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『徹夫の部屋』

『徹夫の部屋』


夕方近くの昼下がり、場所は渋谷から少し離れた住宅街、渋谷の喧騒には徒歩5分もかからない距離ながらこの家の付近は妙に静けさが漂う、時折国道246号に出る車が抜け道として使う以外はシンと静まり返った住宅街である。
その住宅街の中でも一際大きな家、コンクリート打ちっぱなしのデザイナーズホームだろうか、お洒落にも見えるが冷たい監獄もイメージさせる豪邸である、大理石で作られたであろう表札にはTachikawaと掘られている。この物語はその家の2階、立川真澄の部屋で行われた全記録をノンフィクションの方式で進められていく。

М0が鳴り響きゆっくり暗転していく、灯りがつくと一人の男が立っている、ジッと真澄を眺めている男、どこかにTELをかける

今井 もしもし今井です、どうですか?捕まりましたか?……でしょうね、我々が控訴した事自体納得してないでしょうから、今ですか?……現場に来てます、警察から許可取るの苦労しましたよ、こっちは僕のやり方で進めて行きます、そっちは先輩のやり方にお任せしますからなんとか証言とってください、あの時被告と会話したのは父親だけなんです、絶対に逃がさないでくださいね、先輩、信頼してますから


~電話を切る今井、真澄に語りかける

今井 あれから3年経ちましたね、あなたのお陰で僕達変人扱いですよ、あ、雨降ってきたな……裁判記録によると、2006年12月30日、あの日も雨が降っていたんですっけ?真澄さん、いつものようにあなたはこの部屋で1人で雨の音を聞いていたんですか?それとも隣の部屋から聞こえる家族の明るい笑い声を聞いていたんですか?


~すると今井の携帯がなる

今井 はい、山根さんお待ちしてました、駐車場ですか?お迎えに上がります、はい、大丈夫です警察の許可はとってあります、はい、……いえ、この部屋でお話しましょう、すぐ行きます。


~電話を切る、そして真澄を見つめて

今井 2006年12月30日、渋谷区で歯医者を経営する立川静夫宅にて殺人事件発生、被害者は長女の立川真澄、遺体はバラバラに切断された状態で発見された、犯人は真澄の兄で立川徹夫!逮捕され、裁判になるも精神鑑定の結果アスペルガー症候群と判明、責任能力の有無を問われ、異例の懲役7年という短期刑が言い渡される、検察側はそれを不服とし控訴する!真澄さん、この家の闇に私が…灯りを照らして見せます。

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