オカルトとメディアリテラシーを掛け合わせた『悪魔と夜ふかし』がおそろしく面白い!
進化しつつあるホラー&ミステリー
まったく異なるジャンルの曲と曲を掛け合わせる「マッシュアップ」と呼ばれる音楽の手法がある。聞き馴染みのある曲でも、別の曲とミックスされることで、新鮮な感動を覚えることになる。映画の世界でも、「マッシュアップ」を思わせる手法を用いた作品が近年は増えつつあるように感じる。
2024年8月に公開され、スマッシュヒットした白石晃士監督の『サユリ』は、従来のJホラー映画をベースにしながら、途中から転調する。主人公が強烈なギャグを発するシーンは、思わず爆笑してしまう。ホラーの中に笑いが盛り込まれているが、作品のバランスは失われず、生と死のコントラストをより鮮やかに描くことに成功している。
9月27日より公開が始まったばかりの黒沢清監督の『Cloud クラウド』は菅田将暉演じる「転売ヤー」を主人公にした社会派寄りのサスペンスだが、クライマックスで菅田が放つひと言にやはり吹き出してしまう。誘拐した少女が、実は吸血鬼だったという公開中の『アビゲイル』も、恐怖と笑いが奇妙に同居した作品となっている。ふたつの異なる感覚が同時に楽しめる贅沢な作品たちだ。
生放送中に悪魔を呼び出そうとする司会者
同じように10月4日(金)から公開が始まる『悪魔と夜ふかし』も、異なる魅力がミックスされたユニークな味わいの逸品となっている。タイトルからホラー映画らしいことは分かるが、舞台となるのは1970年代のテレビ局。生放送中に起きた怪奇現象を記録したビデオテープが、最近になって発見されたという設定だ。低予算ホラー映画でよく用いられるファウンドフッテージ形式だが、本作の面白さはテレビ番組の制作内情を生々しく描いた点にある。
怪奇現象は実在するのか? もし、本当なら番組内で検証してみようじゃないか。やらせを暴けば、視聴者は大喜びする。悪魔がスタジオに姿を見せれば、記録的な視聴率が稼げるに違いない。そうしたメディアリテラシー要素を盛り込むことで、これまでのホラー映画とはかなり違った味わいを引き出している。
主人公は深夜のトーク番組『ナイト・オウルズ』の司会者ジャック・デルロイ(デヴィッド・ダストマルチャン)。日本でかつて人気だった『11PM』(日本テレビ系)や『トゥナイト』(テレビ朝日系)のような番組だろう。視聴率が伸び悩んだことから、ジャックは末期がんで闘病中の妻・マデリン(ジョージナ・ヘイグ)まで番組に出演させる。愛妻の死まで数字に変えてしまうジャックだったが、それでも人気は下降していく。
起死回生の策として、ハロウィン週間にオカルト特番を組むことをジャックは思いつく。『悪魔との対話』を出版した超心理学のジューン博士(ローラ・ゴードン)と本のモデルになった「悪魔憑き」の少女・リリー(イングリット・トレリ)を生出演させ、スタジオに悪魔まで呼び出させようという無茶な企画だった。「どうせ、やらせでしょ?」とタカを括っていた他のスタッフや出演者、スタジオ観覧者たち、そして視聴者は、生放送中に起きる惨劇に戦慄することになる。
実際に魔物を呼び出してしまった日本のドキュメンタリー映画
本作を撮ったのは、オーストラリア生まれのコリン・ケアンズ&キャメロン・ケアンズの兄弟監督。彼らが見てきた1970年代〜80年代のテレビ番組をモチーフにした、見事なフェイクドキュメンタリーに仕上がった。
70年代はスプーン曲げで有名なユリ・ゲラーの超能力特番が、日本では大人気だった。ユリ・ゲラーを真似てスプーン曲げで話題になった超能力少年は、スプーンを手で曲げていたことが番組収録中に発覚して、嘘つき少年とバッシングを浴びた。その後、超能力少年は流転の人生を送ることになった。架空の番組のはずの『ナイト・オウルズ』だが、視聴率のことしか頭にない司会者ジャックを演じた デヴィッド・ダストマルチャンらの好演もあって、あたかも実在した番組のようなリアリティーがある。いとうせいこう、井桁弘恵らが出演した『このテープもってないですか?』(BSテレ東)などのフェイク番組も話題となったが、ケアンズ兄弟はホラー映画としてより踏み込んだ内容で楽しませてくれる。『エクソシスト』(73年)や『キャリー』(76年)といった往年のホラー映画の洗礼を浴びて育った世代や、数字に追われるマスメディア関係者なら見逃せない作品だろう。
最後にもうひとつ。視聴率アップのために悪魔まで出演させようとする本作の主人公ジャックだが、同じことを撮影中に実際にやった日本のドキュメンタリー映画がある。エクストリーム配給の『新・三茶のポルターガイスト』(24年)だ。オカルト好きな人たちの間で評判になっていた三軒茶屋の心霊ビルの一室を密着取材したもの。前作『三茶のポルターガイスト』(23年)では、実際に怪奇現象が次々と起きていることを映像に収めた撮影クルーたちは、続編『新・三茶のポルターガイスト』ではよせばいいのに問題の一室で本格的な降霊術を始めてしまう。「前作以上にすごい映像を撮りたい」という撮影クルーたちの悪ノリを超えた、映画人の業のようなものを感じさせ、ゾッとしつつも目が離せない。
悪魔はすでに放たれ、世界は混沌へと向かっているのかもしれない。リアルとフェイクのボーダーも消え、善と悪の境界もすっかりあやふやになってしまった。残されたのは、面白いか面白くないかという価値基準だけ。ある意味、今ある社会も享楽だけを追い求める悪魔的世界にすでになってしまっているのかもしれない。
『悪魔と夜ふかし』
監督・脚本・編集/コリン・ケアンズ、キャメロン・ケアンズ
出演/デヴィッド・ダストマルチャン、ローラ・ゴードン、フェイザル・バジ、イアン・ブリス、イングリット・トレリ、リース・アウテーリ
配給/ギャガ PG-12 10月4日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開
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