デビュー作が最高作となったオペラ作曲家たち➁ レオンカヴァッロ
レオンカヴァッロ『道化師』(1892年)
ライバルにしてやられた才人 レオンカヴァッロ
イタリアの作曲家レオンカヴァッロ(1857~1919)は既にオーケストラ曲は作曲していたものの、本人が望んでいたオペラ上演の機会には恵まれませんでした。従ってこの懸賞作品が実質的なデビュー作となります。
彼は台本を書く能力もあり、このオペラの台本も彼自身が書いています。別の作曲家プッチーニにも『ラ・ボエーム』という物語の台本を書こうと提案しましたが断られてしまい、仕方なく自分で作曲を進めていました。
ところがこの題材自体には関心を持っていたプッチーニが別の作家の台本で先に作曲してしまったため、彼とプッチーニはその後かなり険悪な関係になったということです。
2つの『ラ・ボエーム』のその後の評価はどうだったでしょう?
プッチーニの方は現代でも超人気のオペラとなり、上演しない歌劇場は恐らく世界に存在しません。一方レオンカヴァッロの方は忘れられた作品となりました。それだけでなく、彼の作品自体も『道化師』一作品しか知られていません。
にもかかわらずこの『道化師』だけは世界中で愛され続け、名歌手、名指揮者たちがこぞって取り上げるオペラとなったのです。
一途な夫が妻に裏切られる 『道化師』
このオペラ『道化師』も先にご紹介した『カヴァレリア・ルスティカーナ』と同じく約80分ほどの短いオペラです。
それもそのはずでこれもまたソンゾーニョ社の一幕オペラコンクールに応募された作品なのですが、一幕物が条件のコンクールなのに中間に幕切れを挟んでしまって二幕物となり不合格となってしまいました。
それでもこの作品はソンゾーニョ社の社長の目に留まり、名指揮者トスカニーニによりミラノで初演されました。
結果は大成功でした。そしてその後も世界中で上演され続けている大人気のオペラです。
物語は旅回りの喜劇一座の座長が妻の浮気を知り、田舎の村で不倫物の喜劇を演じている最中に現実と非現実の境が無くなって妻を刺し殺してしまうというもの。
しかしこのオペラの魅力は劇中劇の裏舞台での役者たちのドラマという本来は表に見せない部分を描き、人間の真実を感動的な音楽で表現している点にあります。
人の世の非情 『衣装をつけろ』
このオペラで最も有名な曲『衣装をつけろ』は座長カニオが妻の浮気を知った直後に始まる劇中劇の準備のために、道化の衣装を着て顔を白塗りにしていく場面で歌われます。
妻を一途に愛していたカニオにとって妻の裏切りは人生の終わりを意味しました。
「笑え、道化よ、お前の愛の終焉に!」の歌詞を頂点としてカニオが歌い終えた後にはかなり長い後奏が続きますが、その音楽からはただ彼を悲しい男として描くだけでなく“憐れみ”をイメージさせるようなフレーズが聞こえてきます。
このオペラが悲劇を客観的に描いているだけではなく、作曲家は主人公に深く共感していることを感じさせる場面です。
レオンカヴァッロはコンクールのルールを破ってこの場面で一旦幕を下ろすことにしました。
主人公の絶望の頂点の後にそのまま音楽を続けることは、彼の劇作家としての感性が許さなかったのでしょうか。
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