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河崎実監督が新作を撮っていれば世界は安心 幸せなご当地ムービー『サイボーグ一心太助』

 映画は明るくて、笑えるものがいい。そんな人におススメしたいのが、河崎実監督の新作映画『サイボーグ一心太助』だ。日々の仕事に追われて疲れた脳みそを心地よくリフレッシュさせてくれる、上映時間71分の爽快系SFアクションコメディとなっている。

 主演は『仮面ライダーリバイス』(テレビ朝日系)で仮面ライダーデモンズを演じた小松準弥、ライバル役は『手裏剣戦隊ニンニンジャー』(テレビ朝日系)のアカニンジャー役で主演した西川俊介、と特撮ドラマ出身のイケメン俳優たちを起用。さらにNHK少年ドラマシリーズ『七瀬ふたたび』の恒夫役のほか、実相寺昭雄監督作品の常連だったベテラン・堀内正美が天才科学者役で出演している。

 時代劇や講談の世界でおなじみ、江戸時代の超威勢のいい魚屋・一心太助の子孫が主人公だ。愛知県幸田町で暮らす一心太助(小松準弥)は地元企業「超伝工業」に勤めるサラリーマンだが、先祖の血筋を受け継ぎ、困っている人を見ると放っておけない性格。そそっかしいのが玉に瑕な、町の人気者だった。

 AIのエキスパートである新任社員・宮田仲子(中川知香)を連れ、太助が幸田町内を案内したところ、2人はなんかいいムードに。そんな矢先、企業間の争いに巻き込まれ、太助は瀕死の重傷を負ってしまう。太助の上司である大久保専務(堀内正美)の蘇生手術によって、福祉用サイボーグ「ワンハート」として蘇る太助だった。

 サイボーグとしての人間離れした能力を人助けのために活用する太助だったが、かねてからライバル関係にあった岩山(西川俊介)が戦闘型サイボーグ「ロックワン」として現れる。岩山のバックには、死の商人「大鷲コンツェルン」がついていた。ワンハートは、ロックワンとの対決を余儀なくされる。

太助は最新のナノテクノロジーでサイボーグ「ワンハート」(画像中央)に変身する

仏壇界のニューウェーブデザイナーが製作総指揮

 なんとまぁ、明朗なストーリーではないか。江戸時代初期に「天下の御意見番」として名を馳せた旗本・大久保彦左衛門(幸田町の偉人)と彦左衛門にかわいがられた太助の物語を、現代に移し替えた「町起こしムービー」なわけです。キャストのみんなは楽しげにご当地ヒーロー映画に参加しており、地元の人たちもエキストラとして大挙出演。最後はボリウッド映画ばりに、みんなで歌って踊ってという底抜けに明るい映画です。こんなに楽しいご当地映画がつくられるなんて、幸田町の人たちがちょっとうらやましく思えてくる。
 
 本作のプロデューサーを務めているのは、幸田町の仏壇職人である都築数明(つづき・かずあき)氏。伝統的な仏具づくりの技を受け継ぐ一方、ウルトラ木魚、ウルトラマンの漆塗りフィギュア、廃棄仏像によるオブジェなどを生み出し、仏壇業界にニューウェーブを起こしている注目のデザイナーだ。

 幸田町商工会の副会長でもある都築氏は、バカ映画の巨匠・河崎実監督とタッグを組み、大久保彦左衛門の末裔を主人公にした『超伝合体ゴッドヒコザ』(2022年)、ヨネスケ主演のアブダクションもの『突撃!隣のUFO』(2023年)を制作。本作を含めて、幸田町バカ映画三部作となる。地方の小さな町で、こうした商業映画が次々とつくられていることは、もっと知られていいと思う。

ベテラン俳優の堀内正美が楽しげに天才科学者を演じている

バカ映画を撮り続ける河崎実監督の一貫性

 それにしても、河崎実監督の作風のブレのなさはすごい。オリジナルビデオ映画『地球防衛少女イコちゃん』(1987年)で、美少女&SFというジャンルをいち早く開発。以降、徹底してスチャラカな内容のコメディ作品を量産し続けている。

 劇場監督デビュー作となった『いかレスラー』(2004年)からは、“映画界の風雲児”叶井俊太郎プロデューサーと組み、筒井康隆原作の『日本以外全部沈没』(2006年)、モト冬樹主演作『ヅラ刑事』(2006年)などのヒット作を放っている。全国一斉公開された怪獣映画『ギララの逆襲/洞爺湖サミット危機一発』(2008年)では、ヴェネチア国際映画祭にも参加した。どれも、河崎監督でなければ撮られることのなかった、おかしな映画ばかりである。

 河崎監督の作品は観るのも楽しいし、河崎監督を取材するのも楽しい。取材の現場はいつも笑いが絶えない。たびたび河崎作品を取材したおかげで、『日本以外全部沈没』公開の際には、テアトル新宿の狭い控え室で筒井康隆先生を単独インタビューさせてもらう僥倖にも恵まれた。

 低予算を苦にせず、長引く不況にもめげることなく、高尚な文芸作品に走ることもなく、常に笑える娯楽作をコンスタントに撮り続けている河崎実監督。2025年4月には『松島トモ子 サメ遊戯』の公開も控えている。こんな映画監督、世界中を探してもどこにもいない。

最新テクノロジーを利用した福祉対策という現実的な問題も盛り込まれている

神々しささえ感じさせた2人の対談

 いつも明るい河崎監督だが、ひときわ印象に残っているのは、2024年2月16日に亡くなった叶井俊太郎プロデューサーの最後の著書『エンドロール』(サイゾー社)での2人の対談だ。『いかレスラー』の企画書を持って現れた河崎監督に、初対面の叶井プロデューサーは即座に「やりましょう」と映画化を即決した出会いから、『コアラ課長』(2006年)や『ロバマン』(2019年)など次々とバカ映画をつくり続けた思い出話に花を咲かせている。

 末期がんで「余命半年」と医者から宣告されている人を相手にした対談とは思えない、おかしくて深刻さのまるでないトーク内容だった。人生の最晩年期に、バカ映画の数々を笑って振り返る叶井プロデューサーと、それに応える河崎監督が、神々しいものにさえ感じられた。

 河崎実作品はいつだって、バカバカしい。そんな河崎作品を観ていると、自分が悩んでいることさえもバカバカしく思えてくる。キャストもスタッフも、みんな心をひとつにして、全力でバカ映画制作を楽しんでいる。バカ映画=河崎実ワールドの一員に、映画を観ている自分もなれたような喜びが満ちてくるのだ。

 河崎実監督がおかしな新作映画を撮り続けている限り、世界はまだ大丈夫。『サイボーグ一心太助』は観る者に、そんな安心感を与えてくれる。
 

『サイボーグ一心太助』
製作総指揮/都築数明 監督/河崎実
出演/小松準弥、西川俊介、中川知香、ぶっちゃあ、大川豊、佐野光洋、堀内正美ほか
配給/エクストリーム 1月24日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿ほか全国ロードショー

(c)「サイボーグ一心太助」プロジェクト2024


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