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事実から目をそらさないことの大切さ

前回のアメリカ人黒人作家・ジャーナリストのTa-nehisi Coats(タナハシ・コーツ)さんのポッドキャストからの話の続きとなります。

タナハシさんは、黒人アメリカ人としての経験についても書いていますが、タナハシさんの本(Between the world and me)は、アメリカのいくつかの州の学校で禁止となったそうです。
禁止となった本はたくさんあって、多くは黒人や有色人種の作家の本だそうです。
いくつか挙げられた理由は、「白人であることを、恥であるかのように感じて不快になるから/心地悪いから(黒人を奴隷にしていた歴史や、黒人隔離・黒人の殺人・リンチを長年行っていた過去を知りたくない=白人はいつもイノセントで善良で有色人種よりも遺伝的にすべての点において優秀で優勢な存在だという(偽りの神話)を信じていたい」というものがあったそうです。
タナハシさんは、自分が知っている限り、子供たちはいろんな見方やほかの人々の経験を知りたく広く深い興味をもっているけれど、問題は大人なのではないか、としていました。
親は、子供への優位性を保ちたくて、子供に、自分が知らないこと・自分が認めない世界観を知る機会をもつことを嫌う人も多いそうです。
ここには、アメリカでは、長年、人種隔離政策が行われていたこともあり、黒人作家の本は限られていた上に、黒人によってのみ読まれていた歴史があるそうです。
白人の書いた本は大量に存在して誰もが読んでいて、これはアメリカに限らず、イギリスからの数百年にわたる植民地支配を経験したナイジェリアの女性作家、Chimamanda Ngozi Adichie (チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ)も言っていて、子供のころは、小説も絵本も、主人公や登場人物はみんな白人で、作家も白人で、それについて特に不思議に思わないくらいのレベルだったそうです。
これは前回のBlogにも含めた「White Centric(白人の世界観価値観・文明観が世界で唯一正しいもの)」とすることにもつながっています。
本を禁止する、というのは、昔の戦時中に政府や軍隊に都合の悪いことを書いているのを禁止したり、黒い線で消したりといった古い時代のことのように思うかもしれませんが、アメリカでは近年、政治的な目的で大きく行われています。
本に書かれている「アイディア」は、政治家が恐れるほど、人々の考えや思想・政治観に大きく影響を与えるパワフルなものだという証拠でもあります。
特に、白人が黒人作家の本を読むとき、白人であるということだけで得る既存特益や優越感は、その既存特益や優越感がほかの白人たちと比べて小さいものであったとしても、黒人を含む有色人種の人々の長年の犠牲の上に成り立っている事実を知ることは心地悪いことであるのは、想像がつきやすいかもしれません。
タナハシさんは、もし親が「私は、私の子供には、私の意見や考えが正当であると証明する本しか読ませません」とするなら、それは、education(エデュケーション/教育)ではなく、indoctrination (インドクトリネーション/洗脳、教義などの植え込み)だとしていました。
大事なのは、親(大人)が、さまざまな本を読み、自分の世界を広げ、自分への教育を絶え間なく行うことです。

タナハシさんは、ジャーナリストであることや、自分の育ってきた環境からして、さまざまなことに(健康なレベルの)懐疑的な目をもって見ることをしていると信じていたけれど、パレスチナについては、それが全く機能していなかったことに気づきます。
タナハシさんは、自戒もこめて、Phraseology(フレイゼオロジー/言語の使用法、特定のいいまわし)とブランディングには、よく注意を払う必要があるとしています。
「イスラエルには(国家として)存在する権利がある」「イスラエルには自衛権がある」といった言葉を、権威のある人々や政府、メイン・ストリームのメディアが、何度も繰り返すと、普通の市民たちは、何度も聞かされることで、頭をスイッチオフし、考えることを無意識のうちにやめ、(疑問を投げかけるべきなのに)疑問をもつことすらなくなります
結果的に、誰もこのことばの内容の正当性について話しません
でも、これは私たちがきちんと話しあう必要のあることです。
「人々」には存在する権利がありますが、「国家」はツールであり、神聖な国家というものはありません(=「国家」が存在する権利というのは、国際法にもない)。
国家は、そこに住む人々が最大限に自分の可能性を生きられる場所であってほしいと思いますが、そうでない場合、精密な検査・調査が必要です。
タナハシさんは、「ユダヤ人のみの国家(=神権国家でEthno State(エスノ・スティト/一つのエスニック・グループだけが資源や土地を含むさまざまなことについてのすべての権利をもち、そのエスニック・グループに所属しないと見なされた人々にはなんの権利もない)が、存在するべきなのか」という議論が必要だとしています。
国際法専門家で国連特別報告者であるパレスチナ地域担当でもあるFrancesca Albanese(フランチェスカ・アルバネーゼ)さんも指摘していましたが、たとえばイタリアとフランスが一つの国になるときめて、今日から「イタフランス」という新しい国になります(イタリア・フランスという国家は消える)と宣言するのは全く問題ありませんが、その地域に住む人々全員の人権や自由は守られなくてはなりません。(例えば旧イタリア人のみが優遇される法律があり、旧フランス人が二級市民のように扱われるようなことがあってはならないということ。すべての人が同じ権利と自由をもつことは必須条件)

また、上記とも重なりますが、「イスラエルが中東で唯一の民主主義国家である」というのも、偽りです。
タナハシさんは、その地域に住んでいる半数の人々(=パレスチナ人)が差別され、住む場所や通れる道路を指定されたり、基本的人権が適用しない・違う法律が適用される(パレスチナ人には軍事法が適用され、ユダヤ系イスラエル人には普通の市民への法律が適用される)というのは、全く民主主義ではないとしています。
その地域の半数の人々(=ユダヤ人)が優性・上で、残りの半数の人々(=パレスチナ人)が劣性・下とする社会・国家が民主主義であるわけがありません。

同時に、タナハシさんは、「アメリは世界で一番古い民主主義の国」も偽りの神話であると述べています。
タナハシさんは、黒人両親をもち、親の世代では、有色人種は、白人の場所から隔離されていたり(バスの席も白人専用席とそれ以外の席、白人専用の入り口とそれ以外の人々の裏口等)、教育の機会・職業の機会も限られていて、白人からの黒人に対するリンチ等が日常的に起こっていました。完全にこれらの差別がなくなったわけではありませんが、多くの黒人や有色人種の活動によって、公共の場所での隔離の撤廃が法律化されたのは、1964年です。
法律化されたからといって全てが一気に公平になるわけではなく、さまざまな社会の構造的な差別の仕組は今も残っています。
黒人や有色人種のアメリカ人たちにしてみれば、「アメリカが世界で一番古い民主主義の国である」ということが、完全に偽りであることは明白です。
誰が、その物語を語っているのか、ということは重要です。
なぜなら、往々にして、物語は、支配者によって形作られ、語られるからです。
その仕組みに気づかないと、抑圧されている人々でさえ、その偽りの神話を内在化して信じてしまい、自分たちが下で劣っている人々のように振舞ってしまいます。

 また、タナハシさんは、よく聞かれる「(ガザの虐殺について)誰もが(ガザで起きている事実を)知っているけれど、誰も気にかけない」というよく言われている言葉に疑問を投げかけます。
タナハシさんは、よく知られているジャーナリストですが、随分長い間、アメリカ政府やイスラエル政府のプロパガンダにより、洗脳状態となっていました。
タナハシさんが、パレスチナ人の学者に、自分がいかに無知であったか、騙されていたかのように感じることを話したところ、「気にすることはないよ。イスラエルのプロパガンダ・マシーンは世界で最高だからね」となぐさめられたそうです。
実際、イスラエル政府のプロパガンダの歴史は非常に長く、専用のことばさえ存在します。
「Hasbara(ハズバラ)」は、ヘブライ語で「説明する」に近い意味だそうですが、この用語は、現代のプロパガンダの一つとして見られていて、物議をかもすような、或いは国際法違反であるような行動や政策をイスラエルが行うことを正当化するために、イスラエル政府が一つ一つのできごとについて(事実を)歪曲し、話を捏造することを指しています。
これは国家レベルで起こっていて、イスラエル政府、イスラエル軍、メディア(メディアも演劇といった芸術部門も、基本は軍隊内で訓練されているそう)とさまざまなところで、増幅されるそうです。

タナハシさんは、多くのアメリカ人は、イスラエルが違法に占拠しているパレスチナ地域で、実際に何が起こっているのか知らないのではないか、としていました。
なぜなら、アメリカやほかのヨーロッパの大学キャンパスでも即時停戦を求めるプロ・パレスチナ・マーチや集会は禁止され、多くの公的な場所では、パレスチナのことを語ることを直接的・間接的に禁止し、ガザに関するソーシャル・メディアのポストに「Likes」を押したことで(暴力を正当化するようなものでなく、即時停戦や誰の命も大事といった普通のポスティング)、職場の調査が入り停職・解雇の可能性にもちこまれ、裁判にもちこまざるを得なかったケースもあります。
イギリスでも数件ありましたが、私が知っている限りでは、どれも勝訴となり、職を取り戻しています。
ただ、その間の精神的なストレスははかりしれないものでしょう。
イギリスでは、これらの事件について、そもそも言論の自由の範囲であるもので、職場だったりアカデミックの場所で、そういう無意味で不公平なガザに関する言論統制を行うほうがおかしく、訴えて職を取り戻した人たちにはその勇気を讃えている場合がほとんどです。
でも、確かに社会にガザの停戦を求めることや、ガザについて語ることを恐れさせ、self-censorship (セルフ・センサーシップ/自主検閲)させ、言論を不自由にさせる空気を作り出したことは否めません。
パレスチナ系アメリカ人で人権弁護士、法律家、アカデミックでもあるNoura Eracat(ノウラ・エラカット)さんは、テレビ番組のインタヴューで、イスラエルが違法占拠しているWest Bank(ウェストバンク)地域に住んでいた従弟が、次の日に結婚する予定だった彼の妹を迎えに行くために車で出かけたところ、イスラエル軍隊チェックポイントで銃殺されたこと、数年たつのに遺体も返してもらいないことについて(=無実のパレスチナ市民が日常的にイスラエル軍隊に殺され、殺人犯は、責任を問われないのが75年ほど続いている)語ったところ、その部分は完全にカットされて放映されず、その後もブラック・リストに入れられ、そのメイン・ストリームのテレビ局に招かれることは全くなくなったそうです。
また、つい最近では、アメリカ大統領選挙前の民主党集会では、パレスチナ人の人々は集会から追い出されたり、ステージで話す機会を許されなかったそうです。
タナハシさんは、これらの状況からも、「もし、誰もが知っていることならば、数人のパレスチナ人がステージで話すことに問題はなかったし、話させたでしょう。でも、話させなかったのは、彼ら・彼女らが真実を話し、それを聞いて事実を初めて知った人々が、目を覚まして行動を起こす(=政府に即時停戦や武器供給の即時停止することを求める等)を真に恐れているからでしょう
だからこそ、私たちは、ガザで起こっていることを話し続けなくてはなりません

タナハシさんは、パレスチナ人と同じような人種隔離政策や人種差別、植民地主義による抑圧や殺人を受けてきた黒人の子孫である自分たちには、特に、パレスチナの人々に対して責任があるとしていました。 

人々が事実を知らず、実際に事実を知れば行動が変わる、という例では、つい最近、地元の人々とガザをサポートする団体が一緒になって、イスラエル軍事産業大手で、ドローンの部品をイギリス北部で製造する「Elbit Systems(エルビット・システムズ)」に対して、道路封鎖を行ったり、工場へ侵入して機械を破壊する、マーチを行うなどで、セキュリティーに多額の支出が必要となり、利益がほぼなくなる(=ビジネスとして大きな利益が出なければ、そのうち閉鎖の可能性も)という結果を得ました。
この地元の人々は、工場の前を何度も通ったことはあっても、ここでガザで大きく使用されているドローンが製造されていることは全く知らなかったそうです。
いったん、それを知ると、多くの地元の住民たちが「無実の子供や市民を殺している武器(たとえ一部の部品でも)をつくっている工場を、私たちのコミュニティーにおいておくわけにはいかない」と立ち上がったそうです。
また、イスラエルの戦車の部品をつくっていた別の会社にも、同じようなデモンストレーションがあり、その会社は利益が出なくなったため、別の会社に売られ、その新しい会社は、武器をつくることをやめ、同じ技術をつかって、公共機関の乗り物の部品をつくることにビジネスを変更させたそうです。
イギリスは、軍事産業がとても大きい国で(アメリカとは比べ物にはならないーアメリカの軍事費は世界最大で、世界2位から10位までの国を合計した軍事費よりも多い)、イギリスの人々の職を守るために、軍事産業を閉鎖させるようなことがあってはならない、とする保守派の政治家もいますが、実際に、軍事(基本はどこかで人を殺したり傷つける)に使用するものでなくても、ひとびとに役立つものを作ることに転換しても、利益を出すビジネスを行うことは十分可能です。

今でも忘れられないのは、既にガザでの虐殺が明らかになっているときに、アメリカの政治家が、イスラエルへの兵器輸出の制限について議論を行っていた時に、「私の選挙区には、大きな軍事産業の工場があり、そこで多くの人々が働いています。兵器の輸出制限や遅延なんて、とんでもありません。私の選挙区の人々が、子供たちの授業費を払ったり、ガソリン代を払うのに、兵器はすぐに、多く(イスラエルに)輸出されなくてはなりません」とほぼ叫んでいた画面です。
そこには、ほかの人々の命は、自分の選挙区のアメリカ人のガソリン代以下の価値しかないことを明確に示していました。

でも、政治家が大企業に取り込まれていて、誰もの命が同等に等しい、というヒューマニティーを完全に失っていても、普通の人々は、上記のイギリスの例のように、事実を知れば、ヒューマニティーを発揮させ、社会を変える行動を起こします。
また、アメリカでも、事実を知ったユダヤ人団体や、多くの学生たちが、イスラエルの虐殺を即時に止めるよう運動を続けています。

 




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