等しく赦しを与える曲(20180926)
また泣いてしまった。スピリチュアライズドをライブで経験したのは2回目だ。別に涙もろい方ではないし、歳を取ると起こる涙腺が緩む傾向もまだない。それなのに、SONICMANIAで初めて聴いた時と同じように、背筋が震え涙が滲んだ。
26日スタジオコーストでの演奏曲は、過去の代表曲と最新アルバム「And Nothing Hurt」全曲、そしてアンコールから3曲。130分はやっていたらしい。でもジェイソン・ピアースの歌と旋律を追い、轟音と静寂に揺られ、明滅する光と色に浸っていたら、それほど長い時間には感じられなかった。
スピリチュアライズドを聴くと、いつの間にか「赦す」という言葉が浮かぶようになった。許すではなくて、キリスト教で使われる「罪などを免じる」という意味の赦す。どこかの牧師の表現を借りれば、Permit(許可する)ではなくForgive(赦免する)。知ってからは頭のどこかに置かれていて、ふいに思い出す。私は仏教徒だけれど、すばらしい言葉だと思う。
ライブ盤の「Live At The Royal Albert Hall」には、アンコールでもやっていた「Oh Happy Day」が収録されている。映画にも使われている有名なゴスペルだ。そこで初めて触れた時のオーケストラの荘厳さとジェイソンのつぶやくような歌の衝撃が、救いの力とスピリチュアライズドの存在を強く結びつけたのかもしれない。
振り返れば後悔ばかりしている。社会に許容されないほどの大罪はないけれど、しなければよかったと思うことや判断を誤ったと思う瞬間はたくさんある。たらればの考え方は無意味だし、後悔ばかりでは前に進めないことはわかる。だから普段はしないようにする。精一杯生きることがすべての近道であり、自分で掴まなければ何かが起こらないことも知っている。だからそれなりにやっている。大人だからそれくらい知っている。でも、うまく行かないことを嘆きたくなる時もある。そんな逡巡も全部含めた上で、スピリチュアライズドの曲はそれでもいいと言ってくれる。気のせいかもしれないけど、私にはそう感じる。
「Ladies And Gentlemen We Are Floating In Space」の「Come Together」や「Stay with Me」、「Lazer Guided Melodies」の「Shine a Light」のような頃、そのもっと昔のSpacemen3時代から描かれたスペーシーなサイケ感に込められた幸福だけでなく、「Sweet Heart Sweet Light」の「So Long You Pretty Thing」、「Oh Happy Day」にブルースの切なさや荘厳さを感じる人は多いという。私もその一人だ。ただ、そこに込められた何かを、人より少し強く受け取っているのだろう。
天赦日は、誰にでも等しくやってくる縁起のいい日だ。この天から赦される日は一年に何日もないが、スピリチュアライズドの音は触れればいつでも聴く私を、そして誰かを赦してくれる。神様しか持てない力が旋律と歌になりかわり、蛇行した道を少し明るく照らしてくれる。だからこれからも、何度聴いても、きっとまた泣いてしまう。