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軍事主義と闘うことなしに、気候危機と闘うことはできない ②

前回、戦争・紛争が引き起こす大きな温室効果ガス排出量について大まかに説明しましたが、今回は、戦争・紛争が引き起こす環境破壊、これらの戦争・紛争によってつくりだされる強制難民たち(住んでいる地域から強制的に移動せざるを得ない人々)をSecurity threat(セキュリティー・スレット/安全保障への脅威)としてフレーミングする現状が間違っていることと、なぜそういった状況がつくりだされているのかについて。
大事なのは、地球上のすべての人々の安全を第一に考えることです。

アフガニスタンでは、戦争経済の一環として、違法の木の伐採が起こりました。
1990年から2005年(アフガニスタン市民戦争/内戦)の間に、国内の三分の一の森林が伐採されました。
また、戦争犯罪であるのですが、Critical Infrastracture(クリティカル・インフラストラクチャー/重要なインフラー水道、下水処理施設や電気の生成・分配施設、病院や学校、ガソリンや石油施設、農地等)が爆撃・破壊されることは、よく起こっています。
多くの場合、爆撃を行う/行ったのはアメリカやアメリカ・西側諸国が武器供給やインテリジェンス提供でサポートしている軍隊や民兵組織です。
爆撃された際には、毒性のある物質やがれきの粒子が、空中・地中・地下水を汚染します。
これは、公衆衛生危機を引き起こします。
例えば、イエメン(サウジアラビアがイエメンの内戦へ介入ーアメリカとイギリスがインテリジェンス・武器をサウジアラビアに大量に売りつけて戦争を長引かせた)では、内戦中の2017年には、毎日2000件のコレラ患者が報告されました。
イラクでは、多くの油田火災で、深刻な公害を引き起こしました。
ウクライナでは、ロシアの主要な攻撃ターゲットは、燃料貯蔵庫・原子力発電所・化学薬品工場で、当然ながらこれらへの爆撃は、空気・地中・地下水を長年にわたって汚染し続けます。

戦争が終わっても、軍事行動の影響は続きます
ヴェトナムでは、Agent Orange(エージェント・オレンジ/枯葉剤)をアメリカ軍が使ったことによる、胎児の奇形は50年以上たった現在でも続いています。
現在、ガザではイスラエル軍が、国際法違反であるWhite Phosphorus(ホワイト・フォスフォラス/白リン)を、市民が密集している場所に使用していることが分かっています。ホワイト・フォスフォラスは、空気に触れると発火し、人に対しては肌をつきぬけて骨まで燃やす強力さであり、地面・地下に残った毒性は数年変化を起こさず、毒性の強いまま残るそうです。イスラエルは、レバノンに対してもホワイト・フォスフォラスを使用しており、農業を行って生計をたてている人々には、今後の死活問題となります。
また、ガザでは、下水処理施設や電気施設への爆撃で、汚水が処理できず、公衆衛生危機を引き起こしています。
ガザでの多くの建物への爆撃は、アスベストといった毒性のある物質をリリースすることになり、これも戦争が終わった後も影響し続けることとなります。
なお、これらの爆撃で排出される多量の温室効果ガス排出量は、どこにも記録・含まれていません
見えないもの(カウントされない温室効果ガス排出量)は、人の心や考えからも見えなくなっていることは覚えておく必要があります。

この番組の中では、国際学の女性教授、Marwa Douady(マルワ・ドーディー)が登場します。
マルワさんの父方・母方両方の祖父母はパレスチナ出身で、IDF(Israel Defence Force/イスラエル自衛軍ーIsraerl Occupation Forceイスラエル占領軍のほうが適切とする説もあり)の前身である、Haagnah(ハガナー/シオニズム民兵組織)に暴力によりパレスチナを追い出されました。
同じように、数百年にわたって住んでいた土地を追われたパレスチナ人、75万人(或いはもっと多い)のうちの一人です。
マルワさんの母方の曽祖父は、地域のリーダーで、銃をつきつけたハガナ民兵が、地域の人々への見せしめのために、曽祖父をシリアまで追い出したそうです。
このとき、曽祖父を銃でつきつけて脅してきたハガナのメンバーの一人は、ユダヤ系ポーランド人の女性で、孤児として何もない状態で第二次世界大戦後にパレスチナ地域にやってきたところを、曽祖父が家に招き入れ、家族同然に面倒をみた人でした。
驚いた曽祖父は、その女性に「きみもなのか。。」と聞いたところ、女性は「本当にごめんなさい、ハガナ(民兵組織)からの命令なんです。。。」と答えたそうです。
マルワさんの母は、イスラエル政府の決まりにより、パレスチナへ行くことへの許可はおりず(多くのパレスチナ人が同じ経験をしているそう)、自分の生まれ育った家や地域を訪れることはできないそうです。
マルワさんは、ヨーロピアンのヴィザをもっているので、パレスチナを訪れることができた、というのは皮肉な話です。
マルワさんの家族の物語・パレスチナを初めて訪れた時のお話は、ここから読めます。

マルワさんは、過去の戦争、過去の核実験、過去の軍事オペレーション、これらの軍事オペレーションのあとの清掃・清浄(空気・水・土地の汚染を取り除く、地雷や不発弾の撤去等)の義務を怠っていることは、現在にも大きな影響を及ぼしているとしています。
また、核実験に関しては、アメリカの原住民たちが住む地域が使われたりと、常に弱い立場にいる人々が犠牲とされたことは、覚えておく必要があります。
核実験以外にも、戦時中にはゴミやさまざまなものを燃やすために野外に大きな穴を掘り、そこで多くのモノを燃やしますが、温室効果ガス排出量を増やすだけでなく、毒性のある物質を空気・地上・地下・水へと汚染させます。
「水」という観点からすると、飲料水だけでなく、農業用の水や地下水にも影響します。
アメリカ政府やアメリカ軍は、「Green Military/グリーン・ミリタリー環境に優しい軍隊、Green Ammunitions/グリーン・アミュニションズー環境に優しい武器」というスローガンで、基地の維持に太陽光を使ったり、武器の一部の部品を再生可能な物質にしたりとしていますが、大事な質問は、「その戦争は必要なのか、アメリカ軍の基地を地球上のいたるところに800ほどもっていることは、本当に必要なのか?」です。
戦争のコストについては、アメリカが大きく関与した冷戦や2001年アメリカ同時多発テロ事件のあとの数多くのアメリカ軍による他国・他地域への侵略・戦争・軍事介入については、戦争が引き起こしたことについての結果に対する評価はアメリカ軍は行っていないそうです。

マルワさんは、戦争が引き起こした根深い歴史的な公害は現在も続いているとしています。
多くの戦争・紛争には、アメリカが間接的・直接的に関わっています。
また、西ヨーロッパの行った植民地主義・帝国主義で人為的につくられた民族・地域間の溝(Divide and Rule=人々のグループを細かく分けて、グループごとに優遇したり差別したりして、憎しみを作り出す→ 実際に搾取や悪事を行っている植民地宗主側に正当な抵抗を向かわなくさせるため)が原因となっている場合も多く観られます。
この解決には、深く大きな構造的な変化が必要なのは明らかです。

過去20年のほどの間、西側諸国は「National Security(ナショナル・セキュリティー/国家安全保障)」というレンズを使って気候危機をみて、フレーミングしてきました。
これは、(地球温暖化に伴って)増え続ける不安定さ、紛争、そしてmigration(マイグレィション・ミグレーション/人々の移動)について、軍事的な準備が必要であるという解釈に結びつけます。
マルワさんによると、この「環境」が国家安全保障の一環であるという考えは、冷戦の後につくりだされました。
なぜなら、二極化した世界の「脅威(社会主義から民主主義を守らないといけないという偽のスローガン)」が突然消え、(アメリカの)巨大な(軍事)諜報活動費を正当化する必要があったからです。
ここで、何が「安全/安全保障」を意味するのか、を再定義する必要があり、もともとの定義の幅をひろげ、「環境」も「国家安全保障」に含まれるとしました。
これは、アメリカを含めた経済先進国の西側諸国の観点から、気候変動は(地球上の)資源にインパクトがあり、さまざまな不足をつくりだし、紛争と(社会・政治上の)混乱・騒動を、西側諸国にもたらすと決めてかかることにつながっています。
気候危機により、実際に資源や食料・水等の不足が起こり、紛争が起こる可能性があるのも、気候危機にほぼ寄与しなかった経済後進国(地球上の8割程度の人口)の地域の人々です。
ここでは、気候危機によって強制的に移動せざるをえなくなった人々を、繁栄している西側諸国へ混乱・紛争・不安定さをもちこむ「脅威」だと認識させます。
実際は、この移動せざるをえなくなった人々は、「(西側諸国が作り出した気候危機による)被害者」であって、「脅威」ではありません
また、次回説明しますが、気候危機で多くの(貧しい地域からの)人々が、豊かな西側諸国に大挙してやってくる、というのは事実ではなく、多くの人々は近隣諸国(同様に貧しい国々)にとどまるし、気候危機で少ない資源を人々が争って紛争がたくさん起こる、という西側諸国の勝手な決めつけも、事実ではないことが分かっています。
また、気候危機を「国家安全保障への脅威」とみて、軍事的な解決が必要だという(間違った)方向に導かれたのは偶然ではなく、西側諸国の軍事には、大きな割合で、民間のセキュリティー企業やテック企業、コンサルティング企業が関わっているからです。
これらの企業にしてみれば軍事のエリアや規模が大きくなればなるほど、儲けがでるので、軍事的な解決以外には解決方法はない、と政府や人々に思い込ませます。
これらの国際企業にとって、人々の命、とくに有色人種の人たちの命は、ほぼ価値がないものであるのは明らかです。
西側諸国は、帝国主義・植民地主義で地球上の資源を奪い搾取してきた長年の歴史をもつ国々で、アフリカやアジアのように、共同社会で、お互いに分け合い平和に暮らそうとする考えが想像もつかなにのではないか、とする専門家もいます。

この番組に出演しているNick Buxton(ニック・バクストン)さんも、気候危機を国家安全保障というフレーミングでみた場合、「いかにこれらの難民・移民に対して自分たち(西側諸国の人々)を安全に保つか」ということになり、(主に西側諸国のせいで強制移動を余儀なくされた)被害者である難民・移民を犠牲にして、自分たち(西側諸国の安全な地域にいる人々)の想像上の危険から自分たちを守るか、という話になります。
「Security(セキュリティー)」という言葉をきいたときは、「誰のためのセキュリティーなのか、そのセキュリティーのために誰が犠牲になっているのか」を考えることがとても重要です。
SecurityもSafetyも日本語では同じですが、Safetyはコミュニティ―からえる安心感をさすことが多く、軍事とは関係ありません。

「難民・移民を犠牲にする」が意味するのは、いろいろとありますが、以下はほんの一例です。

正式な移民プロセスを複雑にし、正式に移民することをほぼ不可能にする→危険な違法のルートでしか安全な場所・国にたどりつけない→危険なルートで多くの人々が亡くなる/金儲けできる機会として犯罪組織が増大し、人々はさらなる危険にさらされる
※イギリスでは、生きることが危険な国(市民戦争や紛争、政治や宗教等の理由で死刑にされたり拷問され殺される可能性が高い)にいると認められた人々は本来なら、国際法によってイギリスで難民認定をして受け入れるべきなのですが、政治的な事情で、香港とウクライナを除く国々からの正式に移民できるルートをなくしました。アフガニスタンやイラクからだと、違法なルート以外は存在しないのですが、これらの違法ルートでくる人々の約7割は、正当に難民認定されるべき人々だと見られています。イギリスでは高齢化も進んでいるし、人手不足も起きていて、移民が増えることについては経済的には問題がないこと、移民の多くは若くて社会に馴染んで経済に貢献し病院サービスをつかう可能性も低いこと等は専門家の多くも指摘しています。
最近では、事件当時は子供(18歳以下)だったセネガル出身のIbrahima Bah(イブラヒマ・バー)さんが、イギリスへ小さなゴムボートで渡ってくる際に、犯罪組織にひどい暴力を受けて無理やりこのボートの操縦者にされ、最大20人のボートに45人が乗り込まされ、イギリスに来る途中に4人がおぼれ死んだことで、過失致死罪に問われています。
溺れ死ぬ人が増えたのは、危険なボートや安全な乗客数を超えてボートに乗り込ませる犯罪組織だけでなく、イギリスやフランスといった西側諸国が、人々の命を救うことではなく監視テクノロジーを強めていることにも大きな原因があります。
このボートに乗っていた人たちは、少年だったイブラヒムさんが、いかに懸命にボートに乗っていた人々を助けようとしたかを語っていて、誰もが彼のことを「天使のようだった」と表現しているそうです。イギリスの司法では、イブラヒムさんが出生証明書をもっていて、当時子供だったと証明できるにも関わらず、それは嘘だと決めつけ、大人の犯行と見なしていたり(白人が人種差別で、黒人の子供の年齢を7歳ほど上にみることはよく知られているー白人で黒人やアジア人の顔の見分けがつかないひとは実際たくさんいる)、問題もかなりあるのですが、イブラヒムさんを支える弁護士や団体もあり、今裁判で闘っています。
でも、正式な移民ルートがあれば、イブラヒムさんは正式な難民として認定され、社会に貢献するひととなっていた可能性は高いです。

本来は、「(主に西側諸国が引き起こした気候危機に伴う)洪水や、どんどん上昇する気温のせいで住んでいた地域から強制的に去るしかなかった人々に、どのように安全性を保証することができるか」というフレーミングが適切です。
地球上みんなのヒューマニティーはつながっていることを常に意識しておくことは大事です。
誰かの命がより重要で、誰かの命は重要でないということはありません。
地球上の誰もの命が同等に尊いものです。

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