ありのままを認めてもらえた経験が、“自分”を生きる糧になる。「教育×コーチング」の可能性【神山まるごと高専】
テクノロジー×デザインで、人間の未来を変えるーー。そんな想いを掲げ2023年4月に開校した「神山まるごと高専」。学校のカルチャーづくりと教育現場でコーチングマインド™を広げることをミッションに、「神山まるごと高専」とTHE COACH™が手を組み、さまざまな活動をおこなってきました。
そして、2023年の1学期(4月から7月まで)は、一期生である44名に対しコーチングの提供を実施。この取り組みには、一人ひとりが自分らしく生き、「誰かの答え」ではなく「自分の答え」を見つけるサポートをコーチングを通じておこなっていきたいという想いが込められています。
今回は、「神山まるごと高専」との取り組みを担当しているTHE COACH™の2人に、実際に学生にコーチングを提供して感じたことや「教育×コーチング」の今後の可能性について聞きました。
<プロフィール>
コーチングマインド™があふれる学校を目指して
——まずは、「神山まるごと高専」とのこれまでの取り組みを教えてください。
仁志出:「神山まるごと高専」は、学生自身が自分の意志と向き合い、自分で未来を決めることを大切にしている学校です。誰かの答えではなく、自分の答えを見つけるために、起業家を含めた大人たちが本気で応援をする。そんな学校のカルチャーを育てていくために、THE COACH™が協力できることはないかと連携が始まりました。
石榑:「神山まるごと高専」と私たちが目指すのは、学校の中で「コーチングマインド™」を育むことです。「コーチングマインド™」とは、相手の可能性を心から信じるという“あり方”や“人への関わり方”を指します。
そのため、スタッフ(教職員のこと)の皆さんにまずはコーチングを体感してもらったり、サマースクール期間中の対話の場の設計に協力したり、さまざまな角度からコーチング的な関わりを実施してきました。
1年以上かけて「神山まるごと高専」とさまざまな取り組みをしてきた結果、教育現場におけるコーチングにも挑戦できることができ、とてもうれしかったです。
▼学生さんにコーチングを実施した様子はこちらから
——これまでの取り組みで印象的だったことはありますか?
仁志出:スタッフ向けの研修をおこなった時期は、スタッフ同士がまだお互いのことをよく知らない状況でした。「コーチングの学びを共にすることで、互いの価値観や教育に対する想いをよく知ることができた」という声をいただいています。研修のあと「こんなふうに学生さんに関わりたい」とスタッフ同士での対話が生まれている様子も印象的でした。
コーチングを学び実践することは、人と人との関係性を温めてくれるもの。そのことをスタッフの皆さん自身が実感してくれたことも、コーチングマインド™を育む一つのきっかけになったのではないかと思っています。
▼教職員向けのコーチング研修の様子はこちらから
特性や“コーチャブル度合い”によるマッチングを実施
——2023年の1学期(4月から7月まで)の間、一期生たちに伴走したのはどのようなコーチですか?
石榑:声をかけたところ、計20名のコーチが集まりました。起業経験のある人や小学校の職員だった人など、たどってきたバックグラウンドはさまざまです。
豊かな人生経験と学生と関わることに想いを持ったコーチが集まるなか、もっともこだわったのは学生とのマッチングでした。双方へのアンケートと教職員に学生の様子をヒアリングを実施し、組み合わせを決めていきました。
コーチングはクライアントが自分の感情に目を向け、それを言葉にしてみる時間です。自分の感情を話すことに慣れていない学生もいることを想定し、「コーチングを受け入れられる状態であるか」を示す"コーチャブル度合い"を測る②〜④の質問を設定しました。
自分の感情を表現することが苦手だと感じる学生や警戒心が強い学生に関しては、経験豊富で包容力のあるコーチを選ぶなど、一人ひとりの特性に合わせたマッチングを心がけました。スタッフの皆さんが普段から学生一人ひとりのことをよく見ているからこそ、今回のマッチングができたと思っています。
学生、学校、コーチ。みんなが安心できる環境づくり
——未成年者へコーチングセッションをおこなう際、一般的にはどのような配慮が必要なのでしょうか?
仁志出:コーチングは「自分で気づき、自分で行動していくこと」を大切にしていますが、未成年者は法律的に責任を負える年齢ではないことをコーチは意識しておく必要があります。何かトラブルがあった際に、責任の所在を明確にしておくことも重要です。
また、コーチングセッションは一般的に守秘義務を守ったうえでおこなわれるものですが、今回の取り組みは学校の制度としての導入であるため、学校側が学生たちの様子や変化を見れるように、学生とコーチそれぞれがセッション終了後にアンケートで報告する形をとりました。
話した内容に関しては学生から報告をし、コーチはその学生の様子や変化の言及、また特記事項として命や健康に関わるようなときには報告する、という方法です。
——学生や学校側、コーチのそれぞれが安心してコーチングに臨めるような環境を設計したわけですね。
仁志出:基本的には、三者が安心してコーチングに臨める状態を優先しつつ、万が一、コーチとの相性が懸念される場合や何らかの理由でセッションの継続が難しい場合は、学生もコーチもすぐに相談できる窓口として学校とTHE COACH™の双方から成る事務局の体制も整えました。
学校は学生の声をキャッチし、THE COACH™はコーチからの声を受け取ります。スタッフの方の丁寧なサポートにより、何かあったらすぐに対応できる密な連携が実現しました。
子ども扱いせず、一人の人として接すること
——学生にコーチングをする場合、コーチには何か特別なスキルが必要なのでしょうか?
石榑:子ども扱いせず、一人の人として接するというのは「神山まるごと高専」に関わる大人全員が大切にしています。未成年へコーチングを実施する際の注意点をいろいろ話しましたが、コーチ陣に大切にしてもらいたいと考えていたことは、実は成人へのコーチングセッションと変わらないんです。
学生だからといって身構えすぎる必要はなく、いつも通り接してほしいと、まず前提としてコーチ陣に共有していました。
仁志出:コーチングセッションはクライアント自身が話したいテーマを持ってくるのが基本ですが、サマースクールの様子を見ていると、自分でテーマを持ってくることに難しさを感じる学生が多くいることがわかりました。そのため継続セッションが始まる前のタイミングで、私たちとコーチ陣で学校に訪問し「テーマの種の見つけ方」と題してワークショップをおこないました。
コーチングとはどんな場で、どんなプロコーチがいるのか、学生にイメージを膨らませてもらう良い機会になったのではないかと思っています。
変化の多い学校生活の中で、自分の価値観を見つける時間に
——前期のコーチングセッションの提供が終了しましたが、どのような効果が見られましたか?
石榑:「自分の価値観や自分軸が見つかってきた」という声や「長期的な視点で自分のことを振り返るいい機会になった」と言ってくれた学生がいました。
ただ今回は、一期生全員への提供という挑戦だったこともあり、「コーチングの時間をうまく活用できていない」「今の自分にはコーチングが必要ない」と感じる学生がいたのもまた事実です。
後期からは継続を希望する学生に向けて提供する予定ですが、「神山まるごと高専」の皆さんと共に、コーチングがより良く機能するための条件や要素を細かく分析しながら運営していきたいと思っています。
——学生へのコーチングセッションの提供には、どのような意義があると感じますか?
石榑:学びに溢れ、変化に富んでいる学校生活を送っている学生さんにとって、毎日があっという間に過ぎているのだろうと想像しています。コーチングがそんな目まぐるしい日常から少し離れて、人間関係や進路、自分の価値観を見つめる機会となってくれたら幸いです。
仁志出:「教育×コーチング」の可能性を共に探っていこうという気持ちでご一緒できていることが、まずはとてもありがたい機会だと思っています。
スタッフ1人につき、30〜40人の学生をみる通常の教育体制だと、一人ひとりの学生に向き合うことは時間的にも環境的にも難しくて当然です。そんな学校環境のなかに、第三者的な存在であるコーチが入り、学生1人につき1回1時間のセッションを継続できるというだけでも、大きなインパクトに繋がっていくのではないかと思っています。
ありのままを認めてもらえた経験が、“自分”を生きる糧になる
——「教育×コーチング」の取り組みを通じて、学生へどんなメッセージを届けていきたいですか?
仁志出:「自分の感情や価値観を大切にしていいんだ」と、伝えていきたいと思っています。自分のやりたいことに全力で取り組んでいる学生の横に、本気で向き合おうとする大人が1人でもいると、その子の様子は全然違ってくるものだと思っています。「教育×コーチング」が広がることで、先生たちと共にコーチ陣もそんな存在になれたら嬉しいです。
石榑:学校生活のなかで、テストの点数などわかりやすい指標で他者と比較してしまい、それが自己評価につながり自信を失くしてしまう子も多いんです。
例えすぐにコーチングの効果を感じられなかったとしても、将来何か困難にぶつかったときに「あの時、真剣に話を聞いてくれた大人がいたなあ」と、そのままの自分を認めてもらえた感覚を思い出してもらえるだけでもうれしいですよね。学生時代にコーチングを受けたことが今後の自分らしい人生を生きる糧になってくれたらと思っています。