初心者にとってチェロと日本語の共通点とは?
日本語を教えていると、つくづく日本語は初級学習者にとってやさしくない言語だと思う。その点、英語は初級者にとって簡単でとっつきやすい。
ところで、50代も半ばのワタクシ、1年前から大人チェロビギナーで、20年以上あこがれていたチェロを習い始めた。それまでの音楽経験は子供のころ習っていたピアノ(全音の黄色どまり)だけだが、楽譜は読めるし絶対音感は無いけどある程度音程は分かる。だから、始めればすぐに弾けるようになると思っていた。 が、甘かった。とにかくポーンと鍵盤を押さえれば正しい音程の音が出るピアノと違って、チェロは左の指で弦を押さえるのも力が無くてできないし、音程が狂っていても自分の耳で判断できない。ピアノはドのキーを押せばドがでるし、ドを押してなければドのキーを押しなおせばよいので簡単明瞭(音楽的な演奏かどうかは抜きにして)。それに対してチェロは、なんと正しい音程で弾けるようになるには5年ぐらいかかる、と先生に言われました。まさかぁ、と思ったのですが1年たっても初心者のままです。ガックシ。でも楽しいので毎日あーでもないこーでもない、と練習しているうちに、ある日突然発見というか、ahaモーメントが来て、あ、こういうことかぁ、と小さくワンステップ前に進む感じです。
これって日本語についても日本語学習者のノービス、ゼロビギナーの人は同じように感じているんじゃないかな。最初は文字もぐにゃぐにゃしていて覚えられないし、文法も印欧語族からはかけ離れていて、母語からの推測や応用がきかないし。簡単なことを言うのに言い方がいくつもあって、覚えることがたくさんだし。
たとえば
練習しなければ いけません。/いけない。/いけないです。
なりません。/ならない。/ならないです。
だめです。/だめ。
∅
練習しなきゃ いけません。/いけない。/いけないです。
なりません。/ならない。/ならないです。
だめです。/だめ。
∅
練習しなくては いけません。/いけない。/いけないです。
なりません。/ならない。/ならないです。
だめです。/だめ。
∅
練習しなくちゃ いけません。/いけない。/いけないです。
なりません。/ならない。/ならないです。
だめです。/だめ。
∅
練習しないと いけません。/いけない。/いけないです。
なりません。/ならない。/ならないです。
だめです。/だめ。
∅
練習せねば いけません。/いけない。/いけないです。
なりません。/ならない。/ならないです。
だめです。/だめ。
∅
ふう、、。なん種類覚えなきゃいけないのか。
チェロも、同じ音を出すのが1種類じゃなくて、数通りあります。4本の弦のどの弦を押すか、どの指で押すか-ポジションが違ったり拡張形をとると違う指になったりもします。しかも、弓をアップ(押す)で弾くかダウン(引く)かも曲調で使い分けられます。さらにあらゆる場面で力の加減や角度が微妙に加わり、ドをドの音程でならすだけのことがほんと、至難の業です。
チェロに関してはほんとビギナービギナーなので、まだ統合的に分析できるレベルに行っておりませんが、初級でのとっつきにくさを知ることができたのは、日本語学習者の気持ちへの理解に繋がり、日本語講師として勉強になったわ、と思う今日この頃です。
もちろん、日本語のほうが英語より難しい、チェロのほうがピアノより難しい、というつもりは全く無く、あくまでも初歩の初歩レベルでのとっつきやすさ・とっつきにくさに関しての感想です。 もちろん言語でも楽器でも極めようと思ったらそれぞれ特有の奥の深さや複雑さがあり、単純比較できるものではありませんからね。