捧げる情熱的な歌が挿入されているのですが、その歌はほぼアカペラで歌われます。
そして歌の最後を長く伸ばした後に、いきなりフルオーケストラで例の激情的な音楽が続くところなんか劇的効果が抜群です。
この曲のやたらと“熱い”ところや、南イタリアっぽいムードが私は大好きです。

それまで無名だった作曲家マスカーニ、彼はデビュー早々に最初のオペラの出だしからイタリア人とオペラを聞く全世界の人々の心を掴むことに成功しました。
そして今もその曲は私たちの心を離してはくれません。


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